セラピストの悩みを解決!シャントがある患者さんにどう対応すればいい?

透析患者さんのシャントを長く使用するためには、患者さんによる日常ケアと、医療者による観察と保護が欠かせません。

しかし、シャントを見たことはあっても「扱い方がわからない…」と不安を抱えているセラピストも多いのではないでしょうか。

今回、理学療法士と作業療法士が気になっている「シャントの扱い方」について、透析分野に関与する看護師と臨床工学士が質問に答えました!

参加者

 かなこ(Ns)
看護師。新卒から6年目まで内科病棟に勤務し、シャント指導に携わる。現在は手術室での勤務にて、シャント作成に携わっている。

 杉本(ME)
臨床工学技士。透析患者さんの自立を目的とした発展的血液浄化療法に携わる。シャント専門施設での勤務経験もあり。シャントに対して他職種の方がどう考えているのか気になっている。

 たみお(PT)
理学療法士。整形疾患メインの慢性期病院に勤務。リハビリでシャントのある患者さんを担当することもあるが、知識に自信がないため、リハビリプログラムを考える際に不安を抱えている。

 小池(OT)
作業療法士。整形外科メインの急性期病院に勤務。外傷疾患を中心に担当しているため、シャントを有する患者さんを見ることはまれで、いざ担当したときの生活指導など、対応に不安がある。

透析患者さんの「シャント」ってなんだろう?

小池(OT)

僕は、シャントについて「透析のときに使うもの」というくらいの知識しかないのですが、そもそも「シャント」とは何なのですか?
おっしゃる通り、シャントは透析に欠かせない人造の血液回路です。透析では、1分間に200mlもの血液を体の外に出す必要があります。通常の血管に針を刺しても、透析に必要な血液流量を得ることができないので、シャントを作る必要があります。

杉本(ME)

小池(OT)

ふむふむ
透析患者さんのシャントとは、体の動脈と静脈をつなげて、静脈に勢いのある動脈血を流すことを言います。手首の動脈と静脈をつなぐ方法でシャントを作ることが多いですね。何らかの理由で自分の血管が使えない場合は、人工血管を使う場合もありますが、ほとんどの方が自分の血管同士をつないで作っています

杉本(ME)

たみお(PT)

シャントの部位は、手首の血管と決まっているのですか?
そうですね。シャントを作成する手術(シャント造設術)では、基本的に手首の橈側皮静脈と橈骨動脈をつなぎます。その他に、肘の血管をつなぐ場合もあります。なぜ最初は手首でシャントを作るかというと、作ったシャントが使えなくなったとき、次は中枢側に作り直す必要があるからです。なので、最初はなるべく遠位から作りますね。

かなこ(Ns)

たみお(PT)

なるほど。ダメになったときにだんだんと上にあがってくるということですね。
そうですね。つないだところがつぶれてしまうことがあるので、最初に肘から作ってしまうと、次に作り直すときは肘よりも中枢側で作らないといけなくなります

杉本(ME)

小池(OT)

それは大変そう…。

シャントは“グーパー運動”で発達する

小池(OT)

シャントは手術で作ったらすぐに透析で使えるようになるのですか?
透析で使えるようになるには、数日から10日前後ぐらいが実感としてあります

杉本(ME)

そうですね。人によって多少のばらつきはありますが、初穿刺といってシャントを作成したところから針を刺すまではだいたい1週間から10日前後が多いです。

かなこ(Ns)

小池(OT)

そのくらい待たないと血流が安定してこないということですか?
と言うよりも、つないだばかりのときは、シャントがつぶれやすいからですね。シャントが安定していることを確認するためにも、大体1~2週間は様子を見ているのだと思います。

かなこ(Ns)

小池(OT)

なるほど。たみおさんは、シャントのある患者さんにリハビリをするとき、何か気になっていることはありますか?

たみお(PT)

そうですね。リハビリで筋トレを行うのですが、シャント側の腕に強負荷の運動を行ってもいいのか気になります。あまり負荷をかけ過ぎないようにしていますが、力を入れると筋肉で血管を圧迫してしまいますよね。
シャントを作りたての患者さんには、筋トレと呼べるのかわかりませんが、シャントを発達させるために、やわらかいゴムボールみたいなグッズを使って、手をグーパーで握る運動をします。僕は“にぎにぎ”と呼んでいます。

杉本(ME)

たみお(PT)

そこは、負荷をかけても大丈夫なんですね。
はい。“グーパー運動”はむしろやったほうがいいですねただ「過剰血流」と呼ばれる、シャントが発達し過ぎてしまう問題もあります。シャントは、たくさんの血流を得るために作るのですが、シャントの方に血液が流れすぎると、それが心臓の負荷になってしまうので、発達し過ぎはなるべく避けたいんです。ジムに行ってる若い患者さんなどには、“グーパー運動”を「あんまりやらないでね」という指導をしたことがあります。

杉本(ME)

血圧を測るときはどこで測定したらいいの?

