病院の作業療法室には調理設備があることをご存知でしょうか?
そこでは時折、作業療法士と患者さんが調理訓練をしていることがあります。ちらっとのぞけば、カレーや野菜炒めのにおいが漂う作業療法室。
「実は遊んでるんじゃないの?」と思われることもある調理訓練について、作業療法士が実際を語ります。
調理訓練が必要な人ってどんな人?
調理訓練は、自宅に帰る前段階の準備として行われます。
調理訓練が必要なのは、自宅を帰った後に調理をする必要がある人です。
例えば、家事を役割とする人や調理の仕事に就いている人は必要になりますよね。でも、家事をする人全員に調理訓練は行いません。
例えば、身体障害で多いのは脳卒中患者さんです。片麻痺になって片手が思うように使えなくなるほか、行動の企画や手順を組み立てることが困難になる遂行機能障害が生じることがあります。
これらの症状があると調理動作が困難となるため、解決のために作業療法で調理訓練を行うのです。
身体障害を有する患者さんに対する調理訓練
身体障害を持つ人に調理訓練をする目的は、調理動作の再獲得です。
まず、障害のある身体での調理に不安が強かったり、できると思って実はできなかったりすることがあるので、その経験を共有します。
これは実際にやらないと分からないことが多く、実際の調理を通して出来ないこと、出来ることを整理することで、自宅に帰るまでにやるべき課題が明確になります。
実際の調理訓練では、限られた時間で包丁を使う、鍋やフライパンを持つ、火をかける、炒めるなどの複数の動作を扱う料理が訓練として適しているため、カレーや野菜炒め、焼きそばなどが選ばれることが多いです。
精神疾患を有する患者さんに対する調理訓練
精神障害を持つ患者さんに調理訓練をする目的は多様です。
- 調理動作の獲得・再獲得
- 自発性の向上
- 季節感を感じる
- 気分転換
- 楽しむことができる活動の提供
- 興味の幅を広げる
- 廃用予防
などが挙げられます。
身体障害との違いとしてはグループで行うことも多く、①協調性の獲得②コミュニケーションを取るための手段③役割を担うことによる所属意識の充足なども挙げられます。
ここに挙げたものは全てではなく、個人の目標に合わせて調理訓練が行われます。買い物から一緒に出かける場合もあり、「買い物の練習」や「外出による気分転換」「店員さんなど知らない人とコミュニケーションをとる練習」を目的としています。
作業療法士としては患者さん本人の希望や今後必要となるかどうかを見極めてプログラムに促します。
おわりに
作業療法士で行われる調理訓練は、料理教室とは違って味や作り方に口出ししません。
長年行ってきた作り方、そして味付けは患者さんの生活の一部です。
作業療法士は調理ができるようになること、そして調理そのものを通して患者さんの生活の一部を支援しています。
地方の急性期病院で、地域の人たちを陰ながら支えています。真っ当に研究業績を積みながらも、メディアや地域活動を通して作業療法の魅力を伝えるマルチプレイヤー。