人にはいつか、必ず死が訪れます。しかし、それがもし家族だったとしたら、どれだけつらいことでしょうか。緩和ケア病棟では、患者さんとご家族との関わりにおいて非常に重要な『グリーフケア』と呼ばれる取り組みが行われています。
今回は、緩和ケア病棟で働く看護師 ・ナースの大森ちゃん(@lemoned_nurse)をゲストに、グリーフケアの実際についてお聞きしました。
参加者
大森(Ns)
緩和ケアと他の領域を繋ぎたいと思っている緩和ケア病棟看護師。
大前(Ns)
ICU看護師。緩和ケア領域のケアが急性期の「死」に対するケアにも生かせるはずと座談会に参加。
坂場(OT)
精神科に従事している作業療法士。グリーフケアって何?という状態で参加。
REN(PT)
外来整形外科勤務の理学療法士。患者さんに寄り添うためにグリーフケアの考え方を知りたい。
『グリーフケア』ってなに?
大前(Ns)
今回は緩和ケア病棟で働く看護師の大森さんを招き、グリーフケアについて話していきたいと思います。早速ですが、RENさん、坂場さんは『グリーフケア』という言葉を耳にしたことはありますか?
いやー、お恥ずかしながらまったく知らなかったです。
REN(PT)
僕も同じく、聞いたことがありませんでした。普段は精神科で働いていますが、グリーフケアという概念はないですね。
坂場(OT)
大森(Ns)
そうですよね。『グリーフケア』は、緩和ケア領域ではよく耳にしますが、他の領域では看護師でもなじみのない言葉だと思います。
グリーフって“悲しみ”という意味ですから、大切な人の死などの悲しみに対するケアみたいなイメージを持っていました。
REN(PT)
大森(Ns)
そうですね。グリーフケア=死別悲嘆ケアではありませんが、現状では死別に対して使われることが多いです。「グリーフ=悲しくて泣く」と思われることが多いようですが、反応の種類も程度も人それぞれで、時間とともに変動するんです。RENさんや坂場さんは、身体機能を喪失した患者さんと関わることが多いと思いますが、そうしたケアもグリーフケアに含まれると考えています。
なるほど、たしかに喪失感を抱えている患者さんは多いです。知らずのうちに、グリーフケアに関わっていたんですね。そう考えると身近に感じます!
坂場(OT)
大森(Ns)
そうなんです! 聞きなじみがなくても、患者さんと関わることで、自然とグリーフに触れていると思います。
自分の関わっているグリーフを認識していないだけかもしれませんね。ひとつ質問ですが、グリーフが反応の総称だとすると、喪失の過程で抑うつになった場合、グリーフとして捉えられるのですか?
坂場(OT)
大森(Ns)
そうです。グリーフの反応として、一時的なうつ感情がありますし、それは心を休めるために必要な場合があります。ですが反応が強く日常生活に支障を及ぼすなど、うつ病になる方もいます。死別に関する調査では、死別経験者は一般に比べるとうつ病を有する割合が増えるとの報告もあります。
大前(Ns)
それだけ、死別はストレスになるということですね。心を休めるために必要な反応として抑うつがあるとは知らなかったです!
坂場(OT)
大前(Ns)
グリーフケアの対象についてはどのように考えていますか? 死別する家族? それとも死を迎える患者本人も含めるのですか?
大森(Ns)
本来はどちらも対象です。臨床では死別に対する関わりが中心になっているので、ご家族がケア対象になることが多いですね。
大前(Ns)
必要なのは相手のペースに合わせたコミュニケーション
大森(Ns)
個人的には「医療者が行うケアすべてが、グリーフケアにつながる」と思っています。つまり、医療者と患者さん・ご家族との関わりそのものですね。皆さんが実際の現場でやっていることから説明するとわかりやすいでしょうか。RENさんは普段、どんなケアをされていますか?
僕の職場では、高齢者が伴侶を亡くされて落ち込んでいる患者さんが多くいますね。そのせいでリハビリにも消極的になってしまうケースもあるので、なんとかしたいのですが、どう接すればいいかわからないことが多々あります…。
REN(PT)
大森(Ns)
それはどう接していいか悩みますよね。高齢者の場合、死別がうつ病発症の最大の危険因子といわれています。ですから、死別の悲しみで気分が沈んでいるだけではなく、うつ病の場合がありますので、そうなると薬物治療などが選択肢として必要になります。
たしかに、はじめは落ち込んでいるだけだと思っていたら、後になってうつ病が発覚した経験があります。
REN(PT)
大森(Ns)
私たちにその判断や治療はできないですよね。なので、そういった抑うつや気分の悲しみを経験しているご家族に対して、まずは安心できる存在になることが大切だと思います。
安心できる存在…? いいですね。何か実際にやっている方法はありますか?
