医療施設ではさまざまな医療職が働いていますが、皆さんは自分の職場の医療者がそれぞれどんな仕事をしているか知っていますか?
どうやら、各職種の業務は「法律」によって定められているようです。今回は、現役の臨床工学技士、作業療法士、理学療法士、助産師が、それぞれの職種を定義付ける法律やその特徴を調べてくれたので、説明を聞いてみましょう。またとないこの機会、お見逃しなく!
参加者
さぼ(ME)
臨床工学技士5年目。専門は慢性血液浄化で、現在は透析CLに勤務。CEブロガー。
坂場(OT)
作業療法士5年目。精神科デイケアにて勤務。大学院で勉強中。
あみ(Ns)
助産師6年目。ハイリスク妊産褥婦のケアを経験後、現在は総合病院産科で勤務。
大平(PT)
理学療法士4年目。専門は脳卒中リハビリテーションで、回復期病棟に勤務
各職種の法律・定義を調べてみよう
さぼ(ME)
今回は「各職種の法律について」がテーマです。事前に調べた内容から、わかったことを共有していきましょう。まずは定義について確認していきたいと思います。
助産師が定義されているのは、「保健師助産師看護師法」でした。この中では、第2~6条で、保健師、助産師、看護師、准看護師が順に定義付けられています。
あみ(Ns)
保健師助産師看護師法 第2条
この法律において「保健師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、保健師の名称を用いて、保健指導に従事することを業とする者をいう。
第3条
この法律において「助産師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、助産又は妊婦、じょく婦若しくは新生児の保健指導を行うことを業とする女子をいう。
第5条
この法律において「看護師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、傷病者若しくはじよく婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者をいう。
第6条
この法律において「准看護師」とは、都道府県知事の免許を受けて、医師、歯科医師又は看護師の指示を受けて、前条に規定することを行うことを業とする者をいう。
さぼ(ME)
理学療法士と作業療法士は「理学療法士及び作業療法士法」で定められています。この法律ではまず、「理学療法」と「作業療法」について定義されていますね。
大平(PT)
理学療法士及び作業療法士法 第2条
この法律で「理学療法」とは、身体に障害のある者に対し、主としてその基本的動作能力の回復を図るため、治療体操その他の運動を行なわせ、及び電気刺激、マツサージ、温熱その他の物理的手段を加えることをいう。
第2条2
この法律で「作業療法」とは、身体又は精神に障害のある者に対し、主としてその応用的動作能力又は社会的適応能力の回復を図るため、手芸、工作その他の作業を行なわせることをいう。
坂場(OT)
第2条3
この法律で「理学療法士」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、理学療法士の名称を用いて、医師の指示の下に、理学療法を行なうことを業とする者をいう。
第2条4
この法律で「作業療法士」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、作業療法士の 名称を用いて、医師の指示の下に、作業療法を行なうことを業とする者をいう。
さぼ(ME)
どの職種も第2条に定義が書いてあるんですね! 皆さんと同じように、臨床工学技士は「臨床工学技士法」に定義がありましたが、興味深いことに、“生命維持管理装置“についての定義が先に書いてあるんです。
臨床工学技士法 第2条
この法律で「生命維持管理装置」とは、人の呼吸、循環又は代謝の機能の一部を代替し、又は補助することが目的とされている装置をいう。
第2条2
この法律で「臨床工学技士」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、臨床工学技士の名称を用いて、医師の指示の下に、生命維持管理装置の操作(生命維持管理装置の先端部の身体へ※の接続又は身体からの除去であつて政令で定めるものを含む。以下同じ。)及び保守点検を行うことを業とする者をいう。
