実習生を迎える立場から送り出す立場になった薬学教員が伝えたいこと

薬学実務実習とは、薬学生が医療現場でさまざまなことを経験できる参加型実習のことです。

医療職であれば、誰もが学生時代に経験すると思いますが、薬学部の実務実習は約2.5ヵ月(11週間)×2回が基本となっており、他職種より期間が長いと思います。

本コラムでは、実習生、実習生を迎える指導薬剤師、実習生を送り出す教員を経験した立場から、思うことを書いてみます。

そもそも薬学実務実習って?

薬学実務実習の実態を知らない他職種の方がほとんどではないでしょうか?なかなか他職種の実習内容を聞く機会もないと思うので、まずは薬剤師の実習状況をお伝えします。

薬学部では、5年生の時に実務実習を行います。薬局11週間に続いて、病院にも11週間、合計22週間の長期にわたって臨床現場での実習を行います。同じ薬剤師とはいえ、実習先が異なると業務内容も異なります。薬局と病院の双方を経験できることは、とても有意義な時間です。

僕の時は、薬局が先で病院が後など、順番までは定められてはいませんでしたが、今は知識の定着や経験の習得に差異がでないよう、順序を含めカリキュラムが統一されているようです。このように、薬学生は5年生の約半分を実習期間として過ごします。

実習生を経験した立場から

授業の一環とはいえ、実習先の病院や薬局は本当の臨床現場。患者さんからすると、実習生も医療従事者として目に映ります。

緊張感のある臨床現場での実習は、学生の医療や仕事に対する考え方を根本的に変えることもあり、この実習を機に進路が定まる人もいる、そのくらい大きな人生のイベントです。

かくいう私も、実習を経験したからこそ病院への就職を決めた1人です。勉学に後ろ向きな学生に、小さな“やる気”を灯してくれました。

指導薬剤師として実習生を迎えた立場から

とはいえ、業務の合間を縫っての指導はとても大変です。

実習によって進路を決めた自分にとって、実習生には同じような刺激を与えたい、満足のいく実習期間にして欲しい…。そんな気持ちとは裏腹に、業務と学生指導の板挟み。僕もそうだったので、とてもよくわかります。

いろいろ工夫して指導を試みましたが、教員を経験して、ある結論を導きました。

薬学教員として実習生を送り出す立場から

学生の話を聞いていると、意外にも実習に満足した感想を耳にします。

そのどれもに共通していたのは、働く薬剤師の『かっこいい姿』でした。必死で働いている薬剤師の『背中』は、薬学生にとって何よりもの刺激です。

ですので、まずは学生が後ろに付いて来れるような指導をして欲しいと思います。そして、少し落ち着いたところで、フィードバックをすると学生の理解はグンと深まります。忙しいからと、適当に課題を与えておくだけでは、学生の身にはなりません。

どんなに忙しくても、ぜひあなたが頑張っている『背中』を見せてあげて欲しいと思います。大人の必死な姿は、子どもには伝わるものです。

さいごに

実習生、実習生を迎える指導薬剤師、実習生を送り出す教員を経験した立場から、薬学実務実習に対する想いをコラムとしてまとめてみました。現在、予断の許さない感染状況で、施設の内情は逼迫していることと思います。でも、そんな時こそ未来の医療従事者を育てるため、必死で働く『背中』を見せて欲しいと切に願うのでした。

執筆者
イサミ(薬剤師/クエスト部)

6年制薬学部を卒業し、大学病院勤務を経て現在は大学教員!