患者さんに寄り添うためには?多職種で話し合ってみた!

医療者にとって「寄り添う」とは何だと思いますか?「寄り添う」と言うことはできても、実践できているかはよくわかりません。 “言うは易し、行うは難し”とも言いますが、医療者として患者さんの心に寄り添えるような言動、行動を心掛けたいものです。

そこで今回は、心理面のサポートを行う機会の多い作業療法士と看護師で「どうしたら患者さんの心に寄り添えるのか」について話し合いました。

参加者

 須藤誠(OT)
作業療法士11年目。メンタルヘルス・マネジメント2種を持つ。急性期病院で働き、入院患者の不安やストレスの軽減に努めている

 小池拓馬(OT)
作業療法士10年目。急性期病院で上肢の外傷疾患を主に診療している

 福地(Ns)
看護師7年目。精神科 男子開放病棟勤務し3年目。メンタル系ナースマンとして活動中

寄り添うことが成立する3つの条件

須藤(OT)

今回は「どうしたら患者さんに寄り添えるのか」というテーマで、話し合っていきたいと思います。僕のケースで言うと、学生さんが実習のレポートで「患者さんの気持ちに寄り添えるよう心掛ける」と書いてくることがよくありました。「すごくいい心掛けだね!」と褒める反面、「でも、具体的にはどうするの?」と質問をするんです。自分でも具体的にどうするか考えてみたのですが、結構、難易度が高い技術・思考だと思うんですよね。そこで、患者さんの心理面をサポートする皆さんに改めて聞きたいです。寄り添うって、実際にはどうしたらいいんでしょうか。

そうですね……。学生がそのようなレポートを書いてきたら、自分なら「何を持って寄り添えるよう心掛けたと言えるのか」という質問をします。要は、寄り添えるよう心掛けたと言える判断材料を学生本人にも考えてもらいますね。

小池(OT)

須藤(OT)

ほう…、判断材料ですか。

そうです。何かを目標にしたときには、その効果判定とか達成基準って誰がどう見ても明確であることが必要だと思うんですよね。

例えば…

  • 会話の中で話を遮らずに聞けた
  • 患者が話してくれた思いに対して共感する態度を示し、さらに深掘りできる質問をした

など、何でもいいので、自分なりの達成基準を書いてもらいます。

小池(OT)

須藤(OT)

熱いですね!

ありがとうございます(笑)。僕が1番気を付けているのは、患者さんに興味を持つことでしょうか。

小池(OT)

須藤(OT)

興味を持つとは…?

患者さんと一回関わった程度だと、寄り添うことは難しいと思っています。患者さんと複数回関わり、信頼関係ができて初めて、本当の意味で寄り添うことが可能になると思いませんか? では、どんな時に患者さんが僕たち医療者を信頼してくれるのかを考えてみると、僕は3つのタイミングがあると考えました。

小池(OT)

須藤(OT)

3つ! それは何ですか?

こちらです。

小池(OT)

  1. 患者さんが安心できる環境だと感じたとき:医療者は、患者さんがどのようなことを思い、悩んでいるかを知ることから、具体的なアプローチができるようになります。まずは患者さんが自分の気持ちを表に出せる環境を整えるところが始まりです。
  2. 患者さんが抱えている苦痛・不安・不満などを、医療者が受容してくれると感じたとき:患者さんは入院直後だと混乱していることもあり、情報過多で医療者の姿勢を気にする余裕がない場合もあります。落ち着いたときに、改めて医療者が患者さんを理解しようとしているという姿勢を伝えることが大切だと思います。
  3. 患者さんが以前に話した内容を、覚えてくれていたとき:患者さんにとっての医療者は唯一の存在です。患者さんは、自分のことを知ってほしいし、覚えていてほしいと感じているはずです。
この3つを満たすには、目の前の患者さんに対して興味を持って接することが近道なんじゃないかと思います。

小池(OT)

須藤(OT)

患者さんが自分の気持ちを表に出しやすい環境はわかりますが、2つ目は、患者さんのタイミング次第ということでしょうか?

