「医療安全」とは、誰もが聞いたことのある言葉だと思いますが、医療現場では具体的にどんなことが医療安全の確保につながるのでしょうか?
今回、院内の医療安全管理部を担うこやまさんをメディッコにお迎えして、医療安全について教わりながら、一緒に具体的なアプローチを考えてみました。
参加者
喜多(PT)
理学療法士11年目。この座談会で医療安全についての理解を深めたい。
こやま(ME)
臨床工学技士13年目。医療安全管理学の修士課程を修了しており、2017年7月より医療安全管理部を兼務。この座談会をきっかけに、若手が医療安全について考えてくれれば嬉しいと思っている。
大前(Ns)
看護師11年目。現在、院内の医療安全委員として、他職種を交えたインシデントの振り返りを主導している。
“医療安全”をひと言で表すと?
喜多(PT)
医療安全という言葉について、今まで深く考えたことがなかったので、これを機に医療安全について詳しく教えてください!よろしくお願いします。
よろしくお願いします。まず、「医療安全」という用語についてなのですが、「リスクマネジメント」や「患者安全(Patient Safety)」とほぼ同義の概念と考えていただいて構いません。日本の法律や各種指針では「医療安全」という言葉が使用されているっていうだけですね。
こやま(ME)
喜多(PT)
WHOの定義では「医療に関連した不必要な害のリスクを許容可能な最小限の水準まで減らす行為1)」となっています。
こやま(ME)
喜多(PT)
具体的にどんなことが「医療に関連した不必要な害」に当てはまりますか?
わかりやすい事例としては、転倒・転落による骨折と入院期間の延長などでしょうか。
こやま(ME)
喜多(PT)
そう言われると身近に感じますね! 難しく考え過ぎていたかもしれません。
医療現場では、インシデントやアクシデントと呼ばれるものですね?
大前(Ns)
その通り。医療安全は、皆さんにとってとても身近なはずです。
こやま(ME)
喜多(PT)
医療職は、医療安全を潜在的に意識しているということですね!
例えば、臨床工学技士が医療機器の保守点検をすることも医療安全のひとつです。看護師の場合は、薬の配薬や食事の配膳を間違いなくすることなどですかね。その一方で、必要のないことはしないという考えも、ひとつの医療安全だと思っています。
こやま(ME)
院内での医療安全に関わる具体的な活動は?
喜多(PT)
こやまさんは医療安全管理部ということですが、大前さんも医療安全委員ですよね。活動としてはどんなことをしているのですか?
僕の場合は、院内の各部署で発生したインシデントの報告書をチェックして、職種をまたいだ再発防止策を考慮する必要があるものをピックアップし、根本的な原因を追求するための分析などを行っています。
大前(Ns)
喜多(PT)
さまざまな方法がありますが、うちではよく使われているRCA(Root Cause Analysis:根本原因分析)という手法を使用して、事象に関わった人や事実、システムを振り返りながら、インシデントやアクシデントの真因分析をしています。
大前(Ns)
喜多(PT)
簡単に言うと、インシデントに至った原因をたどっていって、どのような時系列でどんな事実が重なったのか、ひとつひとつ確認していき、いくつか出てきた事実に対して「それは“なぜ”起きたのか?」を掘り下げて、根本原因を追究するといった感じです。
大前(Ns)
喜多(PT)
なるほど! 対策を練るために、まずは原因をとことん突き詰めるってことですね。
僕は、大前さんと同じインシデント報告書のチェックのほかにも、院内ラウンドに参加して、公表されている医療事故事例の情報などから、当院で同様の事故が発生するおそれがないかなどを未然に調査し、必要に応じて対策をしています。
こやま(ME)
参考
☆参考☆ 近日公開!『医療安全の鍵は? 誤投薬を防ぐためにできること』
身近な事例で考える、医療安全とは!
ここまでの話で少しイメージがついたと思いますが、喜多さんは、自分の立場から考える医療安全へのアプローチについて、どう考えますか?
大前(Ns)
喜多(PT)
やはり、院内での転倒予防が一番に思い浮かびます。ベッド周囲の環境を整える、介助方法をスタッフ間で統一する、必要な人はセンサーマットを使用する、転倒予防のカンファレンスを実施する、などでしょうか。こやまさんのお話を聞いて、普段から実施していることも、医療安全にとって大事なことだと再認識しました。
こやま(ME)
看護師は、患者さんの生活を24時間サポートをしているので、転倒・転落はもちろん、食事による誤嚥防止のために食事形態の検討、誤薬の防止、昼間なら活動しやすい環境・夜なら眠りやすい環境を作ることなど、幅広い対応が求められると思っています。これらはどの部署の看護師にも必要とされる視点だと思います。
大前(Ns)
こやま(ME)
ただ、僕が個人的に意識しているのは、「自分1人でどうにかしようとしないこと」ですね。例えば、誤嚥がありそうなら食事の形態を言語聴覚士さんと相談するとか、ADLが戻りきっていなくて転倒リスクがある場合は理学療法士さんから移乗介助を教えてもらうとか。このような、それぞれの分野のプロにアプローチ方法を相談することが大事だと思っています!
大前(Ns)
喜多(PT)
そう。まさに、医療安全はメディッコが目指す多職種連携にもつながるんです! 喜多さんは臨床にいる理学療法士の立場から、患者さんにより近い視点で、大前さんは看護師そして医療安全委員会の立場から、医療安全を勉強された方の院内全体を見た広い視点だと思います。
こやま(ME)
喜多(PT)
医療安全とは、われわれが日々考えていることだったんですね。
そうなんです! 医療安全って、何が正しいとかではなくて、自身の立場によってアプローチ方法や影響を与える範囲が違っていて当たり前なのです。それぞれが考える医療安全を、日々実践することが大切だと思いますよ。
こやま(ME)
医療安全の意識を持とう!
喜多(PT)
最後に、読者の皆さんへ医療安全についてのメッセージをお願いします!
職場でインシデントを起こすと落ち込むとは思いますが、誰もが通る道です! あなたのインシデントから得られた教訓が、その後のインシデントやもっと大きな医療事故を防いで、たくさんの患者さんのために役立つかもしれません! なので、隠したりせずインシデント報告書はきちんと出して、職場全体でぜひ原因分析をしてください!
大前(Ns)
最初に提示した医療安全の定義だけ見ると、若手にとってはわかりにくいと思います。なので、先輩は「医療安全」という言葉だけではなくて、自分たちにとっての医療安全とは何かを意識して、後輩に伝えていってほしいです。今回は、看護師、理学療法士、臨床工学技士が医療安全について語り合いましたが、共通している根本の部分って「常に患者さんのことを考えて行動していること」だと思います。この座談会をきっかけに、先輩も新人も、医療安全を身近に感じながら働いてもらえると嬉しいです。
こやま(ME)
まとめ
医療安全とは、すべての医療者にとって、身近にある「患者さんのため」の知識や対策であることがわかりました。そして、ここでも多職種連携は欠かせないことが再確認できましたね! 皆で安全なチーム医療を作っていきましょう!
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