医療職であればほとんどの人が、点滴をしている患者さんを目にしたことがあるのではないでしょうか。
特に病棟へ運搬されてきた注射薬を混注し投与するのは看護師さんなので、薬剤師よりも日常的に触れていると思います。
そんな注射剤ですが、時折「混ぜてはいけない」と言われる薬剤に遭遇します。
しかも「あのときは混ぜても良かったのに、今回はダメ」 というシチュエーションもあり、なにかが析出してルート閉塞などが起きれば、インシデントレポートも書かなくてはなりません。
本音をいうと「何種類ものルートを管理するのには関わりたくない」 という看護師さんも多いのではないでしょうか。
今回はそんな注射剤の配合変化の世界を、少しだけ覗いてみようと思います。
なぜ配合変化が起きてしまうのか
配合変化は大きく3つに分けて考えられます。
① 物理的変化:溶解性の変化による溶け残りや析出など
② 化学的変化:pH、光分解、酸塩基反応など
③ その他:ルートへの吸着など
この中で一番問題となりやすいのは②の化学的変化でしょう。
そもそも注射剤は基本的に他のものと混ぜて使うことを想定されていないため、相性が悪いと他の薬のpHや化学的構造の影響を受けてしまいます。
化学の授業のときに習ったような加水分解反応、酸化還元反応、酸塩基反応などの様々な反応は相性によって起きるので、同じ薬でも相手によっては混ぜて良かったり悪かったりするわけです。
これらの厄介なところは、視覚的に全く変化がなく安心して投与していたとしても、実は薬効が失われていたり、注射液の中で新成分が合成されていたりする可能性があるというところです。
では、これらの配合変化を避けるためにはどうすれば良いのでしょうか。
配合変化の回避方法
まず根本的なところでは、投与ルートの変更や可能であれば内服や皮下注製剤への変更、あるいはルートのフラッシングを行うことです。
「混ぜると良くない事が起こるなら、最初から混ぜなければ良い! 」非常にシンプルですね。
ですが、それだけで全てが片付くのならば誰も苦労はしません。
やっとの思いで取った、たった1本のルートをなんとか使って投与を遂行しなくてはならないとき、私たちはなにか解決策を提示する必要があります。
① 手技による解決
たとえば、メインの輸液にアンプルに入った数種類の薬剤を混注するとき、一度に同じシリンジにまとめて採集するようなことは高濃度での薬剤同士の混合につながり、配合変化のリスクが高くなります。
極力1種類ずつ混注し、シリンジはその都度新しいものを使いましょう。
また、配合する順番よってはpHの変化に違いが生じ、配合変化の有無に違いが出ることもあります。
② 投与時間をずらしたり、側管投与を行う
相性が悪い注射剤同士でも、一瞬だったりごく短い時間混合するだけなら大きな問題にならないこともあります。
脂肪乳剤とTPNは決して混ぜてはいけませんが、実はTPNの側管から脂肪乳剤を投与できることが知られています。(感染リスク軽減のため、20mL使ってパルシングフラッシュを推奨)
③ 薬剤師に相談
細かな薬剤同士の相性はすべて明らかになってはいないものの、薬剤部の医薬品情報室には膨大な配合変化のデータがあるはずです。
「混ぜていいかわからない」「どのようにルートを整理して投与順を決めればいいか」というときには、薬剤師にご相談ください。
どうしても無理なときもたまにありますが、なんとか一緒に適切な投与方法を考えてくれるはずです。
身近なところからやりやすい、チーム医療のひとつだと思います。
まとめ
看護師さんだけではなく、点滴をぶら下げたままベッド上リハを行うPTさんや、ルートに密接な関わりがあるポンプ類などを扱うCEさんたちも、もし何かルートのなかに異物を見つけたり、変色していることがあれば遠慮なく薬剤師へご相談ください。
意外と薬剤師が思いもしないような投与方法が病棟で行われている、なんていうケースも実際にあります。
「知らないうちに薬効のない謎の液体を投与している」なんていうことが無いように、関わるみんなで配合変化を少しずつ気にしてもらえると、より安全で適切な注射薬の投与に近づけると思います。
がんの専門病院で働く薬剤師。Common diseaseや他職種領域・連携についての知識の不足とその重要性を感じてメディッコに参加。今まで薬剤師がいなかった領域でのニーズを掘り出したい。イラストとゲームとねこが好き。
Twitter:@damepharma