【模擬症例検討】認知症患者さんのBPSDはどう考えたらいいの?

認知症の患者さんは、物忘れや判断力の低下など、脳機能の低下を表す“中核症状”だけでなく、精神の不安定さや徘徊など、精神・行動面に現れる“周辺症状”を示します。

行動・心理症状(BPSD )とは、この“周辺症状”とほぼ重なる概念として臨床現場で用いられています。

今回は、一般病棟の看護師、精神科の看護師、作業療法士、薬剤師の4人が集まり、BPSDの対応や考え方について、模擬症例を通じて話し合いました。

参加者

 須藤(OT)
作業療法士11年目。急性期病院に勤務。認知症ライフパートナー3級を持ち、患者さんの生活を支えるため日々尽力している

 福地(Ns)
看護師6年目。精神科病棟に勤務。フィジカルとメンタルにおける予防の格差是正を目指している

 かなこ(Ns)
看護師9年目。急性期病院の手術室に勤務。内科病棟での勤務経験もあり、その時代は認知症患者さんとの関わりもあった

 S.O(Ph)
薬剤師7年目。地域包括ケア病棟と療養病棟のある中小病院に勤務。入院患者の年齢層が年々上がっていることを実感している

模擬症例:認知症を有する腰椎圧迫骨折患者
・年齢・性別:80代女性(やせ形)
・診断名:腰椎圧迫骨折(第4、5腰椎:L4-5)
・既往:アルツハイマー型認知症(1年前に診断)、ドネペジルを服用中
・受診理由:数日前に自宅で入浴中に転倒し、受傷した。本人は嫌がっていたが、腰痛が引かないため、家族の付き添いで外来を受診した
・家族構成:夫、長男夫婦、孫の5人暮らし
・介護保険:要介護1、デイサービスを週2回利用している
・ご家族の意向:最近、認知症が進んだのか、よく怒るようになり心配している。自宅で介護しようと考えているが、この先もっと認知症が進行したらどうしたらいいか、不安が大きい

≪病棟での様子≫
・1人では手すりをつたって歩くのがやっとで、トイレまで介助をしても個室で失禁していることがある(ナースコールは押さない)
・朝方、壁伝いで廊下に出てきたり、部屋で荷物の整理をしたりするときがある
・日中も頻繁に部屋から1人で出てくる
・部屋をよく間違え、それを指摘すると「ばかにしてるでしょ! 嘘つかないで!」と怒ることがあった。他の患者さんともトラブルが起きている
・リハビリ(理学療法、作業療法)は毎回きちんと行っており、怒ることはない
・睡眠導入薬を使用しているが、夜中に起きることがある

以上から、BPSDが出ていると仮定し、病棟での評価・対応などについて話し合った

※今回の症例検討に用いたデータは本記事に使用するための架空のもので、実在する事例・症例はありません。

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認知症患者さんに関わるうえで各職種が行うアプローチとは?

須藤(OT)

今回は、認知症患者さんのBPSDをどう考えるか話し合っていきましょう。単に認知症といってもさまざまな症状や病態がありますが、各職種でどのように評価を行っているのでしょうか。僕の病院では、作業療法士である僕たちが認知機能の心理検査(改訂長谷川式簡易知能評価スケール、Mini Mental State Examinationなど)や、それらが0点もしくは測定不能な場合は、観察から行動評価を行っています
私の病院でも、リハビリスタッフが認知機能評価をやっていますね。この症例の場合、もともとの様子と比較すると入院後に認知症症状が少し進んでるのではないかと思います。あとは、転倒で骨折しているので、入院中にも転倒予防のアセスメントを実施して注意する必要がありますね。

かなこ(Ns)

そうですね。僕の病院では、医師や臨床心理士が認知機能の評価を行う場合もあります。看護師は、入院時に転倒・転落や誤嚥・窒息などのアセスメントシートによる評価を行いますね。

福地(Ns)

須藤(OT)

