【EBM】みんなどうしてる? エビデンスの使い方

EBM(Evidence-Based Medicine:科学的根拠に基づく医療)は、臨床で遭遇するさまざまな課題に対する解決の糸口となります。

エビデンスとも呼ばれる科学的根拠は、最終的にガイドラインなどに集約されるため、誰でも入手可能であり、医療現場では、最良のエビデンスをもとに臨床的な判断を行うことが求められています。

今回は、それぞれの職種におけるエビデンスの活用場面や検索方法について、看護師、理学療法士、作業療法士が集まり、話し合ってみました。

参加者

大前(Ns)
看護師。看護研究や学会発表を行っている。個人的に論文を読み漁るのが趣味で、業務改善や患者さんに還元できるものがないか日々検索している。

須藤(OT)
作業療法士。大学病院に勤務し、有料論文サイトも幅広く閲覧できる環境。学会発表や論文執筆にてエビデンス検索を日常的に行っている。

喜多(PT)
理学療法士。回復期病棟に勤務し、臨床業務の傍らで学会発表・論文執筆・ブログ運営などを行っている。

REN(PT)
理学療法士。最近になって、ようやくエビデンスの重要性を認識し始めた。個人的経験とエビデンス活用のバランスが難しいと感じている。

教えて! エビデンスの活用例

REN(PT)

まず「エビデンスは臨床業務にどのような形で活用できるのか?」ということについて確認していきましょうか。皆さんがエビデンスを活用できた経験を教えてください。
僕は、足の切断を迫られている患者さんを目の当たりにしたとき、過去の症例報告を医師に提言したことで、切断を回避できたことがありました。

大前(Ns)

1つ目から大きいケースが来ましたね! それはどういった状況だったんですか?

喜多(PT)

その患者さんは大動脈解離で手術を行ったのですが 、片足の血流が長時間途絶えてしまった影響で挫滅症候群 となり、足の切断しか選択肢がないという状況に追い込まれていました。

大前(Ns)

REN(PT)

かなりシビアな状況ですね…
しかし、僕が「挫滅症候群・敗血症の患者に血液浄化療法+エンドトキシン吸着を施した結果一命をとりとめた」という報告を見つけてきて、医師に伝えたところ、その方法が採用されて奇跡的にうまくいったんです。患者さんは足を切断せずに済み、杖歩行で社会復帰されました。

大前(Ns)

それはすごい。努力が報われた結果ですね! 僕は、セラピスト間の評価基準をある程度揃えるためにエビデンスを活用しています。

須藤(OT)

REN(PT)

具体的にどのように活用しているのですか?
たとえば、橈骨遠位端骨折の患者さんについて、さまざまな症例報告や研究のアウトカム(結果)を調べたことで、セラピスト間の共通評価を確立できました。その結果、評価に悩む時間が減り、業務時間の短縮につながったことで余裕も生まれ、より個々の患者さんに合わせた介入ができるようになりました。

須藤(OT)

お二人とも、貴重な経験談をありがとうございます。エビデンスはこういった臨床以外にも、論文やブログを書くときなどに活用できると思います。症状、治療、医薬品などのデータを扱う際はエビデンスでの裏打ちが必要になりますからね。

喜多(PT)

エビデンスの信頼度にはレベルがあります! エビデンスレベルは研究の結論の強さを順位付けしたものであり、一般的には下のような図が用いられます。論文を読む際には、その論文の研究デザインを意識して読み始める必要がありますので、ぜひ覚えておきましょう!

※本記事に用いたエビデンスピラミッドを推奨する意図はありません。EBMについてはさまざまな考え方がありますので、最新情報について日々のアップデートも忘れないようにしましょう!

文献を探す方法はさまざま!

