今回は知っているようで知らない鎮痛薬の話。リハビリ職は、痛みがあってリハビリを嫌がる患者さんに困ることが多いようです。
そこで、鎮痛薬とリハビリとの関わりについて、現役薬剤師に相談してみました。待っていたのは、薬学の深淵? 皆さんも一緒にのぞいてみましょう!
参加者
イサミ(Ph)
薬剤師5年目、主にがん性疼痛の患者さんに関わることが多い。
須藤(OT)
作業療法士11年目、整形外科術後の痛みについて多角的に勉強中。
たみお(PT)
理学療法士10年目、整形外科患者さんの痛みに対して悩みが多い。
聞いてもいいですか? 薬の名称による違い
こんなこと聞いたら怒られちゃうかもしれませんが、薬の名前って一見同じに見えて、実はちょっと違うことがありますよね。以前から疑問に思っていたんですが、“ロキソニン®”と“ロキソニンS®”って、何が違うのでしょうか。
たみお(PT)
イサミ(Ph)
怒らないですよ(笑)。結論から言うと、その2つに関してはほぼ同じものと考えてもらって大丈夫です。含まれている成分は共通で「ロキソプロフェン60mg」です。医療用医薬品としての名前が「ロキソニン®」、市販薬としての名前が「ロキソニンS®」というだけで、作っているメーカーも同じです。ちなみに、市販薬の「プラス」とか「プレミアム」には、ロキソプロフェン以外の成分が追加で含まれているようです。
なるほど、この場合は処方薬と市販薬を区別するために付けられた商品名の違いということですね。薬の名前については、僕も困っていることがあって。病院で使う薬は、成分名と商品名が全然似ていないことが多いので、なかなか覚えられません。学会発表のときなど、スライドに服薬状況として薬の名前を載せることがあるのですが、成分名と商品名のどちらを載せるべきなのでしょうか?
須藤(OT)
イサミ(Ph)
学会など、公の場では成分名(一般名)を使うのがスタンダードですね。簡単に説明すると、医薬品のプロモーションには厳しい規制があって、商品名を使うと薬の広告や宣伝と受け取られかねないので、使わないほうが無難です。ただ、一般名が長くてわかりにくい場合などは、商品名を併記することもあります。
なるほど、学術的には成分名を用いるほうがよさそうですね。でも、現場では商品名で呼ぶことが多いですよね。薬剤師さんはそのギャップをどうやって埋めているのか、またの機会に教えてください!
須藤(OT)
鎮痛薬を使っている場合のリハビリ効果はどう考えるべき?
理学療法士は、整形の患者さんを見る機会が多いのですが、プレガバリンとトラマドール・アセトアミノフェン配合錠を組み合わせて飲んでいる患者さんをよく見ます。どのような意図で処方されているのでしょうか?
たみお(PT)
イサミ(Ph)
まず特徴について説明しますと、プレガバリンは、主に神経が傷付くことで生じる痛み(神経障害性疼痛)に対して、トラマドール・アセトアミノフェン配合錠は、怪我や炎症など、痛む部位や原因が比較的明確な痛みに対して使用することが多いです。この2種類は、ロキソプロフェンなど、一般的に使われる鎮痛薬では効果が不十分な痛みに対して使用されます。
整形に入院中の患者さんだと、外傷による痛みに対してトラマドール・アセトアミノフェン配合錠を使っていて、後遺症による痛みや治療過程で発症した複合性局所疼痛症候群に対して、プレガバリンを追加したというような流れが考えられますね。
須藤(OT)
イサミ(Ph)
そうですね。同時に処方されることもあるかもしれませんが、薬の効果をみるために、基本的には1種類から始めて、数日間経過をみて追加することが多いと思います。
たしかに、同時に飲んでしまうと、どっちが効いたのかわからないですよね。リハビリでも、疼痛に対する介入効果を検証するときに、同時期に鎮痛薬の服用があると、リハビリによって改善したのか、薬によって改善したのかわからなくなります。
たみお(PT)
イサミ(Ph)
リハビリ前に頓用(臨時)で薬を服用した場合は、リハビリと薬どちらによる効果なのかという見極めは難しいかもしれません。ですが、定期的に痛み止めを飲んでいる患者さんなら、違う考え方ができると思います。薬を毎日決まった時間に飲んでいる場合、体内の薬物濃度は一定に保たれているので、鎮痛効果は頭打ちになっていると予想されます。その状態に対して効果が得られたなら、それはリハビリによる疼痛改善と考えてよいと思います!
