身体拘束(抑制)を減らすためには?現場の苦悩や解決策を話し合ってみた

医療スタッフにとって、身体拘束(抑制)は、患者さんの安全を守る目的でありながら、苦痛を与えてしまうという側面もあり、できれば行いたくないものです。しかし、現場ではさまざまな事情から避けられないことも……。

今回、看護師、理学療法士、作業療法士、薬剤師、臨床工学技士が集まり、現場での苦悩や身体抑制を減らすことができたエピソードなどを話し合いました。 

参加者

 喜多(PT)
回復期病棟に勤める理学療法士。身体拘束についてみんなの話を聞きたい。

 

 おぬ(Ns)
精神科病棟での勤務経験がある看護師。精神科急性期病棟でも慢性期病棟でも身体拘束に関わってきた。

 

 須藤(OT)
急性期病院に勤める作業療法士。認知症サポートチームに属し、適正な身体拘束が行われるように助言・指導している。

 

 久原(ME)
総合病院で勤務しており、カテーテル治療室や集中治療室での身体拘束に関わることが多い。

 

 イサミ(Ph)
急性期病院に勤める薬剤師。最近話題の身体拘束について興味がある。

 

 かなこ(Ns)
看護師。病棟経験あり、なるべく身体拘束をしないように気をつけていたけど難しいときもある!!と思っていた。

 

 福地(Ns)
精神科 慢性期開放病棟勤務の看護師。精神科では切っても切れない身体拘束と日々格闘中。

どうしてもやむを得ない状況がある

喜多(PT)

今回は、患者さんの身体抑制や身体拘束についての座談会です。皆さんの経験や考えを話し合いましょう。

おぬ(Ns)

そうですね……。まず、精神科の法律を読んでみてください。精神保健福祉法(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律)の第36条に基づき、精神科では行動の制限を医師の指示の下で行っています。精神科病院での行動制限はこの法律があり、そのなかに紐やミトンなどで行動を制限する『身体拘束』と、薬剤などで沈静する『身体抑制』があります

喜多(PT)

なるほど、そもそもその辺の認識があやふやでした。

いや、喜多さん!このあたり、実は定義が曖昧なんです。看護協会では、身体拘束ガイドラインを出していますし、日本集中治療学会では『身体拘束(抑制)』と表記しています。もとを辿れば、厚労省の通知で『身体的拘束は、抑制帯等、患者の身体、または衣服に触れる何らかの用具を使用して、一時的に当該患者の身体を拘束し、その運動を抑制する行動の制限をいう』と示されています。私見ですが、この文章中にも、抑制と拘束が使用されていて、つまり身体拘束は物理的なものに限らず、本人の意図に反して行動制限をすること全般を指すように捉えられると思います。

須藤(OT)

喜多(PT)

へぇ、知らなかったです。今回は『身体拘束(抑制)』として、是非を問うものではなく、現状について皆で話しましょう。臨床工学技士さんや薬剤師さんは身体拘束(抑制)に関わることってありますか?

ありますよ。例えば、冠動脈などの緊急カテーテル治療を行う場合、通常、患者さんは意識のある状態(局所麻酔)で処置を行いますが、治療中に苦しくて体を動かすことがあります。体を動かすのはかなり危険なので、やむを得ず手足を物理的に拘束します。それでも不十分な場合には薬剤で鎮静していますね。

くー(ME)

イサミ(Ph)

僕もありますね。ICUなど、集中治療が必要となる重症患者さんに対して関わる機会が多いです。高度な医療介入が必要なので、医療機器やチューブ類が外れることは生命の危機に直結します。薬剤師としての身体拘束(抑制)での関わりは、こうした患者さんに対する薬剤を使用した鎮静が主ですね。

おぬ(Ns)

精神興奮状態の患者さんを薬物療法で抑えることも身体拘束(抑制)に該当しますよね。精神科以外の場合には身体拘束(抑制)を定める法律がなく、家族や本人の同意書とガイドラインが根拠になると思います。現場で働くスタッフにとっては心細いものですし、問題を複雑にしますよね。

おぬさんの言う通りですね。僕は、治療上で必要なためには仕方ない部分もあると認識しています。

須藤(OT)

かなこ(Ns)

私も同じです。病棟ではなるべくしないようにしていますが、自分の中で線引きをして考えています。例えば、抜去されると生命の危険がある場合(挿管中やドレナージをしている患者さんなどには適応するという風にしています

術後せん妄を呈してルート抜去などのリスクがある方は、身体拘束(抑制)されることが多いですよね。せん妄がなければ状況説明で済む方もいますが、そうでない場合は一時的に四肢と体幹を拘束し、それでも暴れてしまう場合は薬剤での鎮静をしています。

須藤(OT)

身体拘束(抑制)における現場の苦悩とは

喜多(PT)

手術や生命に関わるときの身体拘束(抑制)は致し方ないのはよくわかります。では、認知症の方や転倒リスクの高い方に行われる日常的な場合は、どうでしょうか?

