「精神科」と聞いて、皆さんはどんなイメージを思い浮かべますか? 職種によっては、まったく関わったことがないかもしれません。教科書やメディアの情報しか知らないため、「なんか大変そう」と漠然としたイメージを抱えていませんか?
今回、精神科のことをよく知らない医療スタッフたちのために、精神科勤務のメディッコメンバーが立ち上がり、精神科未経験のメンバーと「精神科へのイメージと実際の現場」について語りました!
参加者
福地直彦(Ns)
看護師6年目。整形外科に3年勤務後、現在は精神科勤務3年目。慢性期開放女性病棟から現在慢性期開放男性病棟に勤務。
坂場泰斗(OT)
精神科の作業療法士(OT)5年目。入院病棟、認知症病棟を経験し、現在は精神科デイケアで勤務。
大平拓巳(PT)
理学療法士(PT)4年目。総合病院にて急性期の整形外科、形成外科に従事。現在は回復期病棟で勤務し、主に脳卒中患者を担当している。学生時代に精神科での実習経験あり。
S.O(Ph)
薬剤師7年目。後発医薬品企業3年、病院勤務4年を経て、現在は地域包括ケア病棟と療養病棟のある中小病院で勤務。精神科での経験はなし。
時間をかけて話を聞くことで、コミュニケーションレベルは変化する
福地(Ns)
今回は精神科へのイメージと実際の現場について話していきましょう。僕と坂場さんは精神科で働いていますが、S.Oさんと大平さんは、精神科の経験がないですよね。どのようなイメージを持っているのか聞かせてください。
精神科は、患者さんとのコミュニケーションが他科に比べて難しいイメージがあります。もちろん、他の科が簡単というわけではないですが…。
S.O(Ph)
福地(Ns)
そうですね。患者コミュニケーションに関しては、他科と比べて難しいと思います。精神科では、精神疾患を持つ患者さんが入院するので、初対面ではほとんど話ができない方が多いです。
S.O(Ph)
福地(Ns)
現在、僕がいるのは慢性期の病棟で、年単位で入院されている患者さんばかりです。コミュニケーションを重ねて、患者さんが感情を出せるようになるのは、1ヵ月から半年くらいかかる場合が多いですね。なので、日ごろから患者さんの、言葉にできない感情の変化などを察知できるよう気を付けながら看護をしています。
坂場(OT)
僕も精神科でOTとして働いていますが、気を付けているのは介入のタイミングですね。精神科の患者さんは症状に波があるので、症状が和らいでいるタイミングを見計らって、環境設定などの介入を行います。
大平(PT)
坂場(OT)
たとえば、今後の生活について相談する場面で、緊張感を持っている患者さんでは、他のことに気を取られないよう個室に呼んで話を聞きます。
大平(PT)
坂場(OT)
逆に、リラックスした状態の患者さんでは、編み物の作業療法中にさりげなく大事な話を聞くこともあります。患者さんによっては、方言を出すことで親しみを感じて話してくれるケースもありました。
福地(Ns)
コミュニケーションに関しては、教科書通りとはいかないですよね。僕も、患者さんの性格や日によって変わる症状に合わせて言葉を選ぶなど、工夫しています。
他の科の患者さんでも、コミュニケーションが難しいと感じるときがありますが、精神科は個々人に合わせるスキルがより求められるということですね。
大平(PT)
求められるのは、イメージにとらわれず、1人ひとりの患者さんと向き合うこと
福地(Ns)
話を戻しますが、精神科について、大平さんはどんなイメージを持っていますか?