REN(PT)
大森(Ns)
そうですね、丁寧なケアと相手に合わせたコミュニケーションを意識することでしょうか。医療者は、無意識に自分のペースやテンションでコミュニケーションを取ろうとしてしまう傾向にあるので、私も常に気を付けています。
それ、めちゃめちゃ身に覚えがありますね…。忙しさや効率のよさを言い訳にはできませんが、たしかにこちらのペースでコミュニケーションをとってしまうことがあります…。
REN(PT)
大前(Ns)
わかります…。相手のペースは、どうやって捉えているのですか?
大森(Ns)
まず、医療者は基本的にハイペースであることを自覚してほしいです。私もそうです。なので、患者さんやご家族に会う時には、意識して落ち着かせてから、部屋に入るようにしています。
大前(Ns)
大森(Ns)
そこで相手の心身から感じるエネルギーや声のトーン、話すスピード、口調、動作のスピードをみながら、合わせていきます。
大前(Ns)
大森(Ns)
例えば、相手が一文一文途切れるように話していたら、私からの説明も一文ずつ丁寧に話します。ペースが合うと安心感や一体感が生まれるので、少しプライベートな話や気持ちを聞きやすくなると思います。
大前(Ns)
なるほど! たしかに病院って医療者のペースになりがちですが、そこを意識的に相手に合わせて一体感を出し、コミュニケーションを図る。まさに実践されている方ならではのお答え、しびれますね!
それは精神科でも活用できる接し方ですね。勉強になります。
坂場(OT)
グリーフケアは患者さんのケアから始まっている
この座談会をきっかけに、子どもの死に対して書かれているグリーフケアの文献を読んでみました。その報告によると、「母親はさまざまな死の受け止め方をしており、病的悲嘆をたどらないためには、 親の役割を果たせた安堵感につながるような生前の生活支援と、死後に支援者が親とともに子どもの死への意味付けをすることが重要」と書いてありました。
REN(PT)
大森(Ns)
そうですね、とても大事なことだと思います。グリーフケアは、死後のケアに注目されることがほとんどですが、ご家族にお聞きすると、患者さんが生きている間のケアが大きな影響を与えていることが多いです。グリーフケアは生前から始まっていると思います。
大前(Ns)
なるほど。病的悲嘆をたどらないためには、生前から一貫してケアをすることが有効かもしれませんね。(*最近は病的悲嘆という言葉は使わず、複雑性悲嘆と言います。)
大森(Ns)
はい。結局、日頃の患者さんへのケアがすべてにつながるので、とても大切なことですよね。
大前(Ns)
ICUでは、入院したその日に亡くなられるれるケースが少なくないのもあり、患者さんの好みを聞くなど、ご家族と落ち着いてコミュニケーションをとる時間があまりないのが現状です。個人的にはこうした時間を作りたいのですが。
大森(Ns)
素敵な考えですね。ICUでそのように考えてくれる方がいるのはとても嬉しいです。昔と違い、今は緩和ケア病棟も落ち着いて話を聞く時間は少ないです。外部から研修に来た方々は決まって「緩和ケア病棟ってこんなに忙しいんですか」と言います(笑)。大前さんの言うように、看取りの時に限らず、日常のケアやエンゼルケアでも、患者さんのことを教えていただくように心掛けています。
大前(Ns)
そうなんですか。僕らの現場では、患者さんが亡くなった後に、そのご家族がどのように過ごしているかなどのフォローはできていません。グリーフケアは、退院後のフォローもあるのでしょうか?
大森(Ns)
緩和ケア病棟では、退院後のフォローもしています。当院では、退院時にグリーフケアに関する冊子をお渡しして、プライマリナースから3ヵヵ月以内を目処に手紙か電話で連絡をしています。その後も年に1回の頻度で遺族会を開催したり、心理士によるグリーフケアの公開講座を開いたりしています。
ご遺族のフォローアップまで実践しているとは、かなり手厚いですね…!
REN(PT)
大森(Ns)
当院が特別というわけではなく、全国のホスピス・緩和ケア病棟の95%がなんらかの遺族ケア(退院後フォロー)を実施しているという報告があります。最近は、葬儀社がグリーフケア(グリーフサポート)として、遺族会や訪問などをしているところもあるそうです。
まとめ
グリーフケアに関する対話を通して、患者さんやご家族の心身と向き合うこと、そして日々の実践がとても大切だと感じました。相手に合わせたコミュニケーションは、グリーフケアに限らず、さまざまな場面で役に立ちそうですね。患者さん、ご家族にとって安心できる存在になれるよう、皆さんも実践してみてはいかがでしょうか。
[…] 第一弾はこちら→グリーフケアって何? 緩和ケア病棟の看護師に聞いてみた […]