なるほど、看護師の視点からは、転倒転落や誤嚥のアセスメントが重要なのですね。今回の患者さんは、1人で部屋から出てくるといった不穏行動が見られていますが、この原因はどう探ったらいいでしょうか。
ご家族からの聞き取りで何かわかるかもしれません。認知症の中核症状が原因で現状の把握が難しくなり、その不安から不穏行動が生じることもあります。また、環境変化のストレスによるせん妄の影響もあるかもしれません。外側から原因を決めつけるのではなく、ある程度の観察期間を設けて、多角的な検討が必要だと思います。

福地(Ns)

須藤(OT)

その通りですね。では、薬剤師さんはこの症例に対してどう関わりますか?
病棟では、患者さんの持参薬を確認したり、これまでの服薬歴などを調べています。薬の管理状況やご家族からのヒアリングにより、服薬アドヒアランス や、服用中の薬剤に認知機能低下リスクのある薬剤がないか、転倒転落リスクのある薬剤がないかなどの評価を行います

S.O(Ph)

須藤(OT)

なるほど、服薬により認知機能に影響が出る可能性もあるということですね。そのようなリスクのある薬剤にはどのようなものがあるのでしょうか?
例えば、ループ利尿薬や抗精神病薬、抗うつ薬などですね。その他にも転倒リスクなどが報告されている薬はありますが、リスクがあるから服薬をすぐに中止するというわけではなく、薬がもたらすベネフィットとリスクのバランスを考えて、その後の処方を検討していく必要があります

S.O(Ph)

参考リンク:「高齢者が気を付けたい 多すぎる薬と副作用」(PDFが開きます)

入院中も生活背景を考慮した環境づくりが大切

須藤(OT)

では、次に入院時の具体的な対応を考えていきましょう。患者さんの評価から認知機能低下(短期記憶や日時・場所の見当識記憶など)が疑われる場合、僕はまず、入院中の環境に原因がないかを考えます
というと?

福地(Ns)

須藤(OT)

例えば、日時を把握できるよう目の届く範囲にカレンダーを設置したり、場所がわかるように病院のパンフレットを置いたりします。何度も口頭で確認するとストレスになるかもしれないので、手がかりを与えて、そこから把握することができるか、1~2日間で試してみるんです。
たしかに、自宅と環境が異なることが原因で、混乱もあるかもしれないですね

かなこ(Ns)

なるほど。僕が対応を考えるなら、この患者さんは、手すりが必要とはいえ独歩可能なので、ナースステーション近くのトイレを使ってもらうよう指導したり、廊下から見えやすい位置のベッドを使ってもらったりなど、こまめに目を配れるような工夫もできると思います。

福地(Ns)

それは大事ですね!

かなこ(Ns)

また、部屋を間違えてトラブルになっているので、部屋の入り口に目印を付けてわかりやすくすることも必要ですね。頻繁に部屋から出てしまうので、危険度が高いならば離床をナースステーションに知らせてくれるセンサーマットなどの設置も有効かもしれません。ただ、入院したばかりで環境の変化についていけてないことも考えられるので、自宅での様子や生活スタイルをご家族から聞きながら様子を見ていくべきでしょうね。

福地(Ns)

須藤(OT)

部屋の位置などの環境から調整してもらえると、転倒・転落の防止やトイレの失敗抑止にもアプローチできそうですね!
病棟によっては他の患者さんとの兼ね合いもあるので、部屋の位置調整は難しいこともあり、私の病院ではセンサーマットを活用することが多いですね。急性期病棟だと人の出入りが多く、目の届かないところまで行ってしまう可能性もあるので、ネームバンドに部屋番号を書いて、万が一離れた病棟に行ってしまってもすぐに連れてきてもらえるようにしています

かなこ(Ns)

須藤(OT)

たしかに、徘徊が病棟内とは限らないですもんね。

薬物治療は退院後を見据えた対応が必要

須藤(OT)

