【模擬症例検討】経験者に聞く!“糖尿病の教育入院”とは?

糖尿病は自覚症状が乏しいため、患者さんにとって治療の重要性を理解しづらい疾患ですが、放置すると血管や神経がダメージを受け、治療しても治らない重大な合併症を引き起こしてしまいます。

“教育入院”は、糖尿病の患者さんが健康な生活を送っていくためにとても重要です。

今回は模擬症例を参考に、教育入院について考えました。実際に携わった経験のある看護師と薬剤師に対し、未経験の作業療法士による質問形式の座談会です。

参加者

 永澤(Ns)
看護師9年目。内分泌代謝内科で勤務経験あり。大学院修士課程を経て、現在は看護学科の教員として勤務。

 S.O(Ph)
卒後7年目。病院薬剤師としては4年目。糖尿病外来がある病院で勤務中。インスリン・SMBG・FGM・CGMの導入補助などを行っている。

 坂場(OT)
精神科作業療法士5年目。精神科デイケアにて糖尿病を併発している患者さんと奮闘中。教育入院は未経験。

模擬症例

患者情報

職業:先物取引関係。朝早い出社と夜遅い帰宅で生活リズムが不規則になりがち。会社近くのマンションで一人暮らしをしている。朝食は抜くことが多く、昼食は仕事の合間に外食。夕食は仕事後なので23時前後になることが多く、コンビニやスーパーの弁当中心。
既往歴:とくになし
家族歴:父が2型糖尿病(インスリン使用)
副作用・アレルギー歴:なし
嗜好:喫煙なし/飲酒は付き合い程度(週に2~4合)

患者コメント

・食事については、あまり気にしていなかった
平日は仕事が最優先になるので、忙しい。相場によっては休日出勤もある
・休日は甘いものが食べたくなる。ゴロゴロ過ごすことが多く、あまり出かけない
・父が糖尿病なので、ある程度知識はある。でもまさか自分がなるとは思っていなかった
・父がやっているインスリンはやりたくない。そうなったら終わりだと思う
・家族には心配をかけたくない。とくに母には糖尿病のことを言いたくない
・最近、足がしびれる感じがする。歳かなと思っている

バイタルサイン・臨床検査値

身長:167cm、体重:77kg、血圧:140/81mmHg、脈拍:71bpm、体温:36.5℃、FBS:147mg/dL、HbA1c(NGSP):11.4%、AST(GOT):94IU/L、ALT(GPT):161IU/L、γ-GTP:60IU/L、TC:323mg/dL、TG:406mg/dL、HDL-C:42mg/dL

※今回の症例検討に用いたデータは本記事に使用するための架空のもので、実在する事例・症例はありません。

※本座談会についての意見やアイデアを読者の皆様から募集しております。Twitterで本記事を引用の上、コメントを書いてみてください!

教育入院にはさまざまな職種が関わっている!

坂場(OT)

糖尿病の教育入院ってどのようなスケジュールなのですか?
病院によってさまざまですが、数日~数週間の期間が定められています入院各種検査を行い、血糖コントロールの状態や合併症の有無などを確認して、患者さんごとに指導行います

永澤(Ns)

坂場(OT)

具体的にはどんな指導をするんですか?

例えば、看護師からは、自己血糖測定のやり方や、日常生活での注意点などについて説明をします

永澤(Ns)

薬剤師からは薬物療法、理学療法士や作業療法士からは運動療法、管理栄養士からは食事療法など、さまざまな職種から説明と指導していきますね。ちなみに、入院中の食事はカロリー計算された治療食なので間食はもちろんできません

S.O(Ph)

坂場(OT)

いろいろな職種が関わりますね。食事の制限もあるし、説明や指導ばかりで大変そうですが、患者さんはどのように過ごすのですか

特別制限はないので、結構自由に過ごせますよもちろん、教育入院中に血糖コントロールを是正したり、薬の調整をしたりすること目的です。

永澤(Ns)

坂場(OT)

ふむふむ

しかし、それが第一というよりは、患者さん本人が、血糖を適正に管理する方法を学び、今後の生活をどうやって過ごすのか、目標を持って帰ってもらうのが一番かなと思っています。

永澤(Ns)

コミュニケーションで始める情報収集

坂場(OT)

教育入院してきた患者さんに対しては、どのように関わるのですか?