小池(OT)

リハビリでは、シャント側の腕(シャント肢)で血圧測定をしていけないといわれますが、シャントがつぶれてしまうからですよね。シャントがつぶれるとどうなるのですか?
先ほどから”つぶれる”という表現をしていますが、臨床的には「閉塞」と言います。 閉塞は、シャントにおけるたくさんの注意のなかでも、一番気を付けないといけないことですね。なぜなら、閉塞が起こると血液の流れが途絶してしまい、シャントが使えなくなってしまうからです。

杉本(ME)

小池(OT)

なるほど。
例えば、両腕にシャントがある患者さんで、片方の腕を透析に使って、もう片方の腕を血圧測定に使用することがありますが、それでシャントがつぶれて血管が破綻することは基本的にはありません

かなこ(Ns)

小池(OT)

あ、そうなんですね
でも、あんまりやらないですね。血圧測定以外では、シャントに針を刺すときなど、駆血帯できつく縛り過ぎたり、必要以上に長く駆血したりするのはよくないです。

かなこ(Ns)

シャントが両腕にある場合でも、基本的にはどちらかしか使ってないと思います。片方がだめになったから反対側に作ったとか。そういう場合は、今使っていない方で測ることもあります。でも、透析中は足で測ることが多いですよ

杉本(ME)

私の病院でも足で測ります。基本的にシャントがある腕では測らず、両方ある患者さんでは足という感じですね。

かなこ(Ns)

透析患者さんの「入浴介助」と「固定時」の説明と対応

小池(OT)

僕は作業療法士として透析患者さんのADLを考えたとき、入浴動作が一番に思い浮かびました。動作指導を考えると、”お風呂に入ったときにシャント側をゴシゴシ洗っていいのか?” とか、”浴槽に浸かるときに気を付けなくていいのか?”というところが気になります。どうなのですか?
すごくいい質問ですね!シャントの感染には、細心の注意を払う必要があります。とくに「お風呂は感染の原因になりやすい場所だ」と患者さんには説明しています。ですが、身体を清潔にする場所でもあるので、シャント肢を綺麗に洗うことはぜひやっていただきたいです

杉本(ME)

たみお(PT)

そうなんですね、勉強になります。
ただ「透析した日の夜はお風呂には入らないでください」と指導することが多いですね。理由は、針を刺したところにかさぶたができているので、お風呂でそこをこすると、出血をしてしまうリスクがあるからです。それから「シャントのところから菌が入ってしまうリスクがあるので、できるだけ一番風呂を使ってください」などの注意を促します

杉本(ME)

小池(OT)

なるほど。あと、 作業療法では、手の骨折や痺れがある人に対して、スプリントという付け外しのできる装具を作るのですが、手に合わせるときに圧迫がかかりやすいです。装具以外にも、例えばえ木などを手に当てて包帯を巻くなどの圧迫は、本当はしないほうがいいのですか?
シャント側の腕を骨折した患者さんを見たことがありますが、透析中は副え木を外していました。ただ、透析をしていない時間のほうが圧倒的に長いので、透析以外の時間はしっかり固定したほうがいいですよね

杉本(ME)

小池(OT)

はい、そうだと思います。
例えば、手のひらの方にシャントがある場合、副え木は手の甲側にするなど、シャントをつないでいる部分の圧迫を避けてもらえれば、日常的に巻いていても大丈夫です

かなこ(Ns)

小池(OT)

そうですか。気を付けるべきポイントがよくわかりました。明日から患者さんに説明できそうです。シャントって難しく構えがちですけど、今回の座談会でちょっと解決しました。

たみお(PT)

そうですね。僕も、少し自信が持てそうな気がします。
まとめ
シャントの扱いは、セラピストにとって学ぶ機会が少ないのが現状です。今回の座談会で、シャントについての具体的な話を聞いて、少し理解が深まったのではないでしょうか。他職種の考えに触れることは、多職種連携につながるだけでなく、患者さんのケアにも活かすことができそうですね。