多職種連携の実習という新しい医療現場の教育について

医療現場では、「多職種連携」というワードをよく耳にしますが、最近では多職種連携の実習を受けることができる学校があるようです。そこで、多職種連携の実習に関わりのあるメンバーに、どんな実習だったのか、その実習がどのようにいまに生きているのか、実際のところを聞いてみました!

参加者

 白石弓夏(Ns)
多職種連携実習という存在を最近知り、時代は変わったな…と思っているしがない看護師。ただ、どんなものか知りたい欲がすごい。

 須藤誠(OT)
作業療法士。母校で関連職種連携実習が行われいたことをふと思い出すも、履修していなかったことを激しく後悔中。

 久原幸典(ME)
臨床工学技士。学生時代に実習先で看護師さんからベッドメーキングを伝授されて以来、やるときはいつもドヤ顔である。

 永澤成人(Ns)
看護師。現在大学教員で、看護学生の実習指導を行っている。実習では、看護職だけではなく他職種からも学ぶ機会を作っている。

多職種連携の実習ってなに?

白石(Ns)

今回は、多職種連携の実習について話をしたいと思います。私は看護師になって10年ちょっと経つのですが、最近、多職種連携の実習があることをSNS上で知りました。メディッコを通して「多職種連携やっぱり大事だな~」と実感していたところなのに、学生のときからそんな恵まれた環境があるなんて…! 皆さんのところでは、実際にどのような実習があったのでしょうか

僕の母校では「関連職種連携実習」という名称の実習がありました。選択科目だったので、僕は履修しませんでしたが、ちょっと後悔しています。

須藤(OT)

白石(Ns)

そうだったのですね。ちなみに、どんな内容だったのですか?

内容は、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士など9職種の学生がチームを組んで、一例の対象者・ご家族を中心にチーム医療・チームケアの実践を通した実習を行っていたようです。他職種と関わることで、自分の職種の役割について考える機会にもなると、当時履修した学生が話していたのを覚えています。

須藤(OT)

白石(Ns)

チームケアの実習があったのですか! 実際の現場により近い感覚ですね。MEの久原さんのところはどうでしょう?

僕は、学生時代のカリキュラムに看護学が含まれていたり、実習でも看護師の仕事内容を簡単に体験したりなどをしていました。

久原(ME)

白石(Ns)

看護学の授業や体験があったのはすごいですね。永澤さんは現在看護教員をされていますが、どうでしょうか?

私が現在勤務している大学では、看護実習の中で「多職種連携」に関しての実習目標を入れています。あくまで受け持ち患者さんへの看護展開をするのが目的の実習ですが、実習プログラムの中で、多職種連携に関する場面を見学してもらい、看護職だけでなく、他職種からも指導をいただく機会を作っています。

永澤(Ns)

白石(Ns)

多職種連携に関する場面というのは…?

リハ場面の見学や院内チームの見学実習などに少し触れますね。学内講義では、看護師以外の職種について学ぶ機会があまりないので、学生にとってはすごく新鮮みたいです。他職種の専門的な視点を学ぶことで、他職種の理解につながり、チーム医療の必要性が改めて意識できた、という学びが得られています。

永澤(Ns)

白石(Ns)

学生のときから、実際の現場に近い状況で実習を受けられるというのはありがたいことですね。現場に出てからは、それぞれの職種で密にやりとりするのがなかなか難しいこともありますから。

実習中に感じた他職種とのギャップ

白石(Ns)

いまメディッコの活動をしていても、たまに「え!?そんなこともやるの?」というような職種間のギャップを感じることがあります。多職種連携の実習を通して、同じように感じたことはありますか?

看護学生の実習では、かなり態度面を厳しく見ています。患者さんと関わる立場としてだけでなく、社会人としてふさわしい立ち振る舞いができることも、目標に挙げている実習も多いので、挨拶の仕方や身だしなみという基本的なことから、学生には指導していきます。ですが、他職種はそこまで厳しくないのかな? と思うこともあります。

永澤(Ns)

たしかに、看護学生の接遇力レベルは高いですよね。僕は、学生の時点で、患者の情報を得る能力が違うと感じます。我々は医療機器をメインに考えてしまいがちですので。まだまだ臨床工学技士として学ぶことが多いと思います。

久原(ME)

僕の場合、まず共通用語の問題があると思います。同職種では当たり前に使っている用語でも、多職種カンファレンスでは全然伝わらないことがあります。カンファレンスは患者さんの目標や対応を決める場所であって、職種のうんちくを語る場所じゃないのですよね。そのため、他職種でも伝わる用語を使うことと、それが患者さんの目標や対応に関わるんだという結論から話してもらえると助かりますね。

須藤(OT)

白石(Ns)

実習中に感じるギャップは、現場で働いていても同じようなことを感じるので、学生のうちからそのギャップに気付けるのは、貴重な経験ですね。

他職種の学生に指導するときの工夫

白石(Ns)

皆さんは中堅どころだと思うので、今度は指導する立場での話を聞きたいです。他職種の学生指導の際、何か工夫すべきことはありますか? 永澤さんは教員という立場でどうでしょう?