坂場(OT)
法律から読み取れる業務内容を説明しよう
さぼ(ME)
法律の定義は堅苦しいので、皆さんもう少しわかりやすく説明できますか? 業務内容や業務範囲についても含めて、教えてください。
助産師は、看護師の資格を取らないとなれないので、業務内容も看護師がベースになっています。一般的な業務としては、診療の補助、療養上の世話があり、簡単に言うと、採血、点滴、食事・排泄介助、清拭など、医師の診察や入院中の生活において必要とされる支援を行います。また、患者さんの症状や状態の観察も大事な仕事ですね。
あみ(Ns)
坂場(OT)
いま働いている産科では、とくに妊産褥婦(※)、新生児のケアを重点的に担っています。具体的には、妊娠から出産までの妊産婦の保健指導やアドバイス、出産の介助、産後の母子のケア、授乳や育児指導などですね。助産師はそれ以外にも、不妊治療を行っている夫婦の相談や、思春期・更年期の性に関する相談を受けたり、子どもたちへいのちに関する教育をしたりなど、病気関係なく、ひとの生涯を通して関わっています。
あみ(Ns)
※妊産褥婦:妊婦、産婦、褥婦のこと。女性が妊娠してから産後までの状態。
そんなことまでやっているんですね! 男性が関わらない領域が多いので、全然知りませんでした。そういえば、学校で「いのちの授業」を受けたような 。あれは助産師さんだったんですね。
大平(PT)
さぼ(ME)
僕からは、臨床工学技士について説明しますね。定義では「生命維持装置管理装置の操作及び保守点検を行う」とありますが、実際の業務は多岐に渡ります。業務は、保守点検と臨床業務に大きく分けられ、保守点検とはその名の通り、あらゆる医療機器の点検や修理を行うことです。臨床業務には、主に患者さんに使用する機械の操作と動作確認が含まれ、代表的なものには人工心肺装置、人工腎臓装置、呼吸人工呼吸器があります。他にも、心血管カテーテル検査、内視鏡検査、ペースメーカー、不整脈治療の介助など、さまざまな検査・治療に関わっています。
すごい! 病院で使われる医療機器のほとんどに関わるということですね。イメージが湧きました。
あみ(Ns)
さぼ(ME)
そういえば、理学療法士と作業療法士は同じ法律で定義されていますよね。なぜでしょうか? 臨床工学技士はよく臨床検査技師と間違われるのですが、法律も同じだとなおさら間違われそうです。
あるあるですね。似ていることをやっているので、区別しづらいですし、学生に違いを聞いても、はっきりと答えてもらえないことが時々ありますよね・・・(笑)。
大平(PT)
僕が働いている精神科の患者さんは、歩行するのが理学療法、レクをやるのが作業療法という認識がありますよ。でも、精神科には理学療法士さんがいないので、作業療法士が歩行訓練をすると「理学療法もできるんだね!」と言われたりします。
坂場(OT)
さぼ(ME)
なるほど? なんだか僕のほうがわかってないような気がしてきました(汗)。僕のような読者のために「PT・OTの業務はズバリこれだ!」というのを教えてください。
では僕から、理学療法士の業務内容について説明しますね。日本理学療法士協会には「理学療法とは病気、けが、高齢、障害などによって運動機能が低下した状態にある人々に対し、運動機能の維持・改善を目的に運動、温熱、電気、水、光線などの物理的手段を用いて行われる治療法です。」と記載があります。
大平(PT)
さぼ(ME)
例えば、あなたが突然の病気、けがなど何らかの原因で、起き上がる、座る、歩くなどの日常生活動作が不自由になったとします。そうすると、ひとりでトイレに行けない、着替えができないなどという不便が生じますよね。そういった日常生活で必要な基本的動作に着目して、元は当たり前だった日常を再獲得できるようにリハビリテーションを提供するのが、理学療法です。
大平(PT)
僕も同様に説明させていただくと、「作業療法は、人々の健康と幸福を促進するために、医療、保健、福祉、教育、職業などの領域で行われる、作業に焦点を当てた治療、指導、援助である。作業とは、対象となる人々にとって目的や価値を持つ生活行為を指す。」と日本作業療法士協会によって定められています。