おぬ(Ns)

精神科では、転倒転落防止を目的とすることは禁止とされています。この厚生労働省の指針に沿わなければなりません。

【精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第三十七条第一項の規定に基づき厚生労働大臣が定める基準】

「二 対象となる患者に関する事項

身体的拘束の対象となる患者は、主として次のような場合に該当すると認められる患者であり、身体的拘束以外によい代替方法がない場合において行われるものとする。

ア 自殺企図又は自傷行為が著しく切迫している場合

イ 多動又は不穏が顕著である場合

ウ ア又はイのほか精神障害のために、そのまま放置すれば患者の生命にまで危険が及ぶおそれがある場合」

 引用:精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第三十七条第一項の規定に基づき厚生労働大臣が定める基準

おぬ(Ns)

実際は、病院によって取り組み方は異なりますし、身体拘束(抑制)せずに隔離だけで状態の安定を目指すところも増えていますよね

整形外科だと、入院前から認知機能低下によって怪我や手術を覚えておらず、行動制限が守れない人に行うことがあります。状況理解や状態安定するまでは一時的に必要な場合がありますね。

須藤(OT)

おぬ(Ns)

そういえば、脳外科病棟勤務のときに、適切な拘束の方法で苦慮したことがありました。ベッドのどのあたりに拘束のベルトを通すのか、どのように拘束帯を身体に装着するのか。拘束具の使用方法をしっかり理解しておかないと、その人の体型に合わせた適切な長さの拘束帯を使用することができずに、患者さんを危険に晒してしまうこともありますよね。
『適切』と、言うのは簡単ですが、実際は難しいですよね。例えば、『新人さんが考えた適切な方法』と『師長が考えた適切な方法』は違うこともありますよね。僕は、一人で抱え込んだり、悩んだりするのではなく、「どう思います?」と周りにも聞きながら進めるしかないと思っています。色んな正解がありそうですね。

須藤(OT)

正解はひとつではないですよね。現場からしたら適切だと判断したけど、家族から見たらやり過ぎだと思われることもあるでしょうし。精神科のように指針を基に行動していく場合は指標があり、やりやすいようなイメージですが、実際のところはどうですか?

くー(ME)

福地(Ns)

やりやすいというと語弊がありますが、現場判断ではなく医師に相談し指示をもらうので他科に比べるとやりやすいと言えると思います。僕の病院はかなり古いタイプの精神病院ですが、身体拘束はなるべく行わないという方針あります。けれど身体拘束(抑制)をゼロにすることは本当に難しいです。厚労省のガイドラインを常に確認しながら、自傷・他害の可能性や不穏が強い場合には、やはり身体拘束(抑制)を行うことがあります。

身体拘束(抑制)を減らせた取り組みを教えて! 

喜多(PT)

皆さんの経験で身体拘束(抑制)を減らせたエピソードはありますか?

おぬ(Ns)

精神科で水分摂取を拒み、脱水で点滴指示のあった患者さんがいました。ただ、自抜行為が予想され、身体拘束(抑制)が避けられない状況だったのです。そこで、ベッドサイドで根気強く水分摂取の必要性を説明して、なんとか水分摂取してもらうことができました。再度、医師と相談して点滴不要となったため、結果的には身体拘束(抑制)を減らせた事例となりましたね。

福地(Ns)

僕も似たようなエピソードがあって、拒薬する患者さんに「拘束して経管で薬を入れようか…」という話が出たことがあります。そこで、おぬさんと同じように説明を繰り返し行って、なんとか服薬できるようになりました。

喜多(PT)

現場スタッフの努力が功を奏したケースですね。久原さん、須藤さんはどうですか?