そうそう、そうです。だから僕自身、普段からなるべくその姿勢を見せられるように意識して、患者さんに接しています。

小池(OT)

須藤(OT)

素敵です。日頃から真摯に向き合う姿勢は大切ですね。

患者さんの気持ちを完全に理解することはできない

須藤(OT)

福地さんは精神科の看護師として働いてますよね。寄り添うことについて、どう考えますか。

患者さんに「興味を持つ」という、小池さんの考えに同意です。患者さんに寄り添うということは、「患者さんの思いを知ろうとする」ことに近いのではないかと考えています

福地(Ns)

なるほど。

小池(OT)

患者さんの思いを知るには、患者さんに興味を持ち、患者さんのこれまでの生活背景や人生、性格や思考の傾向など、さまざまなことを理解しようとする意識が必要と考えます。そのためにまず必要なのは、患者さんへの興味だと私も思います。

福地(Ns)

須藤(OT)

そうですね、共通する意見ですね。

でも一方で、個人の人生や思いを完全に理解することは不可能だと思うんです。

福地(Ns)

須藤(OT)

たしかに、限界がありますよね。

難しいですよね。ただ、医療者の固定観念や自身の価値観ではなく、患者さんの価値観や思考を傾聴し、受容・共感することが、寄り添いにつながるのではないかと思います。

福地(Ns)

須藤(OT)

たしかに、医療者の考えを一方的に伝えるだけでは、寄り添うことにはなりませんよね。患者さんの考えがあって、それを受容し、共感する姿勢。納得です。では、信頼関係ができるまでには、どのくらい時間がかかるんでしょうか?

そうですね…。患者さんとの信頼が、短期間で築ける場合もあれば、そうでない場合もあります。さまざまな性格や価値観をいかに受容して、どう関係性を築くか? というのは、その場で試行錯誤しないとわからないので、日々考えながら患者さんと接しています。精神科だと、患者さんの思いを理解し、完全に受容するというのは、ある意味天文学的に難しいとも言えるので。

福地(Ns)

須藤(OT)

精神科に限らず、全部理解するのは難しいんでしょうね。夫婦間ですら難しいですもん(笑)。

寄り添うために、患者さんのストーリーを理解する

須藤(OT)

小池さんは、寄り添えたことを認識できる場面を、患者さんから見て

  1. 安心できたとき
  2. 自分の不安を理解しようとしてくれる姿勢を感じたとき
  3. 話した内容を覚えてくれていたとき

と整理してくれました。僕も、患者さんに「寄り添ってくれている」と感じてもらうことが大切だと思います。いくら医療者が、「この行為は寄り添っている!」と思っていても、患者さんに伝わっていなければ意味がないですもんね。

その通りですね。

小池(OT)

須藤(OT)

福地さんの言うように、「完全に」理解することって、原理的には不可能なんですよね。でも、本人にしてみたら、「すべてわかってくれている」と感じることもあるんです。

たしかに、それは感覚としてありますね。一度信じたら、全面的に受け入れてもらえると言うか…。

福地(Ns)

須藤(OT)

僕の意見は、「患者さんの気持ちに寄り添う」って、学生や僕たちの立場から言うと、あくまでそのような姿勢で関わることだと思います。要は受け手側の問題で、患者さんが何をどう感じ取って、どう処理しているか、によって変わるんですよね。

患者さん次第ってことですね。

小池(OT)

須藤(OT)

そうなんです。じゃあ、「学生はどうしたらいいのか?」という話に戻るんですけど、僕が一番に心掛けているのは、「ストーリーを理解する」ということです。ストーリーとは、患者さんの経験してきた物語のことですね。
ストーリー…?

