【OT向け】専門外の作業療法士が他科に送るべきサマリー内容を徹底討論

同じ作業療法士でも、専門分野が違った場合、情報共有が難しいと感じることはありませんか?

例えば、急性期の作業療法士から精神科の作業療法士へと情報提供する際など、患者さんにスムーズな介入を行うためには何が大切なのでしょうか。

今回は、リストカットによる腱断裂の事例から、サマリーを作成する際のポイントについて話し合いました!

参加者

 須藤(OT)
作業療法士11年目。急性期でハンドセラピィに従事。

 小池(OT)
作業療法士10年目。急性期でハンドセラピィに従事。

 坂場(OT)
作業療法士5年目。精神科デイケア勤務。

事例を検討して、対応とサマリーを学ぶ!

小池(OT)

僕の病院では、精神疾患が原因でリストカットに至ってしまった患者さんが搬送されてくることがあります。ただ、術後間もなく精神科病院へ転院になる患者さんもいるんです。
ありますね。

坂場(OT)

小池(OT)

そういう場合、普段大きな外傷を見ることがないであろう精神科の作業療法士さんに対して、受傷時の病態や当院で実施していたプログラム・注意点などについて、どのような情報を伝えれば転院後スムーズなケアにつながるのかわからなくて困ることがあります。
精神科で転院を受ける側としても、どう対応すれば良いのか悩みますね。身体障害領域での経験をしている人が少なく、経過や介入方法で悩むんです。

坂場(OT)

小池(OT)

そうですよね。今回は違う分野で働いている作業療法士が集まっているので、事例を見ながらすり合わせていきましょう。
事例紹介
30代、女性。リストカットにより左手首の腱断裂を呈した。既往歴に双極性障害、精神科に通院中。仕事は2年前に辞め、現在は無職。

緊急で同日に腱縫合術を施行し、整形外科病棟に入院となる。術後より不穏行動、意味不明な言動がみられた。術後1週間で服薬コントロール目的に精神科病院に転院となる。

 

注意
上記は今回の記事用に考えた架空の事例です。

 

小池(OT)

精神科で腱損傷の患者さんを経験したことはありますか?
患側の手をギプス固定した患者さんを担当した経験ならありますね。そもそも、精神科の作業療法士として働いている人は、私も含めてあまり整形外科領域のことを知らない人が多いと思います。

坂場(OT)

小池(OT)

そうなんですね。この模擬症例のように、急性期病院から転院してきた患者さんには何か工夫をされていますか?
知らない部分が多いので、僕は急性期からのサマリーを頼りに作業療法を提供するんです。あと、看護師さんとサマリーの読み合わせをし、日常生活での管理を行うようにしています。

坂場(OT)

小池(OT)

専門性が異なるときには、サマリーは非常に重要な位置付けになりそうですね。

サマリーには実生活を見据えた目標設定を書く

小池(OT)

坂場さんは、サマリーにどのような情報が欲しいですか?
精神科の作業療法士は、基本的にはリストカットした元となる精神症状に対して介入を行います。なので、急性期病院での観察の様子を記載して欲しいです。とくに、受傷から急性期病院退院までの患者さんの発言はヒントになります。

坂場(OT)

小池(OT)

発言…ですか?
たとえば、患者さん自身がケガをどう捉えているのかという内容は知りたいですね。

坂場(OT)

小池(OT)

そうなんですね。須藤さんはサマリーを送る側として何か気を付けていますか?

須藤(OT)

まず、僕は屈筋腱損傷などの患者さんを担当する機会がよくあります。術後のリハビリについては、運動方法を守ってもらえなさそうな場合には固定期間を通常より長めに設定します。
ふむふむ

坂場(OT)

須藤(OT)

また、早期の運動を指示されている場合には、細やかな指示が患者に伝わらずに過剰な負荷が生じる恐れを考慮し、主治医と相談しています。実際にサマリーを作成するときには、複雑なプロトコルだと受け手側が混乱するので、可能な限りわかりやすく伝えるよう心がけています
ありがたいです(涙)

坂場(OT)

小池(OT)

坂場さんが転院後の治療を担当するとして、他に欲しい情報はありますか?
急性期からの情報は、プロトコルに沿った運動方法禁忌指示を具体的に記載して欲しいです。僕のように経験が少ない作業療法士はサマリーを頼りにします。他には自主トレ方法の記載があると、隙間時間を見て個別に促すことができるので、助かります。

坂場(OT)

小池(OT)

具体的に記載することが鍵となりそうですね。須藤さんはこのあたり、気を付けて書いていますか?

