くも膜下出血とは、脳みそを覆っている髄膜(外側から、硬膜・くも膜・軟膜の3枚)の、くも膜と軟膜のすき間で出血が起こった状態を示します。この疾患は、高確率で後遺症が残ると言われており、40歳以降に多くみられ、脳卒中の中では唯、男性より女性で多い疾患です。
今回、くも膜下出血で救急搬送された患者さんが回復後、手足の麻痺は比較的軽度なものの、高次脳機能障害を呈した模擬症例について、日常生活や再発予防を理学療法士・看護師・薬剤師で検討しました。
大前(Ns)
脳神経外科内科病棟経験のあるICU看護師。「看護師は患者さんの生活全体をサポートする」という考えで常にアプローチできることを探している。他職種との連携で、さらなるQOL向上を目指したい
Fats(Ph)
がん診療に関わる病院薬剤師。くも膜下出血に対応した経験は少ないが、薬剤師の視点から患者さんにどんなアプローチができるかじっくりと考えたい
たみお(PT)
慢性期病院に務める理学療法士。くも膜下出血の症例はあまり経験したことがないが、生活面について多職種でどのように関わっていけるかを考えたい
※今回の症例検討に用いたデータは本記事に使用するための架空のもので、実在する事例・症例はありません。
※本座談会についての意見やアイデアを読者の皆さまから募集しております。Twitterで本記事を引用の上、ぜひコメントをお願いいたします!
模擬症例
基本情報
年齢:60歳女性
診断名:くも膜下出血
既往:高血圧。降圧剤服用にて(140/70)でコントロール中
家族構成:本人、夫(62)、長女(30)、長男(27)の4人家族。長女は同居、長男は県外に住んでいる。夫、長女は仕事のため日中は家にいない
病前の生活:専業主婦として家事全般をこなしていた。毎晩の飲酒、1日5〜6本の喫煙あり。
家屋構造:持ち家2階建。自室は2階
服薬状況
オルメサルタン錠20mg 1錠 1日1回 朝食後
アムロジピン錠2.5mg 1錠 1日1回 朝食後
入院経過
入院当日:自宅で頭痛と嘔吐があり、緊急搬送される。くも膜下出血と診断され同日、動脈瘤クリッピング術を施行
入院2日目〜:意識回復。理学療法、作業療法の介入開始
・理学療法→バイタルサインのチェック、血圧の変動に注意しながらの離床訓練、上下肢の麻痺に対する機能訓練を実施
・作業療法→理学療法同様の離床訓練、離床後のADL動作の確認や指導、周辺環境の調整などを実施
入院1ヵ月後:血圧状態は安定し、再出血も見られない。患者・家族からの要望もあり、医師から退院許可がおりた
入院時の身体能力、ADL状況
ブルンストロームステージ:上肢Ⅴ、下肢Ⅴ、手指Ⅴ
Trail Making Test:(A)160秒 (B)450秒
MMSE:26点
トイレ:自立
整容:自立
食事:自立
更衣:修正自立(ボタンシャツのかけ忘れなど)
入浴:浴槽へのまたぎ動作でふらつきがあるため見守りが必要
歩行:T字杖使用にて院内歩行は自立。しかし100m程度の連続歩行で疲労感あり
階段昇降:手すり使用で可能であるが、2階までの移動で疲労感を訴える
患者コメント
・軽度の記憶障害があり、入院中薬は飲み忘れがないよう毎回声掛けをしていた
・ADLはほぼ自立ではあるが、リハビリ中に途中で集中が切れると、それまでの動作が止まってしまうことがたびたびある
・リハビリ時以外はあまり病室から移動せず、ベッド端に座ってぼーっとテレビを見ていることが多かった
・本人、ご家族ともに退院後は自宅で生活したいという希望あり
・注意障害や記憶障害があるため、ご家族は患者が日中1人で生活することに不安を感じている
・患者本人も、病前に行なっていた調理や買い物などのIADLに関して不安がある
検討項目
以上から、くも膜下出血により、注意障害と認知機能低下が見られると仮定し、退院に向けて、次の3点を中心に検討を行う
①ADLにおける対策
②IADLにおける対策
③再発予防の対策
※注釈
ADL:日常生活動作
IADL:手段的日常生活動作
ブルンストロームステージ
自宅復帰に向けて、まず準備すべきこととは?
たみお(PT)
Fats(Ph)
たみお(PT)
大前(Ns)
たみお(PT)
65歳以上の方は、要介護認定において介護が必要と認定された場合、いつでもサービスを受けることができますが、40~64歳までの人は、介護保険の対象となる特定疾病により介護が必要と認定された場合のみ、介護サービスを受けることができます。
本症例の患者さんは60歳ですが、くも膜下出血は特定疾病(末期がんや関節リウマチ、脳血管疾患など全部で16種類)に含まれるため、介護保険の申請が可能です。
- 注意障害は日常生活に支障を来たしたり、危険が生じることがあるので、本人が1つのことに集中して作業しやすい環境を作り、「ながら作業」を控えるように伝える
- 1日のスケジュールを作成し、時間通りに決まったことができるように、ご家族と無理のないスケジュールを相談する
このような対策を提案してみてはいかがでしょうか?
大前(Ns)
たみお(PT)
自宅でのIADLについて考える
たみお(PT)
Fats(Ph)
たみお(PT)
Fats(Ph)
たみお(PT)
Fats(Ph)
たみお(PT)
大前(Ns)
たみお(PT)
大前(Ns)
たみお(PT)
大前(Ns)
たみお(PT)
- 火の元や戸締りの確認のためにチェックリストを作成して、目に付くところに貼る
- 洗濯機やレンジなど電化製品の利用手順を書いたものを本体に貼っておく
- 1日のやるべきことをスケジュール表に書いて、できたらチェックをする
- 服薬は薬箱や服薬カレンダーを利用して、飲み忘れを防ぐ
- ごみ出しの日はカレンダーに印を付ける
などの工夫ができると思います。
また、独居ではないので大丈夫かと思いますが、
- 大切なものを保管する場所を決めておく
- 必要な衣類を透明な衣類ケースで管理し、ラベルをつけてわかりやすくする
などもあると、1人の時間も安心かもしれません。
大前(Ns)
たみお(PT)
再発予防のためにどのような指導が必要?
たみお(PT)
Fats(Ph)
たみお(PT)
Fats(Ph)
大前(Ns)
たみお(PT)
Fats(Ph)
たみお(PT)
大前(Ns)
たみお(PT)
大前(Ns)
たみお(PT)
大前(Ns)
たみお(PT)
Fats(Ph)
大前(Ns)
※今回の症例検討に用いたデータは本記事に使用するための架空のもので、実在する事例・症例はありません。
※本座談会についての意見やアイデアを読者の皆さまから募集しております。Twitterで本記事を引用の上、ぜひコメントをお願いいたします!
ユーザーの声
面白い記事だった。回復期ではこんなことをしています。さらにあるといいな、と思ったのは、入院中に試験外出、外泊、買い物も実際行ってみて、何に困ったかを洗い出すとより具体的。
【模擬症例検討】くも膜下出血の後遺症を抱えた患者の在宅復帰を考える|メディッコ https://t.co/OARNMa2U2r
— rie@回リハ (@2525rye) June 10, 2019