福地(Ns)

須藤(OT)

例えば、入院してきた患者さんがこれまでどのように過ごしていたのか、入院に至った経緯、どのように病気を捉えているのかなど、生活面から病歴・病識を含めた背景を知っていれば、どのような心の動きがあったのかが想像しやすくなります。データとか、エビデンスじゃなくて、目の前の人がどうやって今にたどり着いているか。それを理解したら、少しは患者さんの気持ちに寄り添えるんじゃないかなと。

そうか、ストーリーって、患者さんの人生にはつながりがあるということですね!

福地(Ns)

安心して自分の健康と向き合ってもらうために

須藤(OT)

福地さんの話で「関係を築く」というワードがあったと思うんですが、患者さんと僕たちって、どんな関係が理想的ですか? 学生さんの中には、仲良くなろうと思ってタメ口にしたり、フレンドリーに接することをよしと考えてる人もいて、ちょっと違うんじゃないかと思うんです。

学生がタメ口を使うのはいかがなものかと思いますね。ですが、精神科だと長期入院の方も多くいらっしゃいます。その場合、敬語のみでは医療者から一定の距離をとる形になってしまう場合もあるので、ときにフレンドリーに話しかけることもあります。身寄りのない方や家族との関わりもない方もいるので、何でも話ができるような関係性を築こうと心掛けています。

福地(Ns)

須藤(OT)

精神科特有の環境もありそうですね。

はい。以前の総合病院では、私個人は敬語を崩すことはありませんでした。整形外科病棟のころは、患者さんに信頼のできる医療者と思っていただけるように努めていましたね。しかし、患者さんの性格にもよりますから、患者さんに興味を持ち、知ろうとすることが信頼につながる道ではないかと、当時から思っていました。

福地(Ns)



須藤(OT)

僕が目指す関係性も、医療者としての信頼にあると思っています。関係性って仲良くなることではなく、患者さんが安心できる雰囲気づくりや、治療の動機付けにつなげるための信頼関係を作ることにあると思うんです。

治療に役立つスキルって感じですね。

小池(OT)

須藤(OT)

はい。なので、もし学生がタメ口を使っていたら、頭ごなしに叱らず、どんな目的で、どんな意味を込めて口調を変えているのかを尋ねています。患者さんとの距離は口調ではなく、患者さんの背景をどれだけ知ろうとしているかが伝わることが大切ではないでしょうか。あとは基本的に相手に敬意をもつ、という当たり前のことが本当に大切だと感じています。

なるほど…。僕の意見は、「患者自身の能動的治療」と「医療提供とおもてなし」2つができあがって連鎖すると、治療がうまくいくことが多いような気がします。

小池(OT)

須藤(OT)

能動的治療と、おもてなし……?

病院に来たくて来る患者さんは多くないと思うので、ネガティブな気持ちがベースでも、能動的に自分をよくしていこうと思えるかどうかです。リハ職含め、医療者はいかに患者さんを能動的治療へつなげられるか。そのために適切な治療の提供と、不快にさせないおもてなしができるかどうか……。こんな関係性ができあがるように普段から治療に取り組んでいます。

小池(OT)

須藤(OT)

能動的になっている状態だと、医療者に依存しすぎず、かつ自分で問題解決できる能力が高い状態ですね。たしかに、関係性としては理想的です。

そうなんです。消極的、受動的な患者さんを見かけますが、これは僕ら医療側のアプローチに問題があると思うんです。

小池(OT)

須藤(OT)

そうですね。患者さんは医療者と友達になりたいわけじゃなくて、安心して自分の健康と向き合いたいはずなんです。私たち医療者は患者さんの機嫌を取ったり、仲良くなったりすることを目的にするのではなく、医療者として患者さんが自分の健康と向き合えることを支えていきたいです。

まとめ
患者さんの心に寄り添うためには、患者さんに興味を持ち、理解しようとする真摯な姿勢が必要と考えています。すべてを理解することができなくても、患者さんがこれまでどのように過ごしてきたか、入院の経緯などのストーリーを理解し、安心して、治療やリハビリに専念できる環境づくりをすることが、寄り添うことにつながるのではないかと感じました。これは職種に限らず、医療者すべてに通じることかもしれませんね。