須藤(OT)

僕は受け手側の状況を想像してサマリーを書いています。たとえば、精神科ではスプリントを作る設備がないことが多いので、治療方法が限られます。、専門的な機器や設備が充実していることを前提とした治療や到達目標を提示してしまうと、それらがない受け手に無理難題を押し付けることになってしまいます。

小池(OT)

それは受け取っても利用できないサマリーになってしまいますね。

須藤(OT)

そうなんです。無理な目標は患者さんにも転院先の作業療法士にも負担をかけてしまいます。そこで、僕は関節の拘縮や癒着は起こるものと前提にしたうえで、受傷した手の役割を意識した目標設定を提案しています。

須藤(OT)

この症例では、治療は3段階くらいに分けて行います。最初の段階では母指(親指)を優先的に動くようにして、筒やボールくらいの大きさのものを掴んだり押さえに使ったりできるようにしてもらう。
ふむふむ

坂場(OT)

須藤(OT)

次の段階では母指と示指、中指の対立を優先してボタンなどがつまめるようにしてもらう。最終段階では指の曲げ伸ばしが自由にでき、健側と同じように使えるようにしてもらうといったように伝えます。
治療について段階的な記載があると、転院先で行う作業療法が明確になるのでとても助かりますね。

坂場(OT)

須藤(OT)

ただ、僕は細かいプログラムよりも、目標設定が大切だと考えています。そのため、サマリーには実生活を見据えた目標設定を書くんです。また、看護師さん向けには禁忌を重点的に記載します。入浴や着替え、看護師さんが手伝う範囲での食事場面を想定してどう対応したら良いかを書きますね。
うわぁ!それはすごいありがたいです(涙)。

坂場(OT)

須藤(OT)

坂場さんの意見を取り入れると、退院時指導で使うような自主トレの紙を添付したり、実施するプログラムの例を具体的に入れると良さそうですね。
そんなサマリーが届いたら、きっと泣いて喜びますね(笑)。

坂場(OT)

小池(OT)

サマリーを看護師さん向けにも考えて書いているのは、多職種連携においてすごく大切ですよね。患者さんを良くしていきたい思いは皆同じだと思いますので、転院後の治療が円滑に進められるようになると良いですね。情報提供をする際には最終的な受け手を想像するということが大事だと改めて感じました。

精神疾患をもつ患者さんの情報収集はどのタイミングで聞くのがいいの?

須藤(OT)

ところで…リストカットした患者さんでは、受傷の経緯や生活背景も患者さんの苦悩を知るうえで重要な情報だと思います。

小池(OT)

でも、急性期病院の短い入院期間では信頼関係構築や問題の共有に至れず、情報収集が十分に行えないことがありますよね。

須藤(OT)

そうなんです。精神科の作業療法士は、どのタイミングでそれらの話を掘り下げていますか?
信頼関係を築けるまでという判断は、精神科では難しいですね。そのため、精神状態が落ち着いたら聞いていきます。

坂場(OT)

小池(OT)

となると投薬コントロールの様子をみながら説明するのですか?
個人差はありますが、抗精神病薬が効いてくるのは服用してからだいたい2~3週間後とされています。

坂場(OT)

小池(OT)

ふむふむ
ただし、傷の痛みや身体・精神の調子から聞きはじめて、ケガに関して話してくれそうか様子を見ながら徐々に聞き取っていきます。また、精神症状にも波があるため、落ち着いている中でも意思疎通が良好なときや幻覚妄想状態ではないときを狙う必要があります。

坂場(OT)

須藤(OT)

なるほど、患者さんの状態を丁寧に観察しておく必要がありますね。
あと、妄想などの症状があると患者さんが事実を話しているかわからないので、何人かのスタッフで異なるタイミングでの聞き取りや、家族などから話を聞く場合もありますね。

坂場(OT)

須藤(OT)

精神疾患を合併していると、核心となる情報を聞き出したくても、それが症状悪化につながる恐れがあって、深く聞けないことがありますよね。判断が難しいですが、精神症状や状況の見極めが大切ですね。

付録:現役作業療法士によるサマリー記載時の注意点とサマリー例

須藤(OT)

私がサマリーを書くときに注意していることを紹介します

1.送付先施設の情報を確認する(ホームページなど)
・送付先の施設の誰に向けて書くのか
私は、相手によって、サマリー記載に用いる用語を変えるようにしています。例えば、リハビリ職種がおらず、看護師やケアマネージャー宛に送る際は、専門用語や評価結果は使わずに一般的な生活の問題を中心に説明します。
・転院先の設備について
作業療法士がいる場合でも、施設によってリハビリの頻度や設備が異なるため、同じプログラムができないこともあります。私は、自分がその設備環境でやるとしたらどうするかを念頭に置いて書いています。

