いつ襲ってくるかわからない災害。そのために備えは常にしておかなければなりません。それぞれの職種では災害時にするべきことが色々あると思いますが、自分以外の職種がどんなことをやっているのか気になりませんか?そんな知識も備えておいてはいかがかな。皆に聞いてみたよ。ご覧あれ。放射線技師のクラークさんが語りつくす、後編です。
参加者
くー(CE)
総合病院で働く臨床工学技士。災害訓練など経験はあるものの、他職種の動きはまるで知らない。気になったので聞いてみることにした。
喜多(PT)
地域医療の現場で働く理学療法士。数年前に関西であった大きな地震の瞬間には車を運転していて、工場が爆発したのかと思った。
クラーク(RT)
総合病院の診療放射線技師。災害に関して関心があり講習を受けたりしている。
クラーク(RT)
では、放射線技師の目線から語りますね。大きくは2種類があります。まずひとつ目は停電や火事、水害などに関して、院内の画像端末を守り、画像の消失を防止し、ネットワークの全体像を把握して、診療のダウンタイムを最小限にすることです。もうひとつは放射線災害です。これは特殊すぎますが、やはり専門職なので、放射線や放射能がどういう振る舞いをするのか知識があります。その知識を活かして、避難者の放射線被ばくの測定や、トリアージ、避難時のアドバイスなどをしたりします。その他には国によっては放射線テロなんかもあるのでそういった講習も受けたりします。
なるほど。災害時にも通常の診療体制を維持できるようにするって感じがひとつめなんやね。たしかに診断の根っこ部分にあたるから、いかにその被害を少なくするかは大切よな。イメージ的には予備電源の確保とか?具体的にどんなことするんかな?
喜多(PT)
クラーク(RT)
いうなれば、BCP(事業継続計画)と同じような感覚ですね。例えば院内の画像ネットワークには多くの経路があって、撮影機器→PACS(画像格納サーバー)→電子カルテ→モニター表示のような流れをたどります。そのどこかが落雷や水害、地震などによる故障でダウンしてしまうと通常通りにいきません。PACSが壊れたらどこかにデータを格納できる場所を確保したりします。また、撮影機器には過去数日間のデータが残っているので、貴重な患者データが消失しないよう保護します。電カルが壊れたら医師が撮影室で画像を迅速に確認できる体制整備をしなければいけません。モニターが壊れた時には、(放射線画像を見る際には規格があって質を保つためにどのモニターでもいいわけではない)場合によってはフィルムに印刷する必要もあります。これらのどこが悪くなっているのかを瞬時に状況判断し対応を始めていき院内に周知をします。
通常の診療を当たり前に稼働させる…そのための行動がいくつもあるんやな。
喜多(PT)
クラーク(RT)
また、撮影機器が地震の影響や、停電による非常電源の作動下・水害によってどれほどダメージを受け、現状でどの検査が行えるかを院内に明示しなければなりません。機器によってはめちゃくちゃ電気を食うので、病棟の電気確保を最優先とし、あえて機器を作動させないなども考えられます。それにより、患者急変時の検査の可否・診断の困難さがわかってくるため、患者受け入れや搬送判断に影響を与えます。
くー(ME)
勤めている施設が災害拠点病院であることも関係してきそうですね。そして放射線災害ってまったく考えになかったです。それは院内の装置が災害で故障して放射線が漏れ出すみたいな状況ですか?
クラーク(RT)
おっしゃるとおり災害拠点病院かどうかによっても左右されます。求められる最低限の検査なども変わります。放射線災害とは簡単にいえば原子力発電所による事故です。やはり原子力発電保有県ですと、それらを想定した訓練を行ったりもします。院内の装置が災害で故障して放射線が漏れ出すかもしれないと思われている方は多いと思いますが、CTやレントゲンなどの撮影機器は電気の作用により機械的に放射線を“発生“させてますので、壊れた時には放射線はゼロです。一方で核医学検査などで放射線の“線源“を扱ってる場合には、それ自体に放射線を発生する能力「放射能」をもっていますので、災害時でも管理は厳格にしなければいけません。また、以前クエンチの話題もしましたが、地震による施設構造の破損によりクエンチが発生することがあります。そうすると患者の避難誘導や、消防との連携、MRI周辺の立ち入り禁止措置などを取ったりもします。
くー(ME)
放射線災害と聞いてびっくりしたけど、専門家がちゃんと管理してくれていたら安心ですね。
クラーク(RT)
実際に緊急時には全員のちょっとした活躍が功を奏することがあります。水害時などでは、近くの機器をすこし高いところに上げてから避難したことで、被害をまぬがれ早期に診療再会にいたったなどの例もあります。ポータブル装置などは移動もしやすく、災害時の要となる代表機器ですね。やはり、いつ何時患者さんが急変するかわからない、その時に画像検査で原因を確認できて判断することで助かる命があるかもしれない、ということを考えると、わずかな可能性でもたぐりよせ、被害の最小化、早期の診療復旧に力を注ぐことは重要ですね。
くー(ME)
ありがとうございます。言語聴覚士や放射線技師が災害時にどんなことをしているのか、ひけらかしていただいたので、次は臨床工学技士の番です。
待ってた!
喜多(PT)
くー(ME)
災害時はまず、稼働している生命維持管理装置を見に行きます。例えば、人工呼吸器を使っている場合は電源と医療ガスの供給がなければ機器は稼働できないので、正常に動作しているかどうかを見に行きます。(場合によっては病棟の看護師さんに確認してもらう場合もあります。)また、災害時に適切な電源供給が行われるように日頃からコンセントの使い分けも大切にしてます。
CEさんも診療体制を維持できるように関わるのがポイントなんやね!逆に言うと、日頃の対応がしっかりと出来ていれば、もし何かがあっても確認程度で済むって感じなのかな。それが如何に大変か…という感じではあるだろうけど。
喜多(PT)
クラーク(RT)
CEさんはいろんな機器を扱いますよね。他にはどんな例があるんですか?
くー(ME)
日頃の管理は確かに大変ですが、欠かすことができないですね。その他だと、人工透析装置を例にしてみましょう。電源はもちろんのこと、綺麗な水が大量に必要になるので、そこも確認です。また、透析中に災害に巻き込まれた場合、患者さんは避難しなければいけません。透析は機械と一緒に逃げれないので、緊急的に切り離す処置が必要になります。また、必要な時に必要な機器を準備できるように備えておくことも大切になります。
クラーク(RT)
透析は確かに大変そうですね。定期的にやらなければいけないことを考えるとなおのことって感じです。災害との位置関係によっては普段かかりつけじゃない方も避難で来た時には緊急的に対応したりしそうですね。
くー(ME)
そうですね、災害時の患者受け入れはよくある話です。手術入院や旅行で一時的に患者を受け入れている施設もあるので、少人数ならなんとかなると思います。
クラーク(RT)
災害時は数施設に分散して受け入れてもらうんですね。なるほどです、ありがとうございました。
まとめ
放射線技師と臨床工学技士の視点から災害対策を語っていただきました。共通するところは「当たり前を当たり前にする」であったような気がします。それぞれのスペシャリストの取り組みによって稼働する診療体制…改めて味わいながら働いていくと、よりおもしろさがあるかもしれませんね。