例えば、看護師からは、自己血糖測定のやり方や、日常生活での注意点などについて説明をします。
永澤(Ns)
薬剤師からは薬物療法、理学療法士や作業療法士からは運動療法、管理栄養士からは食事療法など、さまざまな職種から説明と指導をしていきますね。ちなみに、入院中の食事はカロリー計算された治療食なので、間食はもちろんできません。
S.O(Ph)
坂場(OT)
いろいろな職種が関わりますね。食事の制限もあるし、説明や指導ばかりで大変そうですが、患者さんはどのように過ごすのですか?
特別な制限はないので、結構自由に過ごせますよ。もちろん、教育入院中に血糖コントロールを是正したり、薬の調整をしたりすることも目的です。
永澤(Ns)
坂場(OT)
しかし、それが第一というよりは、患者さん本人が、血糖を適正に管理する方法を学び、今後の生活をどうやって過ごすのか、目標を持って帰ってもらうのが一番かなと思っています。
永澤(Ns)
コミュニケーションで始める情報収集
坂場(OT)
教育入院してきた患者さんに対しては、どのように関わるのですか?
薬剤師としては、今まで使ってきた薬剤の量や種類、変更時期やその時の服用状況などを確認します。例えば、入院前に服用を忘れがちだった患者さんは入院してきっちり服薬管理されると低血糖になることがあるので、注意する必要があります。今回は40代の患者さんなので大丈夫だと思いますが、腎機能の低下や脱水がないかなどもチェックしておきたいポイントです。
S.O(Ph)
看護師としては、まず患者さん本人の気持ちを聞きますね。本症例の場合、仕事が忙しいなか、休みを取って教育入院をされています。そこには、「インスリンはやりたくない」というご本人の思いがあるからですよね。そういった意思を共有したうえで、退院までの目標を一緒に考えていきたいです。日々、患者さんと過ごす時間の多い看護師だからこそできることだと思っています。
永澤(Ns)
坂場(OT)
まずはコミュニケーションから、情報収集を始めるのですね。
そうですね。あと、患者さんへの聞き取りからは“レディネス(前提となる知識や経験、心身の準備性)”も知ることができます。
永澤(Ns)
坂場(OT)
今回の患者さんでは、どう考えればよいのでしょうか?
この患者さんは、食事管理が不十分で血糖コントロール不良ですが、インスリンに対してはネガティブなイメージを持ってしまっています。その気持ちを逆手に取って、“インスリン導入を防ぐために何が必要なのか”という観点で指導に移れるので、やはり患者さんのこれまでの経験や意思は早めに把握しておきたいですね。
永澤(Ns)
坂場(OT)
作業療法士としては、食事や仕事の時間をどうマネジメントしていくかという観点から教育入院に関われると感じました。管理栄養士さんと相談して調理訓練の提案などもできそうです。
神経症状へのアプローチはまず自覚症状の確認から
坂場(OT)
この患者さんは「最近、足がしびれる感じがする」と訴えていますね。これは、糖尿病の合併症による神経障害だと考えられますが、このような自覚症状に気付く患者さんは多いのですか?
しびれ症状を自覚していることは案外多いと思いますが、本症例のように「歳かな?」などと、深刻に捉えていない例もあり、神経症状については質問票などを用いてスクリーニングをする必要があります。
永澤(Ns)
坂場(OT)
また、血糖コントロール不良の患者さんには、今後糖尿病が進行すると身体にどう影響していくのを教育する必要がありますね。
永澤(Ns)
坂場(OT)
神経障害も、初期症状では日常生活に支障が出ないでしょうから、甘く考えているのかもしれませんね。看護師さんは、患者さんに神経症状があるとき、どのようなケアをするのですか?
