現役薬剤師が解説!抗がん剤の定義、種類について

 

みなさんは「抗がん剤」にどのようなイメージを持っていますか?

がん患者さんに関わりの少ない医療職のかたは、「難しそう」「関わり方がわからない」などのイメージが強いかもしれません。

実は、ポイントをきちんと押さえておくことで、それほど難しくはありません。

今回は薬剤師が抗がん剤の定義、種類について解説します。

 

抗がん剤の定義

 

「抗がん剤」とはその名の通り、がん治療に使用される薬剤のことです

抗がん剤にはたくさんの種類があり、副作用も多岐にわたります。

いくつかのグループに分けられ、それぞれの特性をつかむことが抗がん剤治療や副作用を理解する際に重要なポイントとなります

 

抗がん剤の種類

殺細胞性抗がん剤

ドラマなどでよく見かける「抗がん剤」のイメージを作りあげているのは殺細胞性抗がん剤でしょう。

細胞の分裂周期に作用する薬剤で、特に分裂が盛んながん細胞に対して強く効果が現れます

しかし、同様に細胞分裂が盛んな正常細胞にも作用するため、消化管粘膜・毛根・骨髄の造血などにも影響が現れます。

吐き気・嘔吐・下痢・脱毛・骨髄抑制などの「ザ・抗がん剤」といったイメージの副作用が現れるのはこのためです。

最も古くからある抗がん剤のタイプで、まだまだ臨床ではよく用いられています。

分子標的薬

がん細胞に特異的に発現する遺伝子やタンパク質に作用する薬剤で、標的とするがん細胞の増殖を抑制します

1990年代後半から登場し、殺細胞性抗がん剤の効果が薄い腎細胞がんやHER2陽性乳がんなどで大きな効果を上げました。

当初はがん細胞に特異的に作用するため副作用はないと考えられていました。

しかし、実際は殺細胞性抗がん剤の作用からは予想もつかないような、皮膚障害・高血圧などの副作用が出現することが明らかになりました。

種類に応じた副作用を把握し、管理することがとても重要です

また、抗がん剤のイメージとして強い「脱毛」はほぼ起きません。

免疫チェックポイント阻害薬

少し前、ノーベル賞を受賞したことで話題となった新しい作用機序を持つ薬剤です。

がん細胞は体内の免疫細胞から逃れるためにいくつかの特性を持っています。

具体的には、免疫細胞に見つからないように「隠れたり」「目をくらませたり」することで、免疫細胞による攻撃を回避しています

免疫チェックポイント阻害薬はそれらの特性を解除し、再び免疫細胞によるがん細胞への攻撃が期待できるようになります。

副作用として自身の免疫が強く働いてしまうことによる自己免疫疾患のような症状がおきることがあります。(例:大腸炎、甲状腺機能低下症、副腎不全、腎炎、ぶどう膜炎など)

また、これも抗がん剤のイメージとして強い「脱毛」「吐き気」などが問題になることはほぼありません。

 

副作用を知れば必要なケアも見えてくる

 

抗がん剤の種類は非常に多く、すべての副作用を把握することは薬剤師でも困難です。

ですが、抗がん剤のグループを知っておくことで、「吐き気があるのかもしれない」「脱毛を気にされていたらどう対応すれば?」「骨髄抑制があるので感染対策が重要だろう」などと大きなくくりで対策を立てることができます

さらに慣れてくると「血圧が高くなるかもしれないからしっかりモニタリングが必要」「皮膚ケアを促すべきだ」などの判断もつきやすくなります。

多職種間で「抗がん剤のグループ」という共通言語ができると、より細かな副作用についてディスカッションやアドバイスがしやすくなります

ぜひ、活用して多職種連携のよいきっかけにしてみて下さい。

 

参考文献

遠藤一司ら『がん化学療法副作用対策ハンドブック 改訂第6版』,羊土社,2019,16−60

 

執筆者
Fats(薬剤師/イラスト部)

がんの専門病院で働く薬剤師。Common diseaseや他職種領域・連携についての知識の不足とその重要性を感じてメディッコに参加。今まで薬剤師がいなかった領域でのニーズを掘り出したい。イラストとゲームとねこが好き。

Twitter:@damepharma