今回、手術を担当する手術室看護師と、術後のリハビリを行う理学療法士で対談を行いました。整形外科領域の手術に関する情報は、術後のリハビリを行ううえでも重要です。
では、お互いが持つ情報を有効に活用するにはどうしたらいいのでしょうか? 率直に質問し合うことで見えてきた、連携につながるポイントとは…?
参加者
REN(PT)
11年目理学療法士。整形外科クリニック所属。関連病院からの紹介で術後リハビリに携わる機会は多い。
かなこ(Ns)
手術室看護師。整形外科の手術にも携わっている。
REN(PT)
11年目理学療法士。整形外科クリニック所属。関連病院からの紹介で術後リハビリに携わる機会は多い。
かなこ(Ns)
手術室看護師。整形外科の手術にも携わっている。
手術の準備ってどんなことをするの?
REN(PT)
理学療法士は、手術室に入る機会がほとんどないため、手術室がどんなところかを知らない人が多いと思います。かなこさんは手術室に勤務する看護師として、整形外科疾患の手術にも多く携わっているとお聞きしました。たとえば、股関節の人工骨頭置換術や人工膝関節置換術などを行う時、どんな準備をしているのですか?
整形外科の手術では、基本的に器具を扱うことが多いです。手術の進め方や器具の扱い方が書いてある「手技書」が準備されているので、私たちはあらかじめそれを読んで手術の流れを確認し、器具の組み立てを行います。使用する器具の数が多い場合は、メーカーさんが手術に立ち会い組み立て方を教えてくれることもありますね。
かなこ(Ns)
REN(PT)
器具の組み立ては臨床工学技士さんがやるようなイメージがあったのですが、違うんですね。
臨床工学技士さんは医療機器を扱うので、器具の組み立ては私たちがやることが多いです。
かなこ(Ns)
REN(PT)
なるほど。手技書はどの看護師さんでも読めるものなんですか?
手術室に関わる看護師以外は読まないと思いますよ。理学療法士さんたちは手技書を見る機会はありますか?
かなこ(Ns)
REN(PT)
見たことはないですね。手術内容を知りたいときは、教科書を読むか、医師に直接聞くことがほとんどだと思います。手技書には、具体的にどんなことが書いてあるんですか?
例えば、大腿骨頚部骨折に対するガンマネイルの手技書では、患者さんをどんな体位で手術するかなどの術前準備や、切開する部位や器具を挿入する位置などのアプローチ方法が書かれています。
かなこ(Ns)
REN(PT)
ほうほう
あとは手術の流れに沿って使う器具について書かれているので、どのタイミングでドリルやスクリューを組み立て、準備するのかを確認して手術に臨んでいます。
かなこ(Ns)
REN(PT)
なるほど! 術式の流れを事前に把握して、実際の手術に臨むのですね。理学療法士も術式を理解しておくのは大事なので、こういった情報は知りたいです。
そうなんですね。手術がどんな手順で進んでいるのかが詳しく書かれているので、機会があれば読んでみてください!
かなこ(Ns)
REN(PT)
はい!(どこに行けば読めるんだろう…(笑)?)
手術の方法は、術後のリハビリにどう影響するの?
今度は手術室看護師の私から質問です! 整形疾患の術後リハビリって、手術方法によって進め方が変わったりするのですか?
かなこ(Ns)
REN(PT)
あ、そうですね! 手術のアプローチ方法によって、リハビリで注意すべきことは違いますね。
そうなんだ!
かなこ(Ns)
REN(PT)
例えば、人工股関節置換術(以下、THA)という手術は、切開する場所が異なる前方アプローチと後方アプローチの二つに大別されます(※)。筋肉は切開されることでその後に筋力低下を生じますが、術中のアプローチが異なることで筋力低下を起こす部位も異なります。そうなると、術後のリハビリで筋力トレーニングする部位や方法も違ってきますね。
なるほど。アプローチ方法から筋力低下を予測して、リハビリ内容に反映させるんですね!
かなこ(Ns)
REN(PT)
理学療法士は、筋肉や皮膚といった術創部の回復状態を評価します。それを踏まえて、「術後何週でリハビリはこうしよう」という個別のプログラムを組み立てていますよ。
だから一見同じ手術でも、リハビリは患者さんによって違うんですね!
かなこ(Ns)
REN(PT)
そうなんです。THAの場合は、アプローチ方法によって関節の脱臼を起こしやすくなる動きが異なるので、日常生活の指導も変わってきます。家庭環境なども聞き取りしながら、患者さんが自宅に戻ってからも脱臼を起こさないように、リハビリプログラムを組みます。
手術から退院後まで考えていくんですね。手術室看護師と理学療法士の情報を共有していけば、術後の連携につながりそうですね!
かなこ(Ns)
REN(PT)
そうですよね。実際には話をする機会があまりないので、お互いの仕事内容をちゃんと理解できていない部分があると思います。これからはもっと連携をとっていきたいですね。
メモ
前方アプローチ:股関節の前方から手術をするアプローチ。脱臼肢位は、股関節の伸展・内転・外旋。日常生活ではうつ伏せから起き上がるときや、高いところの物をとるときなどに注意が必要。
後方アプローチ:股関節の後方から手術をするアプローチ。脱臼肢位は股関節の屈曲・内転・内旋。日常生活では和式トイレに座るときや、深めの浴槽をまたぐときなどに注意が必要。
まずは自分の職種の専門性を相手に伝えよう!
REN(PT)
知人の病院では、理学療法士が実際の手術を見学できる機会があるそうです。手術の流れ、器具の挿入方法、筋肉の処置などを理解するよい機会ですよね。理学療法士なら誰でも実際の手術を見学できるわけではないでしょうし、このような情報共有が現場で実現できればいいなと思いました。
そうですね。理学療法士さんとは何となく距離を感じていたので、まずはお互いに話し合いができる関係作りをしていきたいですね。そのためには、自分の職種の専門性をきちんと相手に説明できないといけませんね。
かなこ(Ns)
REN(PT)
そうですね! そのうえで、患者さんごとの術中の詳しい内容や術後のリハビリについて、具体的な意見交換ができるといいですよね。
まとめ
職場ではなかなか腹を割って話す機会がなくても、こういうきっかけが作れれば、これまでとは違った視点や新しい知識を得られるかもしれません。今後の連携を見据えて、まずは話しかけるところから始めてみてはいかがでしょうか?