介護予防の現場を覗いてみませんか~とある作業療法士の視点~

 

最近、“介護予防”という言葉を耳にする機会は増えているのではないでしょうか?

いろいろな地域で、高齢者体操教室や脳トレ教室といった取り組みをメディアで見かけることもあるかと思います。

このコラムでは、実際に介護予防に携わっている作業療法士が感じる事、介護予防に対する思いについてお話させていただきます

介護予防とは?

まずは、介護予防の定義について紹介します。

・介護予防は、高齢者が要介護状態になることの予防又は要介護状態などの軽減若しくは悪化の防止を目的として行うものである。

・生活機能(※)の低下した高齢者に対しては、リハビリテーションの理念を踏まえて、「心身機能」「活動」「参加」のそれぞれの要素にバランスよく働きかけることが重要であり、単に高齢者の運動機能や栄養状態といった心身機能の改善だけを目指すものではなく、日常生活の活動を高め、家庭や社会への参加を促し、それによって一人ひとりの生きがいや自己実現のための取組を支援して、QOLの向上を目指すものである。

引用:1)

と、されています。

つまり、いつまでも生き生きと元気に、そして医療や介護に頼らず生活していきましょうということです。

なぜ介護予防が必要か?

つぎに、介護予防が必要な理由を解説します。

一番押さえておくべきポイントは、平均寿命と健康寿命の差です

それぞれは下記のように定義されています2)

平均寿命:その年に誕生した子どもが、何年生きるかを推計したもの

健康寿命:日常生活に制限のない期間

 

この平均寿命と健康寿命の差を縮めることが重要とされています。

理由は、平均寿命と健康寿命との差が拡大すれば、医療費や介護給費の多くを消費する期間が増大することになるためです。

ちなみに、平成22年の平均寿命と健康寿命の差は、男性9.13年、女性12.68年となっています。

この期間を少しでも短くすることが急務となっており“いつまでも元気で生活する”ということが求められています。

そのためにも介護予防は必要なのです。

作業療法士が思う介護予防

厚生労働省は、これまでの介護予防の問題点として、心身機能を改善とすることを目的とした機能回復訓練に偏りがちであり、 “活動”“参加”に焦点をあててこなかったことを挙げています3)

心身機能とは身体系の生理的機能(心理的機能を含む)のこと…例えば、関節がどれぐらい動くか・筋力がどれぐらいあるか、目の見えづらさ、気分の浮き沈みの度合い…などのことを言います。

活動とは、仕事や趣味・余暇活動などの課題や行為の個人による遂行のこと、参加とは家庭や社会を含む地域への集まり、趣味の会、スポーツチームなどに関与し何かしらの役割を果たすなど、生活・人生場面への関わりのことを言います。

実際に現場で働いていても、心身機能に対するアプローチに偏っている状況があり「果たしてそれだけでいいのかな?」と感じます。

「自分たちでグループ作って体操しようかな。」「体操して身体が動かしやすくなったらから、別の事をしてみたい」「介護予防教室に来てお友達ができたから、そのお友達の紹介でボランティア始めました。」とか、の次のプロセスにつながるよう、作業療法士として関わる必要があるなと感じています

人は、何か楽しみややりがい・生きがいがあるだけで健康維持に努めるのではないでしょうか。

 

高齢期に差し掛かると、子育てを終え、仕事を一旦リタイヤ(退職)するなど、一定の役割を果たし、家でのんびり過ごすイメージがあるかもしれません。

のんびり過ごす≒閉じこもりにならないよう、何かしらに興味関心を抱くこと、新たな人間関係を築いていくことが大切と考えています

なかなか、新しい人間関係の“輪”に入るのは、勇気がいることですが、そこをサポートするのも作業療法士の役割と考えています。

ちなみに、私が個人的に感じる事ですが、介護予防教室に参加される方の大半は、自分自身に対して健康意識が高く、知的好奇心も旺盛です。

問題は、社会との接点が乏しく、人との付き合いが希薄で閉じこもりがちな高齢者をどのように拾い上げていくかです。

これに関しては、作業療法士1人の力ではどうすることもできないため、地域包括支援センターなどの他職種・他事業所と一緒に取り組んでいく必要があります。

まとめ

これからより求められるであろう“介護予防”

人生100年時代と言われている世の中、心身機能回復にとどまらず、様々な視点やかかわり方があること、機能回復訓練だけでなく、新たに生きがい作りややりがいづくりをみつける通過点かと思います。

病院や施設で勤務していると、なかなか接点のない分野かもしれません。

患者さん・利用者さんがそのサービス(病院であれば治療)が終了後のひとつの社会資源としての提案、その周りにいる家族さんへ介護予防の紹介など、目を向けていただければと思います

 

【引用】

1)厚生労働省「これからの介護予防」

2)厚生労働省「平均寿命と健康寿命をみる」

3)厚生労働省「「国際生活機能分類-国際障害分類改訂版-」(日本語版)の厚生労働省ホームページ掲載について」

 

執筆者
なほみ(作業療法士)

作業療法士14年。老健・特養勤務を経て、現在は介護予防事業に携わっています。ライブと日本酒と海外旅行が好き。

@nohomi