作業療法では、なぜ物品を使うのか。

作業療法室には、輪入れやお手玉、パズルなどさまざまな物品が置かれていることをご存じでしょうか。子供の玩具もあって、いったい何に使うのかと不思議に思う方もいるのでないかと思います。実は、作業療法室にさまざまな物品を置いているのには、とある理由があるのです。今回は現役作業療法士が物品を使う理由についてお話します。

指を動かすことと物品を使うことには脳賦活に違いがある

作業療法士が物品を使う理由の一つに、脳賦活の違いがあります。

例えば、脳卒中で左上肢に麻痺がある方の手指を曲げたい場合、単純に指の曲げ伸ばしの運動をする方法と、実際にペットボトルを掴んでもらうことで指の曲げる力をつける方法があります。この時、前者は運動野という手指を運動させる部位が強く働きますが、後者はペットボトルを認識したり、運動の企画を立てる運動前野や補足運動野が働きます。

作業療法では、生活の中で手が使えるようになることを目的にしますので、後者の方が目的に合致しており、メリットが大きいのです。

様々な動きを引き出す物品たち

物品たちには、実は不思議な力があります。

例えば、輪っかを持たせると、大半の人は投げる場所を探します。お手玉見せると、自然とお手玉を2~3個持ち、回し始めます。

このように、物品はそれぞれ動かし方がセットになっているものが多く、言葉で指示をしなくても、何となく使い方や動かし方が伝わるのです。

特に認知症を有している方や失語症など言語的なコミュニケーションが難しい方には、物品を使うことで必要な動きを引き出すことができます。

実際の生活にリンクする動きが経験できる

作業療法士は、患者さんが望む生活を送れるように、さまざまな形で支援します。

特に退院間近の患者さんにとっては、自宅に帰ってから出来るかどうか不安が多く募ります。そこで、作業療法室にはさまざまなシミュレーションができるように、調理をするためのキッチンや掃除をかけるための掃除機、洗濯物を干すためのハンガーや洗濯ばさみなど、実際の物品が置いてあります。

あくまでも模擬練習であることには変わりありませんが、似たような物品を扱うことで、自宅で行わなけらばならない活動に対して課題を明確にすることができます。

まとめ

今回は、作業療法室に多くの物品があるワケについてお話ししました。一見すると遊んでいるように見えますが、実は生活を支援するための重要な物品たちです。作業療法室でのリハビリ内容に疑問を持ったら、ちょっと踏み込んで聞いてみてくださいね。

執筆者
須藤誠(作業療法士/学術部)

地方の急性期病院で、地域の人たちを陰ながら支えています。真っ当に研究業績を積みながらも、メディアや地域活動を通して作業療法の魅力を伝えるマルチプレイヤー。