2.患者さんの治療状況・病態について医師と共有する
自分では理解しているつもりでも、誰でも間違えることがあります。間違えた情報は送付された相手だけでなく、患者さんまでもが困ることになりますので、自分の理解している指示内容を「~という理解で大丈夫でしょうか?」と医師に必ず確認しましょう。

3.サマリーの流れを自分の中で確立させる
私の場合は、はじめに入院前の生活状況を簡単に書いて、入院してきた状況(現病歴)について書きます。そのあとに初期評価と退院時評価の変化を比較しながら書きます。次に段落を変えて、最終的な目標設定(自宅退院だとしたら、移動手段や一日の過ごし方まで)を書いています。目標設定についてはあくまでも現状から考える提案であり、押し付けにならないように書くことを努めています。

4.標準的な治療を理解する
送付先のスタッフが調べることを予測し、標準的な治療(ガイドライン、インターネット情報など)についてはある程度理解しておきましょう。例えば、サマリーに記載された内容が標準的な治療と大きく異なっていたら混乱を招きますよね。標準的な治療と異なる場合はとくに、医師からの指示や病態について具体的に記載し、不安を与えないように工夫しましょう。

5.日常的に情報収集をする
頑張って調べても、ホームページ上の情報だけでは足りないことがあります。研修会や会議などで他領域、他施設の方と関わる機会があれば、施設の設備や一日の流れについて教えてもらうなど、イメージが広がるように情報収集すると良いでしょう。

須藤(OT)

私が書いた模擬サマリーです、参考にしてみてくださいね!
模擬サマリー

30歳代の女性で、2年前まで仕事をしていましたが、双極性障害を発症し、仕事を辞めています。現在は無職で親と同居し、精神科に通院していました。今回、自宅にてリストカットしたところを母親に発見され、左示指・中指の腱断裂を呈していたため、緊急で同日に腱縫合術を施行し、整形外科病棟に入院となりました。術後のプロトコルは運動内容の細かな管理が困難と考え、3週間固定法(○月○日より自動運動開始)を選択しています。

初期評価は固定中であり、手関節、手指の運動は行っていません。左肩、肘の運動に問題はなく、固定した状態で机上のお椀を押さえたり、袋を前腕に引っ掛けるなどをして左腕を使用していました。固定した状態でも強い力を入れることは禁忌であり、常に筋緊張が高い状態だと可動域制限が生じやすいため、肩・肘も含めてリラクゼーション(力を抜く)ことを指導していました。左腕にこだわらず、全身の体操の中で力を抜く運動を取り入れたところ、うまく行えているようでした。手の運動範囲については口頭で説明し、その場では理解できているようでしたが、病棟では看護師の指示を聞かずに離院してしまったり、「ここにいたらダメだ」などの発言が聞かれるなど不穏と思われる言動もみられていました。リハビリでも拒否をされた日が2回ほどありました。

術後1週間での転院となりますので、その後のプロトコルについて説明します。術後3週(○月○日)までは固定期間ですので全身のリラクゼーションや全身運動を中心に行っていただけると助かります。3週以降は自動運動のみが開始となりますが、強い力を要する動作と手関節背屈位での手指伸展は禁忌で、手関節掌屈位から中間位の方が損傷腱への負担は少なくなります。損傷腱が完全に回復するまでには12週間かかりますので、それまでは腱への負担を配慮して運動を進める必要があります。

3週以降のプログラムは、①リラックスしてもらう、②手指の一つ一つの関節ごとの硬さを取る、③自分の力で指を曲げ伸ばししてもらう、を繰り返し行います。②の時に痛みが出ることがありますので、十分に説明し、拒否が出ないように工夫が必要かもしれません。また、目標についてはまず母指を優先的に動くようにし、筒やボールくらいの粗大なものを掴んだり押さえたりができるようにしましょう。次の段階では母指と示指、中指の対立を優先してボタンなどがつまめるようにしてもらうと良いです。今回は示指と中指の腱が断裂しているので、母指と環指、小指などで代用できるとよいです。最終的に生活の中で不自由なく使えるようになることが目標ですので、左手が使えないことで困る動作や本人の役割を明確にし、それに対応することが重要と考えています。

以上はあくまで提案となりますので、参考になれば幸いです。