リハビリテーションでは、患者さんの治療プログラムを立てる際に、短期目標や長期目標といった目標を必ず設定します。
目標なしに治療をしてしまうと、患者さんは終わりが分からず、療法士も効果判定が出来なくなるためです。
今回は、療法士と患者さんが目標を共有することの重要性について解説します。
リハビリテーションにおける短期目標と長期目標
リハビリテーションでは、患者さんに合った評価と希望に基づいて目標が決められています。
評価は、患者さんの身体・精神機能、日常生活動作(ADL)や手段的日常生活動作(IADL)の遂行状況、そして自宅環境や社会資源など多岐にわたります。
ADLの一部に問題があった場合、その問題の解決が目標に加わるはずです。
例えば、トイレ動作ができなかったら、トイレに1人で行けるようになることが目標になるかもしれません。
この目標を達成するには、いくつか準備や段階が必要になりますので、さらに達成しやすい目標を立てて取り組みます。そのスモールステップにあたる目標を短期目標といい、それらを集合して達成可能な目標を長期目標として設定しています。
また、トイレに1人で行けるようになることを長期目標に置く場合、移動手段の獲得や、立位でのズボンの上げ下げ、尿便意を明確に訴えるなどの要素を短期目標とします。
達成期間については1週間から1か月、その状況に合わせて設定をします。
あくまで再評価の時期を決めるものなのです。
不安であれば1週間、2週間などの短い期間で設定し、前回評価と変化があったかどうかを比べます。
患者さんの希望も大事な要素
実は目標設定において重要なのは、評価だけではありません。
患者さんの主訴や希望によって、目標設定の在り方が大きく変わります。
例えば、患者さんが「トイレの介助は妻に任せているから、自分は日記が書けるようになりたい」と言ったらどうでしょうか。妻が了承するかは分かりませんが、状況によっては決して無視できない患者さんの希望です。
評価の結果、トイレが出来ないことに問題があり、解決できる可能性があるのであれば、トイレの自立を目標にすることは間違いではありません。
しかし、療法士と患者さんの目標がかけ離れていると、患者さんは意欲が下がり、リハビリテーション自体を行わなくなってしまいます。
患者さんの希望を頭ごなしに否定せずに、まずは日記が書けるようになるための要素を目標に挙げます。
そして、患者さんの身体の機能や全体の生活能力が改善するように、プログラムを立てることも有効な手段かもしれません。
療法士と患者との目標共有が生み出す、思わぬ効果
リハビリテーションでは、一対一で20分間の介入を1単位として数えています。
一人当たり1日1~6単位(20~120分)の介入によって予測される改善の見込みを目標に挙げているわけです。
しかし、療法士と患者さんの目標共有ができると、不思議なことに療法士が関わっている以外の時間にも、患者さんは能動的に頑張ってくれます。
すると、療法士の予想を超えて体力が向上していたり、運動スキルが上がったりすることがあります。
この目標の一致によって得られる効果は、リハビリ参加による意欲の向上や自己効力感の向上、不安の軽減など、主に心理的な面ではありますが、実際に活動時間が変われば、こうした思わぬ効果を生み出すことがあります。
まとめ
目標を共有するのは、現場で働いていれば当たり前に聞こえるかもしれません。
しかし、療法士が共有できていると思っていても、目標設定に参加できていないと認識する患者さんも少なくないことがわかっています。
患者さんとの目標を共有することは、心理的な効果にも繋がります。
リハビリだけでなく、多職種チームでも目標共有をしてみませんか。
地方の急性期病院で、地域の人たちを陰ながら支えています。真っ当に研究業績を積みながらも、メディアや地域活動を通して作業療法の魅力を伝えるマルチプレイヤー。