みなさんはステロイド薬についてどんなイメージを持っていますか?
炎症止めやホルモン剤といったイメージが強いかもしれません。
しかし、ステロイド薬の役割はそれだけにとどまらず、臨床現場で多くの治療に用いられています。
作用機序も複雑で、なかなか本質の捉えづらい薬剤のひとつではないでしょうか?
今回は、多職種にも知ってほしいステロイド薬の情報をまとめました。
薬剤師から見るステロイド薬とは
まず、ステロイドの正体とはいったい何なのでしょう?
一般的に、ステロイドとは副腎皮質から分泌されるホルモンのひとつです。
その中で、糖質コルチコイド(コルチゾール)作用を持つ薬剤を総称して「ステロイド薬」と呼びます。
コルチゾールはよく「ストレスホルモン」と例えられます。
野生動物が天敵から襲われたときを想像してみてください。
敵と戦うあるいは逃走するために、瞬時に体を動かせるよう血圧や心拍数が上昇します。
敵から攻撃を受けていたら、創傷部からの出血を減らすために血管が収縮します。
さらに、活動するためのエネルギー源として血糖値が上昇します。
このようにストレスに応じたさまざまな反応がコルチゾールの作用です。
他にも、炎症を抑えたり、好中球や細胞性免疫の機能障害を起こす作用もあります。
これらコルチゾールの作用を、臨床的に使いやすくした薬剤が「プレドニゾロン」や「デキサメタゾン」といったステロイド薬であり臨床現場で幅広く用いられています。
ステロイド薬の副作用と対処法
さまざまな作用を持つステロイド薬は、その分幅広い副作用がしばしば問題となります。
その中でも、とくに骨・筋肉に関わる副作用は、転倒防止対策を講じる看護師や、リハビリに従事する理学療法士にとっては重要な副作用です。
以下に、一般的に知られている特徴をまとめました。
ステロイド性骨粗鬆症
・長期ステロイド治療を受けている人は骨折しやすい
・投与後3~6ヵ月で骨折リスクはピークになると言われている
・骨芽細胞や骨細胞への骨形成低下が原因のひとつ
・腸管からのカルシウムの吸収抑制も起きる
・性ホルモンの減少に伴う副甲状腺機能亢進症も影響する
無腐性骨壊死症
・長期または高用量ステロイドの使用で出現しやすい
・大腿骨頭・上腕骨頭・腓骨近位などが多い
・基礎疾患としてSLEが多いとされる
・杖による免荷・生活指導が重要
・起きてしまったら手術療法が検討される
ステロイド筋症
・女性、高齢者、担がん患者で多いと言われている
・高用量ステロイド投与後に発現しやすい
・筋肉痛などの自覚症状は乏しい
・近位筋に低下徴候が著明
・定期的な筋力低下とトレーニングの有効性が示唆されている
これらの副作用は、薬剤師が知識として持っていても、気付くことはなかなか難しいと言えます。
そこで、看護師・理学療法士をはじめ、定期的な介入を行う職種が、副作用の早期発見において、非常に重要な役割を持っているのです。
多職種で、こういった副作用の情報を共有し、チーム全体として見守る体制作りをすることで、患者さんが寝たきりになる前に、対処できるかもしれません。
私たちの身体でも日々分泌されている
コルチゾールはストレスホルモンだとはじめに述べました。
日々の仕事などによるストレスでもコルチゾールは分泌されています。
ストレスが溜まることで体調を崩しやすくなるのは、コルチゾールによる免疫抑制が原因のひとつではないかとも言われています。
また、血中コルチゾールの持続的高値が、海馬の萎縮やうつ病への影響も指摘されているとか…。
最近では、コルチゾールが唾液や爪にも分泌・蓄積されるとわかってきて、ストレスチェックの客観的指標として活用しようという動きもあるようです。
知っておいて損はない、ステロイドにまつわるお話でした。
参考
川井眞一「ステロイド療法の極意」.じほう.2017. 194-272
田中千賀子ら「NEW薬理学 改訂第5版」.南江堂.2007. 216-223
がんの専門病院で働く薬剤師。Common diseaseや他職種領域・連携についての知識の不足とその重要性を感じてメディッコに参加。今まで薬剤師がいなかった領域でのニーズを掘り出したい。イラストとゲームとねこが好き。
Twitter:@damepharma