僕は、精神科で働いた経験はありませんが、学生時代に実習で行きました。教科書を調べても、症状が重い患者さんは施錠可能な病棟に入院しているなど、抽象的な内容しか書いていなかったので、実習前に感じていたのは、わからないという「怖さ」でした。
大平(PT)
福地(Ns)
僕も、整形外科から精神科に異動したときは同じように感じていました。急性期の治療病棟では、男性の看護師数名で患者さんを抑えて拘束し、保護室で経過をみる様子などを目の当たりにして、最初は恐怖心を覚えました。でもそれは、他人を傷つける恐れがある患者さんに対する措置入院という対応です。
大平(PT)
福地(Ns)
薬が効いて、症状が治まったら落ち着くので、一時的な緊急措置ですね。スタッフの間では個性が表に強く出てしまったという認識を持っています。僕たちも、他人から言われたら嫌なことがあると思いますが、それは精神疾患を持つ患者さんでも同じですから、言動には細心の注意を払っていますね。
坂場(OT)
僕も精神科へ入職する前は、友人から本気で心配されました。なぜかと聞くと「罪を犯した人は精神障害を持っている人が多いとテレビでやっていた」と言われたんです1)。
大平(PT)
坂場(OT)
このように、世間的には、精神科に対してネガティブなイメージを抱いているように感じますが、僕たちが患者さんと直接関わるときに注意しなくてはいけないのは、そういった偏見や先入観をなるべく排除することです。たとえば、患者さんがかんしゃくを起こしたとき、その原因が現実に起こっていることとは限らず、幻聴や妄想といった精神症状によるかもしれないので、話をよく聞いて、原因をたどっていく必要があります。
僕が持っていたイメージと、実際の現場での捉え方はかなり違うんですね。
大平(PT)
坂場(OT)
そうだと思います。僕は入職したとき、先輩に「やってはいけないことは何ですか?」と聞いた覚えがあります。しかし、それに対する答えは僕の予想と反して「積極的にコミュニケーションを取ってほしい」というものでした。精神科だからという特別な制限はないんです。
ネガティブなイメージを変えるために、私たちができること
坂場(OT)
では、率直に聞きますが、先ほど話に出た精神科へのネガティブなイメージは、どのような点からきていると思いますか?
昔、統合失調症が精神分裂病と呼ばれていた時代、精神科系薬剤のパンフレットは、かなり印象的で独特なデザインでした2)。精神科に従事していない医療従事者がネガティブなイメージを持つ一因になっていたかもしれないです。
S.O(Ph)
坂場(OT)
なるほど、薬剤師ならではの視点ですね。僕はこのようなパンフレットを見たことがなかったので、かなり衝撃を受けました。
僕がPTの視点で考えるのは、学生時代に、精神科の情報がほとんどないからでしょうか。精神科学という授業はあったのですが、OTさんと一緒にちょっとやった程度の印象しか残っていません。しかし、資料に出てくる精神科の患者さんは極端な例が多くて、精神疾患は発作が起こりやすく、他人に危害を加えてしまうことがあることなどを教えられました。
大平(PT)
坂場(OT)
それもあって、「怖い」というイメージがあったのかもしれません。でも、実習に行ってみたら、イメージが180度変わりました。2ヵ月半の実習期間を穏やかに過ごし、患者さんとも仲良くなりました。なかには「来てくれて嬉しい」とか「リハビリがすごく好きで、楽しみ」と言ってくれる患者さんがいたり…。精神科に入院している患者さんは、個性が強いというか、自分の感情に素直だなって思いました。
大平(PT)
福地(Ns)
精神科というのは、他科との接触がほとんどない科ですので、医療従事者からもネガティブなイメージを持たれやすいかもしれません。そういったイメージを変えていくためには、実際に精神科で働く僕たちのような医療者が、情報を発信していくことが大事ですよね。精神疾患への理解が深まれば、ネガティブなイメージも徐々に減っていくのではないかと思います。
そうですね。この座談会だけでも印象が変わりました。
S.O(Ph)
まとめ
さて、読者の皆さんは、この座談会を読んで、精神科へのイメージは変わったでしょうか? これをきっかけに、メディッコでも今後もさまざまな取り組みを行うことで、精神科へのイメージをよい方向に変えていきたいですね。ありがとうございました。
参考資料
1)法務省 平成29年版 犯罪白書 第4編/第10章/第1節
2)精神科薬広告図像集