薬剤師としては、今まで使ってきた薬剤の量や種類、変更時期やその時の服用状況などを確認します。例えば、入院前に服用を忘れがちだった患者さんは入院してきっちり服薬管理される低血糖になることがあるので、注意する必要があります今回は40代の患者さんなので大丈夫だと思いますが、腎機能の低下や脱水がないかなどもチェックしておきたいポイントです。

S.O(Ph)

看護師としては、まず患者さん本人の気持ちを聞きますね。本症例の場合、仕事が忙しいなか、休みをって教育入院をされています。そこには、「インスリンはやりたくない」というご本人の思いがあるからですよね。そういった意思を共有したうえで、退院までの目標を一緒に考えていきたいです。日々、患者さんと過ごす時間の多い看護師だからこそできることだと思っています

永澤(Ns)

坂場(OT)

まずはコミュニケーションから、情報収集を始めですね。

そうですね。あと、患者さんへの聞き取りからは“レディネス(前提となる知識や経験、心身の準備性)”も知ることできます。

永澤(Ns)

坂場(OT)

今回の患者さんでは、どう考えればよいのでしょうか?

この患者さんは、食事管理不十分で血糖コントロール不良ですがインスリンに対してはネガティブなイメージを持ってしまっていますその気持ちを逆手に取って、“インスリン導入を防ぐために何が必要なのか”という観点で指導に移れるので、やはり患者さんのこれまでの経験や意思は早めに把握しておきたいです

永澤(Ns)

坂場(OT)

作業療法士としては、食事や仕事の時間をどうマネジメントしていくかという観点から教育入院に関われると感じました。管理栄養士さんと相談して調理訓練の提案などできそうです。

神経症状へのアプローチはまず自覚症状の確認から

坂場(OT)

この患者さん「最近、足がしびれる感じがする」と訴えていますこれは、糖尿病の合併症による神経障害だと考えられますが、このような自覚症状に気付く患者さんは多いのですか?

しびれ症状を自覚していることは案外多いと思いますが、本症例のように「歳かな?」などと深刻に捉えていない例もあり神経症状については質問票などを用いてスクリーニングをする必要があります。

永澤(Ns)

坂場(OT)

なるほど。

また、血糖コントロール不良の患者さんには、今後糖尿病が進行すると身体にどう影響していくのを教育する必要がありますね

永澤(Ns)

坂場(OT)

神経障害も、初期症状では日常生活に支障がないでしょうから、甘く考えているのかもしれませんね看護師さんは、患者さんに神経症状があるとき、どのようなケアをするのですか?

まずは、日常生活での注意事項を患者さんと一緒に確認していきますえば、フットケアの重要性ですね。神経障害により痛みなどの感覚が鈍くなりますが、足はとくに異変に気付きにくい部位なので、怪我や細菌感染は細心の注意が必要です。患者さんが自覚症状を訴えたときは、介入のチャンスだと思います教育内容日常生活の改善につなげていきたいです

永澤(Ns)

退院後の生活を見据えたゴール設定

坂場(OT)

教育入院は、何をゴールに設定しているんですか?

僕は、薬剤の服用目的と低血糖対策をしっかりと理解してもらうことと考えています。あとは医師の指示がメインになると思いますが、シックデイの対応についても可能な限り知っておいてしいですね。

S.O(Ph)

坂場(OT)

シックデイ…とは?

