睡眠薬の使い分けと副作用について、薬剤師と看護師に聞いてみた!

睡眠薬はあらゆる診療科で使用されており、身近な薬のひとつです。睡眠薬とひとくくりに呼んでいますが、患者さんごとに薬の種類は違っています。それぞれの薬の特徴を、理解できているでしょうか?今回は、睡眠薬の知識に不安を感じる作業療法士が、日頃から睡眠薬に関わる機会の多い薬剤師と看護師に、さまざまな疑問をぶつけてみました。

参加者

 Fats(Ph)
がん患者さんへの対応を中心に働く薬剤師。緩和ケアチームにも所属しているので、睡眠薬についての相談はよく受ける。

 福地(Ns)
精神科勤務の看護師。夜勤時には数十人に睡眠薬の与薬をしている。

 坂場(OT)
作業療法士。精神科デイケアで勤務しながら大学院で研究中。睡眠薬を服用している利用者さんと、睡眠についての話し合いを行なっている。

睡眠薬の種類と効果をおさらい

作業療法士の養成校では、睡眠薬について勉強する機会が少なく、わからないことがたくさんあります。僕は、職場柄睡眠薬を服用している患者さんと接する機会が多いのですが、患者さんによって服用している薬の種類が違います。種類や効果について教えてください!

坂場(OT)

Fats(Ph)

まず、睡眠薬には色々と種類があります。

・ベンゾジアゼピン系

脳の興奮を抑え、不安や不眠を解消する薬剤

・非ベンゾジアゼピン系

ベンゾジアゼピン系と類似しているが副作用となる筋弛緩作用が少ない薬剤

・メラトニン受容体系

脳を眠りに導く体内時計ホルモンであるメラトニンにより自然な眠りを促す薬剤

・オレキシン受容体系

脳の覚醒シグナルを抑えることで生理的な睡眠へ促す薬剤

・抗精神病系

統合失調症やうつ病に本来使われるが、一部睡眠薬としても使われる薬剤

Fats(Ph)

以上が代表的な分類です。『寝付きが悪い人』、『夜中に途中で起きてしまう人』、『体内時計が乱れている人』など、患者さんに応じて適切な薬を選択します。

思っていたより種類がたくさんありますね。余計に混乱してきました(笑)。

坂場(OT)

そうですね。それぞれの睡眠薬の効果を最大限発揮するためにも、看護師は、患者さんの睡眠状況を「Aさんは、消灯後寝付きがよくないです」「Bさんは深夜に中途覚醒があります」「Cさんは早朝覚醒です」といった具合に、情報提供するようにしています。

福地(Ns)

なるほど。患者さんの症状に合わせて睡眠薬を使い分けるためには、看護師からの情報が重要ということですね。

坂場(OT)

さらに、臨床では睡眠薬を飲んだ後にすぐ寝られる人ばかりではありません。薬の量や薬に対する耐性もあり、効果には個人差があると思います。

福地(Ns)

睡眠薬…作用があれば副作用もある

ひとつ気になっていることがあるのですが、睡眠薬を服用中の患者さんが、午前中にボーッとしていることがあり、眠気が強く残っているのでは? と心配になります。これって睡眠薬の副作用ですか?

坂場(OT)

それは睡眠薬の『持ち越し効果(hangover)』ですね。長時間作用型の薬を使用して、翌日まで効果が持続してしまう場合に起こります。ふらつきや転倒につながる恐れがあり、高齢者の場合は特に気を付けなければいけない副作用のひとつですね。

福地(Ns)

ほうほう。他にはどういった副作用があるのでしょうか?

坂場(OT)

Fats(Ph)

主な睡眠薬の副作用として、以下のものなどが考えられます。

・持ち越し効果

・筋弛緩作用

・前向性健忘

・反跳性不眠

・依存形成

・せん妄

Fats(Ph)

福地さんの話にもありましたが、筋弛緩作用やせん妄、持ち越し効果による転倒転落は、高齢者では特に注意しなければなりません。

副作用にもいろいろあるのですね…。

坂場(OT)

Fats(Ph)

平成26年人口動態統計月報によると、交通事故死(5,626人)より、転倒事故死(7,454人)のほうが多いと報告されています。さらに、転倒事故死の85%は65歳以上の高齢者です。

参考

(厚生省:平成26年人口動態統計月報年計より;https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai14/index.html

Fats(Ph)

これだけでも、転倒には十分な注意が必要だと理解しやすいのではないでしょうか。

転倒事故死者がそんなにいるんですね! 睡眠薬の副作用は軽視してはいけないことがわかりました。

坂場(OT)

睡眠薬の副作用対策として気を付けること

睡眠薬を飲んで入眠した患者さんが、夜間トイレに行く時は、注意して観察しますね。睡眠薬を飲んでいなくとも、寝起きでトイレに行く時はちょっと寝ぼけた感じがありますよね? 薬が作用している間に起きると、未覚醒による注意不足や筋弛緩作用による転倒や怪我のリスクがより高まります。できれば、睡眠薬を使用しないで眠れるように、日中のリズムを整えることが一番ですね。

福地(Ns)

たしかに、日中のリズムを整えることの重要性は、作業療法士の国家試験でも頻出でした。

坂場(OT)

Fats(Ph)

せん妄が出現することもあるので、注意が必要ですよね。実は、オレキシン受容体系、メラトニン受容体系の2剤はせん妄対策としても有効という報告があります。明確な機序は明らかになっていませんが、より自然に近い睡眠になることで、脳へのストレス緩和に寄与しているのではないかといわれています。高齢者やせん妄リスクが高い人は、この2剤を優先して選択してもよいかもしれません。逆に、ベンゾジアゼピン系睡眠薬はせん妄リスクを上昇させる報告もあるので、夜間の観察はとても重要だと思います。

ありがとうございます。めっちゃ勉強になりました!

坂場(OT)

まとめ

普段何気なく接している睡眠薬ですが、薬ごとに特徴があり、副作用もさまざまでした。睡眠薬を正しく理解しておくことで、患者さんの睡眠状況や、観察するべき項目がある程度予測できそうですね。座談会の後半では、実際に「眠れない」と訴える患者さんへの対応やよくある訴えについて話し合います。あわせて読むことで、睡眠薬への理解に役立ててください。

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