病院にトランスジェンダーの患者さんが来た!あなたはどうしますか?

近年、トランスジェンダーという言葉が広く知られるようになってきました。このコラムを読んでいる人のなかには、トランスジェンダーについて描いた映画やドラマを見かけたことがある人もいるのではないでしょうか。

では、あなたの目の前に患者さんとしてトランスジェンダー当事者が現われた時、どうやって対応すればよいのでしょうか?「えっ、どうしていいか分からない…困る…」という人が多いのではないでしょうか?

今回のコラムでは、理学療法士JUNがトランスジェンダー当事者としての視点を交えながら、多職種連携だからこそできる対応についてお伝えしたいと思います。

トランスジェンダーってなに?

そもそも、トランスジェンダーとは何でしょうか?理解するためには、性別の種類を知ることが大切です。大きくは下記の4つに分類されています。

  1. 生物学的性別:生まれた時の身体の性別。医師が新生児の外性器から男と女に分類。
  2. 性自認:自分の性別に対する認識。男、女、両性、無性など。
  3. 性表現:服装や髪形、言動など振る舞いに関する性別。
  4. 性的指向:恋愛対象となる性別。異性愛、同性愛、両性愛など。

トランスジェンダーとは、生まれた時の性別と性自認が異なる状態のこと指すもので、当事者から生まれた言葉です。性同一性障害(現在は性別違和症)という言葉をよく耳にすると思いますが、こちらは医学的な診断名でトランスジェンダーよりも狭義の意味になります。

トランスジェンダーが困る医療場面

JUNという生物学的性別が女性、性自認・性表現が男性の人を考えてみましょう。JUNは下記のような状態で生活をしています。

  • 通称名ではJUNとして生活(男性)
  • 保険証の性別は女性
  • 保険証の名前はJUN子(女性)
  • 女性のパートナーと同居(同性パートナーの扱い)

では、JUNが初診で外来受診をした時、具体的にどのような課題が生じるのでしょうか?

例えば、受付・診察・検査・会計で『JUN子』と呼び出してしまうと、恥ずかしさと苦痛を伴う経験を与えてしまいます。同様に、検査時に女性用の検査着を渡してしまうと恥ずかしさや苦痛だけでなく、困惑を与えることにもなります。また、保険証の性別を変更していない場合では同性のパートナーがいることもありますが、病状・治療方針などの説明は夫婦でないと認められないことがあるため、心細さや不安感を抱かせてしまいます。

トランスジェンダー当事者は、こうした医療場面に遭遇することで病院から足が遠のいてしまい、健康を維持出来なくなってしまう場合があります。

多職種連携で支えるトランスジェンダー

トランスジェンダーが受診しやすい病院となるには、多職種連携がとても大切です。それは、多職種連携によって救えるトランスジェンダーの命や健康があるためです。今回はそのなかでも大切な①適切な情報共有、②情報共有の許可を得ることについて紹介します。

①適切な情報共有

これは患者さん本人が呼ばれたい名前・扱われたい性別・同性のパートナーがいることを受診時に直接関わる職員の間で共有することです。この時に注意したいのが、「アウティング」をしないことです。私たちが普段扱っている患者さんの医療情報と同じように、性別に関する情報も非常にデリケートです。不用意に周囲の職員に「トランスジェンダーや異性装の人が来院している」と話さないようにすることが大切です。

②情報共有の許可

これは患者さんから性別に関する情報をどの範囲で共有するのかという許可を得ることです。許可を得ずに情報を共有すると、意図せずして先に述べた「アウティング」になってしまいます。具体的には「診療科では◯◯、検査科では△△というスタッフに、呼び出しの際『JUNさん』と言うように、検査着は男性着をお渡しするように情報を共有しても良いですか?」等と周りの患者さんからの視線等を配慮しながら許可を得ることが大切です。

これらを日頃の診療でも行うことが出来るよう、外来受診時や入院時の対応マニュアルを作っておくことも有用です。このコラムを読んだことで、トランスジェンダーの患者さんに出会った時に落ち着いて対応できるお手伝いとなれば嬉しいです。

執筆者
 JUN(理学療法士)

総合病院の訪問リハビリに勤務。理学療法士とトランスジェンダー当事者という2つの立場から、トランスジェンダーの医療難民を減らそうと奮闘中!

Twitter:@reha_jun

ブログ:トランスジェンダーのための医療情報サイト