薬剤師さんはどう対応しますか?
一般的に、退院後にご家族が介護を希望している場合、服薬回数を減らしたり、剤形を変更したりして、服薬方法をシンプルにできないか検討します。今回の症例は、認知症治療薬1種類を内服しているだけなので、大きな問題はないと思われます。

S.O(Ph)

須藤(OT)

なるほど。
ですが、この患者さんは夜中に起きてしまっていて、睡眠導入薬では睡眠の改善が十分でない可能性があるので、入院中は薬剤の変更を試みる必要がありそうですね。また、ご家族の考え方によっては、認知症治療薬を中止することも考慮すべきと思われます。

S.O(Ph)

須藤(OT)

認知症治療薬を中止するかどうかというのは、かなりデリケートな問題だと思うのですが、ご家族にどのように打診するのですか?
そうですね。もちろん、事前に患者さん本人やご家族の考え方をできる限り聴取したうえで、認知症治療薬に望まれる効果が実際に得られているのか、BPSDに対する改善が見られているのかなどを考えます。患者さんにとってなるべく最善の選択肢を与えられるよう、まずは医師と検討を行い、患者さんとご家族には、薬物治療を継続するメリットとデメリットを提示して、考えてもらうことになりますね。

S.O(Ph)

須藤(OT)

患者さんだけでなく、ご家族の心理面のサポートも重要ですね。

行動心理症状(BPSD)をどう考えるか?

須藤(OT)

では、最後にBPSDが顕在化した背景について、皆さんの意見を聞いていきたいと思います。
圧迫骨折で安静にしている間、何もすることがなければ、認知機能が少しずつ低下する恐れがあるので、その辺りが考えられるのではないかと思います。

かなこ(Ns)

僕も同じことを考えます。あと、病室は自宅とは違うので、生活上の変化や刺激が少ないこと、面会時間の制限などで家族との会話時間が減ることも、症状進行の原因となっているかもしれません。

福地(Ns)

須藤(OT)

そうですね、もともとの認知機能が低下していたならば、入院という状況に対応する力も弱いかもしれないですね。でも僕は、今回の症例で考えると、実際に認知症の病態が進行しているのではなく、ただ環境に適応できていないだけ、とも考えられるのではないかと思います
どういうことですか?

かなこ(Ns)

須藤(OT)

患者さんは、自分が認識できる状況の中で一生懸命に行動しているのではないかと思います。でも、気付いたらどこだかわからないところにいて、家とは違うので落ち着かない…。知らない人(看護師さん)に、呼んでくださいと言われるけど、いつどう呼んだらいいかわからない、などという不安が、不穏行動につながっているのではないかと。
なるほど、そういう感覚はあるかもしれないですね!

かなこ(Ns)

須藤(OT)

実際、認知症による記憶や見当識に障害があるかもしれませんが、入院という環境変化をトリガーとして、本人の主観的な世界が崩れてしまっているんだと思います。元気だったときの自分や、自宅での生活などの断片的な記憶が無意識に行動に表れてしまい、現在置かれている自分の状況との乖離が大きくなっているのではないかと考えます。なので、ふくっちさんが言うように、まずは病気のせいと決めつけず、環境を調整して落ち着いてもらえるようサポートすることはとても大切だと感じました。環境や処方薬を調整することで落ち着きを取り戻せたら、どういうときに怒りの感情が出るのかなど、生活面に支障が出やすい場面についての対応も検討して行けると思います。
まとめ

今回は、入院を機に認知症の症状が進んだように見られる患者さんについて検討しました。入院中の環境変化についていけず、混乱してしまうことで、BPSDが悪化してしまうこともあるようです。認知機能に絞った評価だけではなく、自宅での生活背景を踏まえた関わり方や環境調節が大切なこともあるので、心に留めておきましょう。

※今回の症例検討に用いたデータは本記事に使用するための架空のもので、実在する事例・症例はありません。

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