睡眠と薬の関係を学び、患者さんの「眠れない」に答えよう

前回は、睡眠薬の使い分けと副作用についての座談会でした。それぞれの薬の特徴や注意すべきことは理解できましたか?今回は実践編として、実際に「眠れない」と訴える患者さんへの対応やよくある訴えについて話し合いました。

前回の座談会:睡眠薬の使い分けと副作用について、専門家に聞いてみた!

参加者

 Fats(Ph)
がん患者さんへの対応を中心に働く薬剤師。緩和ケアチームにも所属しているので、睡眠薬についての相談はよく受ける。

 福地(Ns)
精神科勤務の看護師。夜勤時には数十人に睡眠薬の与薬をしている。

 坂場(OT)
作業療法士。精神科デイケアで勤務しながら大学院で研究中。睡眠薬を服用している利用者さんと、睡眠についての話し合いを行なっている。

眠れない時はどうすれば良いか

僕は患者さんとの会話の中でよく、「昨日は眠れなかったんです」「睡眠薬が欲しいんです」といった相談を受けます。このような時、お二人はどのように接していますか?

坂場(OT)

僕は、まず患者さんが眠れない理由を一緒に考えるようにしています。昼夜逆転の生活や就寝前のPC・スマホの使用などが原因の場合、環境を整えることで入眠できるかもしれません。また、疲労の蓄積といった過度のストレスが原因の場合、ストレスの原因を取り除くことで解決できる可能性もあります。これらの原因を考慮したうえで、不眠が取り除けずに生活への支障が出ている場合は、受診を勧めています。

福地(Ns)

Fats(Ph)

僕も福地さんと同意見で、まずは睡眠の環境を整えることが先決だと思います。年齢によって必要な睡眠時間が異なるため、必要最低限の休息は確保できてている場合もありますね。睡眠不足による日常生活への影響を、薬物治療開始の線引きとして聞いてみるのも良いかと思います。

以前、「日中の生活を見直しましょう!」と声を掛け、1日の生活スタイルや睡眠前の環境を見直すことで、睡眠薬に頼らず眠れるようになった患者さんがいました。患者さんの睡眠環境を整えることも不眠を取り除くために必要なことですよね。

坂場(OT)

Fats(Ph)

それから、市販の睡眠薬で対処する場合もあると思います。その際に、市販品と処方薬の違いを知ることは大切です。具体的には、市販品は厳密には睡眠薬ではなく睡眠改善薬と呼ばれ、抗ヒスタミン薬などのいわゆるアレルギー薬で起きる副作用の「眠気」を利用しています。

そうなんですね、知らなかったです!

坂場(OT)

過剰な睡眠薬はダメ!

患者さんの中には「睡眠薬を服用していたらだんだん効かなくなってきた」と言う方がいます。僕は、安易に増やしてはいけないと思っていて、いつも「お薬のことは医師に相談してください」と伝えています。何かうまく説明できる方法があれば教えてほしいです。

坂場(OT)

僕は坂場さんの言葉に加えて「自己判断でお薬の量を変えないようにしてください」と伝えています。医師は、患者さんの不眠症状に合った薬を選択しています。自己判断で睡眠薬を過剰に服用してしまうと、翌朝への持ち越しや、夜間のふらつきが出てしまう可能性があります。反対に睡眠薬を長期服用していた場合に、自己判断で服用をやめてしまうと反跳性不眠になる恐れもあります。このような副作用リスクを説明し、患者さんに理解してもらうことで、自己判断による用量調節を行わないように指導しています。

福地(Ns)

Fats(Ph)

実際、心理的な依存や効果を求めるあまり、だんだんと投与量が増えてしまうことはありますよね。睡眠薬の中には耐性を形成してしまうこともあり、そうすると思ったように効果が得られない場合もあります。増量により副作用のリスクはますます増加してしまいますし、どうしても困っている場合、一度医師や薬剤師に相談すると良いと思います。また、睡眠薬のみでのコントロールが難しい場合は、抗精神病薬を少量組み合わせて使うこともあります。そうして少しずつ睡眠薬を調整することで、減薬が可能になるケースもあるので、むやみに自己判断で増やすのはおすすめできません。

副作用によるリスクを理解してもらい、医師に相談してもらうのが良さそうですね。

坂場(OT)

自然な眠りと睡眠導入薬による眠りの違い

以前何かの本で、『睡眠薬で眠るのは気絶するような状態に似ているので良質な睡眠ではない』という内容を読んだ記憶があります。本来の睡眠と睡眠薬で得る睡眠は違うのでしょうか?

福地(Ns)

Fats(Ph)

ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系・オレキシン受容体系の薬剤は脳の覚醒や興奮を抑えることで睡眠効果を発揮します。一方で、メラトニン受容体系の薬剤は体内時計のリズムを整え、自然に近い眠りを促します。作用機序が違うので、眠りの感覚が異なることは考えられますね。またベンゾジアゼピン系の多くは睡眠深度が浅く、レム睡眠が増えるため、脳の疲れが取れにくく熟眠感が得にくいという報告もあります。それも関係しているかもしれませんね!

入眠の仕方にも違いが出ることがあるのですね! 初耳でした。

坂場(OT)

まとめ

睡眠薬は、使い方を間違えるとさまざまなリスクが生じます。「眠れない」と聞くと、ついつい頼ってしまいがちですが、その訴えの背景にある多様な要因に目を向けることも大切です。医療者として睡眠薬への正しい理解を深めたうえで、日々の業務に生かしていきましょう。