REN(PT)

エビデンスを活用できた場面については、また別の機会で詳しく聞きたいですね。では次に、皆さんがよく使う文献検索の方法を教えてください。
最近の文献はかなり電子化が進んでいますよね。僕は、J-STAGE医中誌Webを使って検索しています。あとは知りたいキーワードを直接Google検索に入れることもあります。

大前(Ns)

論文のフルテキストが読めることもありますよね。僕はGoogle ScholorCiNiiを利用することがあります。

喜多(PT)

僕が普段ちょっとしたことを調べるのに使うのはメディカルオンラインですね。よくやるのは、総説や解説論文を探して、概要をつかむ方法です。メディカルオンラインでは、海外ジャーナルの紹介もあるので、そこで気になったものはPubMedで原著論文を探しています。

須藤(OT)

REN(PT)

PubMedのような英語での論文検索についても、最近はGoogle翻訳の精度がかなり高くなっているので、調べるハードルが下がりましたね。

ガイドライン活用できていますか?

REN(PT)

文献検索以外にも、エビデンスと言えば、各学会などが公開している診療ガイドラインや、公益財団法人日本医療機能評価機構が運営しているMINDs(マインズ)ガイドラインライブラリなどがあると思います。
そうですね。

須藤(OT)

REN(PT)

理学療法士の業界でも、理学療法診療ガイドライン第1版を社団法人日本理学療法士協会が2011年に公開しており、2020年には第2版が予定されています。皆さんの職種ではいかがですか?
作業療法にも、一般社団法人日本作業療法士協会が作成した『作業療法ガイドライン(2018年度版)』がありますが、あくまで臨床指針程度の内容であり、ガイドラインの作成方法もそこまでしっかりしていないので、参考程度にしています。ただ、資料は豊富なので、基本的なことを学ぶのにはちょうどよいですね。

須藤(OT)

看護領域では、各種指針や新人研修、夜勤、交代勤務制などについて書かれたガイドラインがありますが、EBMに関連するようなものはあまり思い当たりません。

大前(Ns)

REN(PT)

そうなんですか。
僕がやっている集中治療領域には、多職種が絡んだガイドラインがたくさんあり、一般社団法人 日本集中治療医学会などから発信されています。個人的に『日本版・集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理のための臨床ガイドライン』などは非常に現場にリンクしていると感じます。

大前(Ns)

たしかに、ガイドラインはたくさんありますが、各専門職が臨床に応用していくまでは難しい印象ですね。これを機に、自分の職種のガイドラインについてまとめてみてもいいかもしれませんね!

喜多(PT)

エビデンスが見つからないとき、どうしたらいいの?

REN(PT)

誰しもが遭遇することだと思いますが、読みたい文献が会員登録しないと見れなかったり、そもそも見つからないこともありますよね。そんなとき、皆さんはどうしていますか? ちなみに僕は、大学の図書館などに足を運ぶこともあるのですが、それでも見つからないことが多いです。
僕は、実際に目の前にいる患者さんに対して何か対処する必要があるなら、エビデンスが見つけられなかったとしても、生理学や運動学などといった既存の知識を使って何かできることはないか、医師と相談することが多いです。

喜多(PT)

そうですね、これはEBMを正しく実践するのに重要な観点だと思います。エビデンスがある場合は、それを基に実践すればよいわけですが、エビデンスがない場合は、臨床経験、患者さんの価値観や置かれている状況などから、妥当と思われるものを考えることが必要です。作業療法の分野では、エビデンスが常に十分とはいえないので、考えつく範囲での最善策を提供しなければなりません。自分たちが“良い”と考えた方法を実証する努力も必要だと思っています。

須藤(OT)

REN(PT)

なるほど、エビデンスに対してはいろいろな考え方ができますね。ありがとうございました。エビデンスがないときは、既存の知識や経験などを踏まえて総合的に判断していきたいですね。今回は、エビデンスの検索方法もたくさん紹介していただいたので、自分が使いやすいものを探そうと思います。また、EBMの実践については、今後もっと深く話し合っていく必要がありそうですね。
まとめ
今回はエビデンスの使い方と調べ方について話しました。最近は、文献の電子化が進み、ネット上だけでもさまざまな検索方法があります。エビデンスを集めやすいからこそ、EBMは今では当たり前となっていますので、是非参考にしてみてください。

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