「タイムアウト」から考える多職種連携と医療安全対策

参加者

松田(CE) クラーク(RT)

喜多(PT) かなこ(Ns)

Fats(Ph) 白石(Ns)

タイムアウトって何?

Fats(Ph)

この前、手術に携わる多職種スタッフで手術前にみんなで集まって、やりとりや情報共有をすることで、オペ関連のミスや死亡事故などが有意に減少したという話を聞いて、バスケの「タイムアウト」みたいだなぁ~って思ったんだよね。

白石(Ns)

それって、オペ前に行う「タイムアウト」「術前の休止(surgical pause)」のことだね!手術の執刀医や麻酔医、看護師などがいっせいに手を止めて、患者氏名・術式・手術部位(左右要確認)と、予想される重大な事象などを確認するやつ。
結果が公表されてから、「タイムアウト」がいろんな施設で取り入れられ始められたよね。その手法を応用して、多職種で一つのことをその場で確認するっていうのは、たしかに何かポジティブな効果がありそう!

クラーク(RT)

喜多(PT)

ほえ〜、それは気になる。タイムアウトに関する論文やニュースとかで詳細を見れるもの、あるかな?
これかな。手術する前にスタッフみんなで手を止めて、数分間だけ患者さんの情報や手術の内容をチェックリストを使って確認し合うっていう内容だよ。合併症や死亡の平均数が35%も減少したとか。

Fats(Ph)

松田(ME)

タイムアウトしよう!と発信してるのはWHOだね。
WHOだったのか!あんまり方向性としては検討してなかったけど、ワークショップとかするときにも活かせるのかな。

喜多(PT)

白石(Ns)

手術室やカテ室でやっているイメージだよね。タイムアウトは多職種連携や医療安全対策などが絡んでくると思うんだけど、医療安全管理者の松田さんとか詳しいだろうか。
タイムアウトのほかに、途中で情報共有が必要になったときにはハドル」(アメリカンフットボールで、次のプレーを決めるフィールド内での作戦会議)、チェックリストを全員で確認する「ブリーフィング」(事前検討)、事後検討の「デブリーフィング」などもあるよ。

松田(ME)

かなこ(Ns)

へぇ~!
まさに『TeamSTEPPS(チームステップス)』のチームのパフォーマンスを高めるコミュニケーションが必要になる場面で活用するものだよね!TeamSTEPPSはざまざまな手法の集合体の呼び名だからわかりづらいかもしれないけど、その中身のひとつひとつは簡単なものなんだよね。ちなみに米軍が作ったものなんだよ。

松田(ME)

喜多(PT)

TeamSTEPPSはアメリカでできたチーム医療の質を上げるやつよね!名前だけ知ってるくらいだったから、松田さんの話を聞いてようやくつながった!これも一要素なんやね〜。

現場でのタイムアウトは?

かなこ(Ns)

手術室看護師として働く身としては、実際のタイムアウトはけっこう適当なところはあるかもね。うちだけなのかもしれないけど、何かしながら言い出す医師もいるし…、困ったもんだぜ。
それはあかん例やな…(苦笑)。毎回同じようなことをやって染み込んでくると、うまく実践できるようになってくるんかな。

喜多(PT)

かなこ(Ns)

うーん。やっているときもあるけど、バタバタするオペだと…。もう器械出しの準備も外回りの準備もままならん。もうね、やらない医師は大体決まっているのよ。「あなただけのタイミングでタイムアウトすんな」ってなる。
なんだか想像つくね。みんなやっているからって、形だけ導入しても意味ないと思う。そのピリピリしたタイムアウトのせいで、初っ端から空気が悪くなってしまって、さらに状況が悪化してしまう可能性もあるよね。でもタイムアウトって、別に医師がやる必要はない?そういうリーダーシップみたいなのが苦手な人はいそうだし。

白石(Ns)

かなこ(Ns)

タイムアウトは医師がメインで行うことが多いけど、結局は看護師がイニシアチブをとっているよね。手術の時は毎回するから、当たり前の行為でなんとなくなあなあになりがちなときもあるけど、やっぱりみんなで患者さんの情報共有ができる場として大事だよな〜と実感する。
そうなんだ。調べてみたら、患者確認や部位確認だけでやった気になる誤解があるようで、「タイムアウト」という言葉を使用しない流れもあるみたいだね。まさしくかなこさんのところのようなことが起きちゃっているということか…。

