錠剤の粉砕 -その錠剤、潰してしまって大丈夫?-

 

病棟の配役カートで粉砕された錠剤の分包がセットされているのを見たことがありますか?

その錠剤は薬剤部で粉砕されたものかもしれません。

病棟で粉砕されたものかもしれません。

あるいは入院前にどこかで粉砕された持参薬かもしれません。

しかし、その錠剤は粉砕されていて大丈夫なのでしょうか。

今回は錠剤を粉砕した時のリスクについていくつかの例をご紹介させて頂きます。

 

成分が不安定で失活するリスク

例としてランソプラゾールなどのPPI製剤が該当します。

ランソプラゾールは酸性条件下では失活してしまう成分です。

そのため胃酸から成分を守るための工夫として腸溶性のコーティングで成分を包んでいるのですが (図1)、粉砕するとそのコーティングが壊れてしまいます

その状態で薬剤が胃に達すると成分が失活してしまい、せっかくの薬剤の効果が望めなくなってしまいます。

理論上は粒が壊れない程度に錠剤を崩すのであれば、成分は失活しないと思われますが、そのように崩すことは困難です。

酸性条件下で失活するので、経管投与でチューブの先が胃ではなく腸であればリスクは減ると考えられます。

他にも光に弱い成分の製剤も粉砕してしまうと失活するリスクがあります

そのような製剤を粉砕した場合は、遮光保管しなくてはなりません。

薬物動態が変化するリスク

名前に「徐放」や「CR」や「L」といった特徴的な文言が含まれる製剤が主に該当します

これらの製剤は錠剤に工夫をして成分を少しずつ放出し、薬剤が体内に残る時間を長くしています。

この製剤を粉砕してしまうとゆっくり吸収されて長く体内に残るはずの成分が早く吸収されて体内に残る時間が短くなってしまいます (図2)。

 

ちょっと困ったことにタムスロシン製剤やミラベグロン製剤のように、「徐放」や「CR」や「L」といった特徴的な文言がついていない場合もあります。

製品名を見ていれば安全、というわけではありません。

粉砕する過程で成分をロスするリスク

薬剤部で粉砕する場合、乳棒・乳鉢等の機器を用いて粉砕調剤を行います。

もちろん最大限注意して粉砕調剤を行っていますが、粉砕調剤をする過程でどうしても多少の成分が機器に付着してしまってロスしてしまいます

病棟で分包紙越しに粉砕したとしても、服用の際にはどうしても分包紙に若干の成分が付着してしまいます。

これらのロスが治療効果にどの程度影響するかは議論があると思われますが、粉砕調剤は成分をロスするリスクがあることは知っておいてください。

粉砕する前に

上記以外にも粉砕してしまうと苦い成分の製剤、刺激性のある成分の製剤など様々なリスクがあります。

今回紹介したのはその一部です。

何気なく行われている錠剤の粉砕ですが、本当に粉砕してしまって良いか、施設の薬剤師に確認してみてください

 

 

執筆者
S.O(薬剤師)

後発医薬品企業勤務の後、病院薬剤師。いわゆる中小病院で糖尿病・感染症領域を主にうろうろと。