糖尿病患者さんが風邪や胃腸炎などで体調を崩し、通常の食事が摂れない状況のことです。普段は良好な血糖コントロールを保てている患者さんでも、服薬ができなかったり、適切なカロリーを摂取できなかったりして、コントロール不良になるリスクが上がるんです。

S.O(Ph)

坂場(OT)

そんな状況があるのですね。

また、シックデイでは、薬剤の種類によって対応が異なるため、注意が必要です自分が今飲んでいる薬について、患者さん本人、またはご家族十分理解してもらわなければなりません

S.O(Ph)

坂場(OT)

なるほど。患者さんの自己管理には疾患・治療への知識と理解が不可欠ですね。

看護師としてはまず、患者さん自身が考える治療への意思に添えるようサポートします。そのうえで、今後の生活における具体的な目標を見つけてもらうことがゴールでしょう教育入院するということは、何かがうまくいっていないということですから、患者さんの現状を一緒に確認して、どうしたら病気の進行を防げるのか、どうしたら血糖コントロールが改善するのか、生活スタイルに合わせて考えていきたいですね。

永澤(Ns)

坂場(OT)

作業療法士としても、生活スタイルの改善はかなり重要と思います。生活えることは多少のストレスにもなりますが、変えないと現状は変わらないですよね必要に応じて、自宅訪問もやりたいです

そこまでするんですか!

永澤(Ns)

坂場(OT)

自宅環境を見るという目的もありますが、患者さんの生活環境確認したいです。近くにあるスーパーやコンビニを実際に見に行って、どんな食材を買えばいいかを話し合ったりもできますよ!

教育入院の成果は治療へのモチベーションアップが鍵!

坂場(OT)

患者さんが自己管理を完璧に行うのはかなりハードルが高い印象があります。実際に、教育入院はどの程度の効果があるのでしょうか?

それは、本当に人それぞれですねまず、教育入院に至った経緯が患者さんによって違いますし、気持ち的な問題やコントロール状況、糖尿病の進行度合いもさまざまです

永澤(Ns)

坂場(OT)

ふむふむ

なので、教育入院中に自分で努力して自己管理を確立できる患者さんもいれば、医療者の話をあまり聞き入れてくれない自主性の低い患者さんもいます。教育入院の共通プログラムは、複数の患者さんを集めて集団で指導しますが、それだけでなく、患者さん個人に合わせたアプローチが重要だと感じますね。

永澤(Ns)

坂場(OT)

一概には言えないんですね

患者さんのなかには「教育入院を受ければ何とかなる!」と思っているような人がいます。でも、教育入院は、自分の病気としっかり向き合ってもらうためのきっかけでしかないんですよね。入院期間中をどう過ごして、退院後の生活をどのように再構築するか、患者さん自身に考えてもらわなくてはいけません。自分の力で実践していくことが必須ですかなりのエネルギーを要するので、患者さんには焦らずに少しずつ変えていくように、と伝えています

永澤(Ns)

坂場(OT)

患者さん自身の力が重要ですね。

また、服薬と受診の継続を退院時に必ずお願いします定期的に様子を確認できれば何か問題があってもすぐに処することができますが、病院に来なくなってしまうことが1番怖いです。患者さんが外来受診時に病棟に顔を出したくなるような関係や雰囲気作りを目指しています

永澤(Ns)

あと、教育入院は治療の動機付けになと考えています

S.O(Ph)

坂場(OT)

動機付け…モチベーションを上げるということですか?

はい。今までコントロール不良だった患者さんに、いきなり完璧な血糖コントロールを求めるのはお互いに苦しいものがあります。まずは、“間食を減らせた”“インスリン手技がうまくできた”など、ちょっとした成功体験をしてもらい、できたところはしっかり評価する。患者さんとしても、悪い気はしないでしょうから、それが治療のモチベーションにつながっていきますよね。僕は、患者さんがうまできているポイント見落とさないように心がけています

S.O(Ph)

坂場(OT)

なるほど。医療スタッフの声かけや関わり方は、患者さんのモチベーションにすごく影響しそうですね。情報をスタッフ間で共有していくと、より連携つながる気がします。

まとめ
糖尿病は長期に渡って病気と向き合っていかなければなりません教育入院期間は短いですが、退院してからの生活はずっと続きます。患者さんが抱えている“疾病負荷”医療者側も理解して、根気強く関わっていく必要がありますね。患者さんに何があっても、一緒に伴走していくという心意気を、医療者には持ってほしいと思います

※今回の症例検討に用いたデータは本記事に使用するための架空のもので、実在する事例・症例はありません。

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