白石(Ns)

松田(ME)

この資料は、WHOが提唱した後に日本の医療安全全国共同行動が作ったもので、あくまでも「呼び方」の問題で、安全のために実施する必要のある大切なことを伝えていることは同じだね。

タイムアウト本来の目的をしっかり果たすために

白石(Ns)

かなこさんの話にあったみたいに、なあなあになりそうな場合、ちゃんとやらない人に対してどうしたらいいかな?
私の場合だけど、まだ準備できていない時は、はっきりと「先生待ってください」って言う!だけど、その時はたとえどんなにイライラしていても態度は出さずに、「先生お待たせして本当にごめんなさい」という気持ちで言うようにしている(できない日も時々あり…)。あとは、日頃からある程度先生との関係性はよくしておく。イラっとした態度を出さないとか何かあったときの言い方とか、些細なことでも日頃の関係性がこういう時に相手が待ってくれるかどうかに関わる気がする。

かなこ(Ns)

Fats(Ph)

なるほど〜。やっぱり一番上の立場の人にしっかりと方針を示して、チームとしてこう動く!と意思表示してもらうのが前提にあると思う。それでもなかなか従ってくれない人っているとは思うけど、チームとしてやる以上は対等な意見交換と同じくらい、全体を統括する人間が必要だと思うなぁ。
雰囲気を作るって大事だよね。オペではメインとならない放射線技師でも、「タイムアウトするよ〜」と声かけがあったら、「ハイ!」と声に出してタイムアウトをする空気感を作るようにもっていく。そうすると、みんな嫌な気持ちにならずに移行できるんじゃないかなって考えることはあるね。

クラーク(RT)

松田(ME)

みんなが言っているように、結局は『コミュニケーション』が一番大切なんだと思う。働きやすい環境を作ることや、今話題の『心理的安全性』なんかも、やっぱりコミュニケーションが肝になっているんだよね。

タイムアウトはオペ以外の場面でも活用できるか

白石(Ns)

タイムアウトの考え方や方法の一部を、他の場面や職種でも活かしていけるのかな?手を止めて複数人で事前確認をするというのは、看護師の仕事でも似たようなものはある気がするかな。薬剤投与などのダブルチェックも手を止めて名前や薬剤名・指示量など確認するし、うちではやっていないけどウォーキングカンファやお昼のショートカンファでチームの動きを再確認するみたいなことはあるよね。
タイムアウトとは少し違うかもしれないけど、がん治療でもこの人は完治を目指しているとか、延命させるために毎週化学療法ができるコンディションにする必要があるなどの方針を事前に共有することって大事。特に最期はどこでこうやって迎えたいかなど、最近はアドバンス・ケア・プランニング(ACP)という考えも重視されているからね。「治療をどこに着地させるか」というのをスタッフで共有しておく仕組み作りは大事だと思う。時間軸が手術より長いので、かえって行うタイミングが難しいかもしれないけれど。

Fats(Ph)

クラーク(RT)

「一度立ち止まって俯瞰しましょう」というのも似た行動だなって思う。複数人で議論が活発になってこだわりがぶつかったり脱線したときも、「この検査において、一番の目的はなにか?」「そもそも患者さんの治療方針はなにか?」などを、一度ストップして状況整理すると議論が帰結しやすいだろうね。

チームとして行う『確実な確認』

松田(ME)

医療安全としても、『確実な確認』のためにはやっぱり一瞬でもしっかりと立ち止まることは必要だと思う。「〜しながら」だと確実な確認は難しいよね。みんなで『確実に確認』を行う手段として、タイムアウトはどの場面でもやっぱり有効かな。
みんなの話を聞いていて、「あれっ」と思っていることや「共有したいけど…」となったことを素直に遠慮せず言えるってことが、チーム医療としての第一歩なんだよな〜と、改めて思った!

Fats(Ph)

クラーク(RT)

タイムアウトって、いわば「急がば回れ」なんだろうね。災害が起きた時とかも、焦っても一度状況確認をしたほうが救助も確実に行えるし…。昔から言われていることが、現在にもつながってるんだなとしみじみ思う。「タイムアウト」って普段使わない人もいるだろうけど、大事なことだから、今一度その意義を認識して医療の安全をみんなで作りあげていけたらいいね。