まずは、日常生活での注意事項を患者さんと一緒に確認していきます。例えば、フットケアの重要性ですね。神経障害により痛みなどの感覚が鈍くなりますが、足はとくに異変に気付きにくい部位なので、怪我や細菌感染には細心の注意が必要です。患者さんが自覚症状を訴えたときは、介入のチャンスだと思います。教育内容を日常生活の改善につなげていきたいですね。
永澤(Ns)
退院後の生活を見据えたゴール設定
坂場(OT)
僕は、薬剤の服用目的と低血糖対策をしっかりと理解してもらうことだと考えています。あとは、医師の指示がメインになると思いますが、シックデイの対応についても可能な限り知っておいてほしいですね。
S.O(Ph)
坂場(OT)
糖尿病患者さんが風邪や胃腸炎などで体調を崩し、通常の食事が摂れない状況のことです。普段は良好な血糖コントロールを保てている患者さんでも、服薬ができなかったり、適切なカロリーを摂取できなかったりして、コントロール不良になるリスクが上がるんです。
S.O(Ph)
坂場(OT)
また、シックデイでは、薬剤の種類によって対応が異なるため、注意が必要です。自分が今飲んでいる薬について、患者さん本人、またはご家族には十分理解してもらわなければなりません。
S.O(Ph)
坂場(OT)
なるほど。患者さんの自己管理には疾患・治療への知識と理解が不可欠ですね。
看護師としてはまず、患者さん自身が考える治療への意思に添えるようサポートします。そのうえで、今後の生活における具体的な目標を見つけてもらうことがゴールでしょうか。教育入院するということは、何かがうまくいっていないということですから、患者さんの現状を一緒に確認して、どうしたら病気の進行を防げるのか、どうしたら血糖コントロールが改善するのか、生活スタイルに合わせて考えていきたいですね。
永澤(Ns)
坂場(OT)
作業療法士としても、生活スタイルの改善はかなり重要だと思います。生活を変えることは、多少のストレスにもなりますが、変えないと現状は変わらないですよね。必要に応じて、自宅訪問もやりたいですね。
永澤(Ns)
坂場(OT)
自宅環境を見るという目的もありますが、患者さんの生活環境も確認したいです。近くにあるスーパーやコンビニを実際に見に行って、どんな食材を買えばいいかを話し合ったりもできますよ!
教育入院の成果は治療へのモチベーションアップが鍵!
坂場(OT)
患者さんが自己管理を完璧に行うのはかなりハードルが高い印象があります。実際に、教育入院はどの程度の効果があるのでしょうか?
それは、本当に人それぞれですね。まず、教育入院に至った経緯が患者さんによって違いますし、気持ち的な問題やコントロール状況、糖尿病の進行度合いもさまざまです。
永澤(Ns)
坂場(OT)
なので、教育入院中に自分で努力して自己管理を確立できる患者さんもいれば、医療者の話をあまり聞き入れてくれない自主性の低い患者さんもいます。教育入院の共通プログラムは、複数の患者さんを集めて集団で指導しますが、それだけでなく、患者さん個人に合わせたアプローチが重要だと感じますね。
永澤(Ns)
坂場(OT)
患者さんのなかには「教育入院を受ければ何とかなる!」と思っているような人がいます。でも、教育入院は、自分の病気としっかり向き合ってもらうためのきっかけでしかないんですよね。入院期間中をどう過ごして、退院後の生活をどのように再構築するか、患者さん自身に考えてもらわなくてはいけません。自分の力で実践していくことが必須ですが、かなりのエネルギーを要するので、患者さんには焦らずに少しずつ変えていくように、と伝えています。
永澤(Ns)
坂場(OT)
また、服薬と受診の継続を退院時に必ずお願いしますね。定期的に様子を確認できれば、何か問題があってもすぐに対処することができますが、病院に来なくなってしまうことが1番怖いです。患者さんが外来受診時に、病棟にも顔を出したくなるような関係や雰囲気作りを目指しています。
永澤(Ns)
あと、教育入院は治療の動機付けになると考えています。
S.O(Ph)
坂場(OT)
動機付け…。モチベーションを上げるということですか?
はい。今までコントロール不良だった患者さんに、いきなり完璧な血糖コントロールを求めるのはお互いに苦しいものがあります。まずは、“間食を減らせた”“インスリン手技がうまくできた”など、ちょっとした成功体験をしてもらい、できたところはしっかり評価する。患者さんとしても、悪い気はしないでしょうから、それが治療のモチベーションにつながっていきますよね。僕は、患者さんがうまくできているポイントを見落とさないように心がけています。
S.O(Ph)
坂場(OT)
なるほど。医療スタッフの声かけや関わり方は、患者さんのモチベーションにすごく影響しそうですね。情報をスタッフ間で共有していくと、よりよい連携につながる気がします。
まとめ
糖尿病は、長期に渡って病気と向き合っていかなければなりません。教育入院の期間は短いですが、退院してからの生活はずっと続きます。患者さんが抱えている“疾病負荷”を、医療者側も理解して、根気強く関わっていく必要がありますね。患者さんに何があっても、一緒に伴走していくという心意気を、医療者には持ってほしいと思います。
※今回の症例検討に用いたデータは本記事に使用するための架空のもので、実在する事例・症例はありません。
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