それならよかったです。あと気になるのが、患者さんが痛みをもっと抑えたいと思ったとき、痛み止めを飲む量を増やしても大丈夫なんですか? たまに、自己判断で指示されている用量より多く飲んでしまう患者さんがいるのですが。
たみお(PT)
イサミ(Ph)
実を言うと、痛み止めの量は、限度量を超えなければ問題ありません。ものによっては調節の幅が広いので、多めに飲んでも大丈夫な場合もありますが、医師の指示を守らないのは推奨できません。とくに、腎機能が低下している人や高齢者では注意が必要です。鎮痛効果が足りない場合は、増量か、薬剤の種類を変更をするか、作用の異なる薬剤を併用するのがよいと思いますが、いずれにせよ医師に相談するべきですね。
では、自己判断で薬を調節するのはよくないということですね。鎮痛薬についての理解が深まってきました!
たみお(PT)
鎮痛薬の種類に応じたリハビリ介入ができる!
鎮痛薬の特徴に合わせて、リハビリ介入ができたらよさそうですよね。例えば、よく使われるNSAIDs(非ステロイド性鎮痛薬)を服用している人に対して、何か工夫できることはありそうですか?
たみお(PT)
NSAIDsをまとめた表を作ってみました。NSAIDsは、1日何回飲む必要があるか、つまり「用法」を見れば、作用時間を推測できそうです。
須藤(OT)
表:よく使われるNSAIDs(正確なデータは添付文書をご覧ください)
イサミ(Ph)
そうですね。NSAIDsの効果は、少なくとも半減期の4〜5倍の時間が経過するまで続くと言われています。例えば、短時間型の半減期は1~2時間なので、持続効果は4~8時間程度と考えられます。また、効果が一番強い時間は、最高血中濃度到達時間(Tmax)から、1回の半減期(T1/2)が経過するまでの間を目安にすればよいと思います。
ということは、リハビリ介入の際、短時間型のNSAIDsを服用している患者さんは、服用から1時間後に開始すると、痛みの少ない状態で運動ができるかもしれないということですね。中間型や長時間型を服用している場合は、朝の服用により日中は鎮痛効果が持続すると考えられるので、介入時間を細かく検討する必要はなさそうです。
須藤(OT)
たみお(PT)
先ほどの表に加えて、薬の作用点を調べてみました。NSAIDsは、主に痛みや炎症を強める「プロスタグランジンE2(PGE2)」という物質の生成を抑制して、鎮痛効果を発揮するようです。PGE2の生成にはシクロオキシゲナーゼ(COX)という酵素が関わっていて、NSAIDsにはこれを阻害する作用があります。また、COXにはCOX-1、COX-2と種類があって、COX-1は生体内(とくに臓器)の恒常性を保つ働きを持ち、全身の細胞に分布しています。一方、COX-2は炎症部位に発現するので、炎症性の痛みを抑えたい場合は、COX-2を阻害する必要があるみたいです。こうして調べてみると、めっちゃ面白いですね!
須藤(OT)
イサミ(Ph)
すまさん、薬学の深みへようこそ(笑)。補足すると、COXはNSAIDsによる副作用にも大きく関わっているんです。COX-2を阻害することで痛みを抑えることができますが、同時にCOX-1を阻害してしまうと、臓器の保護能力などが抑制されて、胃などといった消化器への副作用リスクが高まります。そのため、NSAIDsを長期に服用する必要がある患者さんでは、COX-2を選択的に阻害する薬剤のほうが、安全に使えると考えられています。このような観点で使い分けることもありますので、ぜひ覚えておいてください。
薬学って本当に深いですね! 僕にはちょっと難しかったですが、興味深い話でした。今まで、鎮痛薬の種類や服用時間で効果が違うことについてちゃんと理解していなかったので、とても勉強になりました。痛みが強い患者さんは、リハビリを拒否しやすい傾向にあるので、これからは薬剤師さんと連携をとって、鎮痛薬をうまく使えるように工夫していきたいと思います。
たみお(PT)
半減期とか最高血中濃度という言葉自体は聞いたことがありましたが、まとめることで実際のイメージがつかめました。私の病院では、セレコキシブが処方されているのをよく見るのですが、それは副作用が少ない薬として選択されていたんですね! 自分がよく関わる薬について、もっと知りたくなりました。
須藤(OT)
まとめ
薬についての理解を深めることで、医師が何を考えてその薬を選んでいるのかを推測することができるかもしれません。今回は、リハビリ職と薬剤師とのディスカッションを通して、患者さんへのリハビリをどう工夫したらいいかを考えることができました。気軽に相談し合える関係作りができたら、患者さんのためになる多職種連携につながりそうですね。