私は他職種のスタッフさんから看護学生に指導してもらう際、指導方法や内容は特別変えてもらう必要はないことを伝えています。普段通りの視点を伝えてもらうことで、各専門職の視点というのを学ぶことができるからです。OTさんはこんなふうに患者さんを捉えているのかと知ることで、自分たち看護師側との視点の違いや、それぞれの専門性が際立って学べます。しかし、学生には最終的に「看護師」の視点に戻ってもらいたいことも伝えています。

永澤(Ns)

白石(Ns)

看護師の視点に戻るために、どのようなアプローチをしているのですか?

いろんな職種の方々から指導を受けると、「すごい!かっこいい!!」と、それぞれの職種の専門性に感銘を受けるだけで終わってしまうこともあるんです。あくまで他職種のことを理解したうえで、どう連携していくのか。患者さんの望む生活のために、看護師としてどんな役割を担う必要があるのか。これらのことに落とし込んでもらうように気を付けています。

永澤(Ns)

僕も基本的な指導内容は変えませんね。他職種が何を目的にどんな仕事をしているのか? まず、お互いが理解するところから始まると思っているので、そこを知ってもらうために説明をします。その基礎があって、連携するうえでの新しい発見や問題解決の糸口が見つかるのではないかと思います。ただ、臨床工学の分野は工学、物理、科学などの専門的な用語も使われるので、わかりやすくかみ砕いて説明するように気を付けていますね。

久原(ME)

白石(Ns)

お二人は基本的には指導内容は変えずに、伝え方を意識しているのですね。須藤さんはどうですか?

僕は逆に、基本的に職種が変われば伝え方を変えています。学生でなくても、他職種に伝えるときはカリキュラムが違ったり、業務内容が異なりますから。同職種の場合、学生自身が作業療法を実践できるようになるという目標があるので、例えば移乗を教える場合、移乗の方法だけでなく、状況や場面が異なる時に考えられるように、「考え方」を伝えるようにしています。職種の場合は、方法と具体的なコツを優先的に教えています。先ほどの移乗の例でいえば、その人の体型よりも大きい人、小さい人を移乗する時のパターンを伝えて、難しい場合は道具を使うまたは介助の人数を増やすなど実践で使えるように伝えています。

須藤(OT)

白石(Ns)

須藤さんは目標に応じて指導内容を変えているのですね。たしかに、学生ごとにそれぞれ学習目標があるはずなので、100%皆同じ内容である必要はないですもんね。同職種の学生だけでなく、他職種の学生まで受け入れるとなると…なかなか大変そうですね。

多職種連携でいま役立っているもの

白石(Ns)

皆さんの多職種連携の実習を聞いて、さまざまな職種の働き方や考え方が見えて、とても有意義だと感じました。その実習がいまの職場でも役立っている! と感じることがあれば教えてください。

私は、大学で指導する立場になって改めて、多職種連携の重要性、各専門職の強みを意識することができました。私自身がより深く他職種の専門性を理解できたことで、「こういった部分に関しては、OTさんに聞いてみたら?」といったように、学生に他職種から学ぶ機会を意図的に与えることができるようになってきました。多職種連携の実習は比較的新しい取り組みかなと思います。いま現場で働いているベテランの人々は学校で学べなかった内容だと思うので、学んだ内容を積極的に職場で生かしてもらえると嬉しいです。

永澤(Ns)

僕も、他職種学生や実習から学ぶことは多いと思いました。実習そのものの進め方は、歴史の長い看護師などの職種のほうがノウハウが詰まっていますよね。僕は、学生のときに他職種の働き方や知識をある程度身に付けておくことが、働き出したときに他職種とコミュニケーションを取るきっかけになったので、業務を進めやすくなりました。

久原(ME)

僕は履修できませんでしたが、あの実習の存在を知っていたことで、多職種で連携することが当たり前に必要だとは思っていました。一時期、僕自身が作業療法をパーフェクトにできれば患者さんが良くなるんだと思い込んでた時期もありましたが、やはり連携がうまくいかないと、1+1が1に満たないなんてこともあるんですよね。患者さんのことを第一に考えたら、シームレスな連携は必要不可欠だと考えていて、こうしてメディッコに参加できたのもその思いが強かったからだと思います。

須藤(OT)

まとめ
皆さん、ありがとうございました! 多職種連携の実習、今後指導する立場になる方にもぜひ参考にしていただきたいと思います。