坂場(OT)
さぼ(ME)
この「作業」に焦点を当てた介入として、機能訓練や調理訓練を行います。ここでの「作業」とは患者さんがやりたいこと、する必要があること、することが期待されていることを指します。よって、各個人で作業内容が違います。対象者に合わせた「作業」に対して、どうすれば効率的にできるようになるのかを考えていくのが、作業療法だと思います。
坂場(OT)
さぼ(ME)
なるほど。これでだいぶ各職種の業務内容が整理できた気がしますね。
ここだけは 押さえておきたい!各職種の特徴
さぼ(ME)
ここまでいろいろ調べてみましたが、これだけは押さえておきたい特徴を紹介してください。
はい。看護師・保健師・助産師、この3つの資格の中で、日本では助産師のみが「女性」しかなれません。他の資格は男性でも取れますので、ここが大きな特徴ではないかと思います。
あみ(Ns)
坂場(OT)
また、看護師・助産師は「業務独占」資格でもあります。業務独占とは、資格を持っている人だけが、独占的にその仕事を行うことができるというものです。助産師の場合、「助産」つまり分娩介助や、妊娠期から産後、新生児期を通して、対象者の生活や授乳・育児などの保健指導を独占的に行うことができます。私は、助産師は女性の一番身近な医療者として、新しい家族の誕生・成長をお手伝いできるやりがいのある仕事だと思っています。
あみ(Ns)
坂場(OT)
あみ(Ns)
坂場(OT)
僕が考える理学療法士の特徴は、立ち座りなど、できて当たり前の動作を分析することでしょうか。例えば、歩いている姿から「股関節の筋力低下があるかもしれない」などと考えるのって、理学療法士独自の視点だと思いませんか? そこから、生活動作の評価や治療につなげるんです。最近では、介護予防の観点も取り入れられ、厚生労働省からも以下の通知が出ています。
大平(PT)
理学療法士が、介護予防事業等において、身体に障害のない者に対して、転倒防止の指導等の診療の補助に該当しない範囲の業務を行うことがあるが、このように理学療法以外の業務を行う時であっても、「理学療法士」という名称を使用することは何ら問題がないこと。また、このような診療の補助に該当しない範囲の業務を行う時は、医師の指示は不要であること。
このように、理学療法以外にも理学療法士の名前を使えるなど、活躍できる範囲が広がっています。
大平(PT)
※参考:厚生労働省医政局通知(理学療法士の名称の使用等について)について ~日本PT協会
僕が考える作業療法士の特徴は、日常生活全般を見るということです。患者さんの表面的な状態ではなく、これまでの生活の様子や現状、今後の生活など、総合的に「生活」を想像・予測して、患者さんの日常に対して密接に関われる素敵な職種だと思います。法律による作業療法の対象者は、理学療法と変わりません。理学療法は基本的な動作、作業療法は応用的な動作、社会適応能力を支援することが大きな違いではないかと僕は考えています。法制度では「身体又は精神に障害がある方」を対象とされていますが、大平さんが紹介してくれたように、身体または精神に障害をきたす恐れがある場合も含め、予防的な関わりの重要性が高まってきています。
坂場(OT)
さぼ(ME)
時代に合わせて、業務にも変化が求められるということですね。僕は、臨床工学技士最大の特徴は「医療と工学をつなぐ医療従事者」という点だと思います。今後、さらに医療が発展して、医療機器もどんどん改良されていき、AIやロボット手術など、機械化・自動化される手順も増えていくと予想されるので、医療機器の専門家として、臨床工学技士はこれからもっと活躍できる職種ではないかと考えています。
まとめ
今回は、助産師、理学療法士、作業療法士、臨床工学技士の法律とその定義、業務内容や特徴について調べ、共有しました。仕事をするうえで、自分たちの業務を定める法律は知っておかなくてはなりませんが、他職種の法律を見る場面はなかなかないので、いい機会になりましたね。また、法律だけでなく、それを取り巻く規則や通知にも、重要な情報が盛り込まれていることが発見できました。これも、多職種連携の一歩になるのではないでしょうか。