患者さんへの説明や呼吸器の設定を工夫したことで、受け入れがうまくいったことがあります。NPPV(非侵襲的陽圧換気)をフェイスマスクで行う場合、マスクから出てくるすごい勢いの温風に患者さんは抵抗を示す場合が多く、拒否されることが多いです。そうならないためにも、僕は事前に患者さんの話を聞くようにしていて、その上でマスクの説明をしています。そうすることで、治療がうまく進むことが多いと感じます。医療者側の話を聞いて欲しいなら、まず患者さんの話をきちんと聞くことが大切ですね。

くー(ME)

僕のところは、認知症ケアチーム(認知症患者さんのケア状況を評価、多職種でサポートする院内チーム)のラウンドで病棟をまわっていると、状態が変化しているのに、評価が更新されていないのを発見することがあります。そのとき、「今は拘束必要ですか」と尋ねることで、再評価し、拘束が外れたことがあります。

須藤(OT)

喜多(PT)

患者さんに関わるスタッフが丁寧な関わりをすることは、やっぱり大切ですね。

認知機能低下を有する患者さんの身体拘束(抑制)について

喜多(PT)

身体拘束でよく話題になるのが、認知症の患者さんですよね。皆さんはどのような経験がありますか?

福地(Ns)

僕が整形外科に勤めていたときは、離床センサーやマットを多く使用しており、拘束具は見たことはありませんでした。ちょっと思うことですが、身体拘束(抑制)に対する意識が医療者の中でもさまざまで、人によっては安易に考えているように感じることがあります。“拘束慣れ”しないように気を付けないといけませんよね。
そうですよねぇ。僕はベッドからの転落が危険なら、畳のような部屋にする。歩き回るのが危ないのなら、歩き回ってもよいスペースを作ってしまう…とか考えたことがあります。このような案はどう思いますか?

くー(ME)

かなこ(Ns)

転落リスクがある方で、ベッドを使用せずにベッドマットのみで対応をした経験はありますね。あとは、徘徊してしまう方の場合は、同じフロアの他病棟の看護師と連携することで、徘徊しても危険を最小限に防げるように対策したこともあります。

おお!すでに実践しているのですね!

くー(ME)

認知症の患者さんで問題になるのは、説明や指示の記憶が持続しないことがありますよね。僕の病院では、「トイレや用がありましたらオレンジのボタンを押してください」と紙に書いて貼っておきます。すると、理解できる方は読んで押してくださるので。

須藤(OT)

かなこ(Ns)

看護師も紙に書くことはやりますね!

現場ではいろんなことを実践しているのですね!

くー(ME)

多職種連携で身体拘束(抑制)を減らすことはできる? 

喜多(PT)

最後に、メディッコメンバーは多職種チームなので、多職種でできる取り組みについて話しましょう。須藤さん、何かいいアイデアはありませんか?

認知症の患者さんに対しては、丁寧に観察することで行動要因を探ったり、生活背景を家族に聴いて予測を立てたりする手法もあるようです。僕は『ライフヒストリーカルテ』と呼ばれるものを使っています。これは患者さんまたは家族さんと面談して、生まれてきてからこれまでしてきたこと(学校時代、仕事、趣味など)を1つの紙にまとめるです。それをベッドサイドに置いて、患者さんは読むことで自分の人生を思い出し、スタッフは交流の糸口になることがあります

須藤(OT)

喜多(PT)

これはいいですね!スタッフから患者さんへの理解や適切な声掛けは、患者さんの行動に影響しますが、個々のアセスメント力に左右されると感じています。ライフヒストリーカルテを使うと、スタッフ間で共有できていいですね。

福地(Ns)

たしかに、そのような情報共有はいいですね。僕は現場でOTさんとの情報共有を大切にしていて、作業療法参加中の情報を些細なことでもいいので教えてもらっています。そこから何か対策を練るときもありますね。

かなこ(Ns)

OT、PTさんには、リハビリを積極的にしてもらいたいですね!昼夜のリズムをつけるのはとっても大切ですから。薬剤師さんとは、薬の特徴について情報共有しておきたいですね。例えば、眠剤にも強さや効くまでの時間が異なるものがあると思います。それを知れるとある程度リズムを図ることができますよね。

イサミ(Ph)

なるほど!薬剤師としても提供できる情報はたくさんあると思います。現場のスタッフと話してみようと思います。
まとめ
今回は身体拘束(抑制)について多職種で話し合いました。それぞれ葛藤を抱えながらも身体拘束(抑制)について、真剣に向き合っているのです。また、改善策として多職種連携でできることもあり、スタッフ間の情報共有から、新たなアイデアが生まれてくるかもしれません。ぜひとも職場でも検討してみてください。