急性心筋梗塞の搬送! 一分一秒を争う現場でどう動く?

急性心筋梗塞(Acute Myocardial Infarction:AMI、以下:AMI)は、心臓に栄養を供給している冠動脈が閉塞する病気で早急に治療を開始する必要があります。

一分一秒を争うため、「AMIが来ます! 」のひと言で空気が変わる救急の現場。そんな緊迫した場で、看護師と臨床工学技士はどのように業務にあたっているのでしょうか? 患者さんが病院に搬送されてきてから、カテ―テル治療開始までのそれぞれの動きについて話し合ってみました!

参加者

 大前(Ns)
救急を兼ねたICUに勤務。心筋梗塞など緊急度の高い患者の搬送にアドレナリン出まくる系の看護師。

 くー(ME)
院内ではオールマイティに勤務。循環器好きな臨床工学技士。

 かなこ(Ns)
手術室勤務だけどカテもやっている。AMIが来ないことを日々願っている。

AMI受け入れ時の看護師、臨床工学技士それぞれの初動は?

大前(Ns)

まずは「AMIが来ます! 」と情報が入ったときの看護師の動き、心臓カテーテル室(以下:カテ室)の看護師・臨床工学技士の動きをそれぞれ教えてください! 

AMIの患者さんには、多くの場合緊急カテーテル手術を行います。臨床工学技士はその準備のため、まずカテ室に行き、ポリグラフ・IVUS・一時ペーシング・DCIABP・PCPSなど機器の立ち上げと、関連物品の在庫確認を行います。

くー(ME)

大前(Ns)

ふむふむ!

放射線技師がいなければ、シネアンギオ装置の立ち上げも行います。看護師の人手が足りなければ、未開封の状態での清潔物品の準備もしますよ。

くー(ME)

ありがたい……!

かなこ(Ns)

普段、準備時にはチェック表を用いていますが、本当に緊急のときは、機器の立ち上げチェックは後回しにして、カテ開始に必要な準備が終わったら、すぐ患者さんのいる救急外来へ向かいます。

くー(ME)

緊張感がありますね……。

かなこ(Ns)

しかし、AMIは一刻を争うため、必ずしも僕たちが先に準備できるとは限りません。循環器医師は人命優先で緊急カテーテル(以下:カテ)を引き受けるので、焦りを感じるときもありますが、いかなるときも対応できるように心掛けています。

くー(ME)

大前(Ns)

初動は焦りますよね。カテ室の看護師の動きはどうですか?

循環器医師から連絡を受けたら、患者さんがすぐに処置台に上がれるように、心電図のシールのセッティングと、カテーテル治療に必要な清潔物品の準備をします。

かなこ(Ns)

大前(Ns)

ふむふむ!

その他に生食や造影剤など、薬の準備もします。私の病院では、放射線技師が毎日当直でいてくれますが、臨床工学技士はオンコール体制の日もあるため、いない場合は呼び出す必要があって、「頼むから早く来てくれ!!!!」と心で祈っています。 患者さんの循環動態が不安定で、医師から今すぐ行くと連絡が来た場合は、私たちもカテ室まで走ります!(笑)

かなこ(Ns)

大前(Ns)

僕もよく祈ります(笑)。僕はICU看護師という立場ですが、うちも「AMI疑いを搬送します」と連絡がきたら、まずはカルテを探して情報を拾いますね。優先順位をつけて情報を確認しますが、うちの病院に通院歴があることが大前提です。

通院歴では何に着目しますか?

かなこ(Ns)

大前(Ns)

カルテから僕が拾う1番のポイントは、過去のカテ歴の有無ですね。これを見れば、血液検査のデータがわかりますし、心エコーや心電図をとった可能性も予測できますから。情報をとりながら、看護師としての準備で、鎮痛や酸素消費量を減らす目的のモルヒネ(M)、そして酸素(O2)、冠動脈拡張や血圧降下させるニトログリセリン(N)、血液をサラサラにする抗血小板薬のアスピリン(A)を準備します。これらを使った初期治療は、通称MONAと呼ばれますね。

MONA! これを覚えとくと便利!

かなこ(Ns)

MONA(モナ―)とは

急性心筋梗塞(AMI)などの冠動脈疾患に推奨される初期治療

参考

  1. ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版)
  2. 急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版)

大前(Ns)

これと同時に、別の機序を持つ抗血小板薬プラスグレルを用意して、緊急カテーテルに備えます。麻薬性鎮痛薬のモルヒネですが、当院では緊急カテーテルが必要かもしれない場合には、処方前に薬局から受け取ることができるシステムがあります。

うんうん。

かなこ(Ns)

大前(Ns)

本当に一分一秒を争っているため、処方を待ってから用意しているようでは間に合わないこともあります。そのため、緊急時の措置としてそのようなシステムを採用しています。

本当にそうですよね。夜間の対応はどうしていますか?

かなこ(Ns)

大前(Ns)

当院の場合、夜間のカテ室看護師や臨床工学技士は待機制度(呼び出して30分以内に到着)があるので、その30分間にICU看護師がカテ室の準備を行います。

AMI対応で“多職種で共有すべき情報”とは?

大前(Ns)

実際にAMIが来たときのそれぞれの動きはわかりましたね。では、AMI対応の緊急時にどんな情報を集めていますか?

僕は救急外来に直行し、その場にいる医師や看護師に「あと何分でカテ室に来ますか?」と、第一声で聞くのが習慣になってますね。

くー(ME)

大前(Ns)

あるある!

そこで、その場が「ん? 何が? 」って雰囲気になったら、「そもそも緊急カテはガセだったのか? 」とか「患者が来る場所はここじゃないのか? 」となります(笑)。これは、病院によって連携の仕方が違うかもしれませんが……。

くー(ME)

第一声の空気読みはありますよね(笑)。

かなこ(Ns)

あるんですね! よかった。できるだけ情報はほしいですが、臨床工学技士としての優先順位は、胸痛が主訴で来た場合、大動脈解離と心筋梗塞どちらなのか、ということです。大動脈解離の場合は人工心肺装置の準備が必要で、僕一人じゃ人手が足りないので、臨床工学技士をもう一人呼ばないといけません。なので、一番にそこを確認します。

くー(ME)

大前(Ns)

なるほど。

カテ室に呼吸器は基本準備していないので、呼吸状態や血液ガス分析の結果は把握しておきたいですね。あと低Hb(ヘモグロビン)は後々の循環管理に影響するので、あらかじめ知っておきたいです。できればTP(総タンパク)も。身長・体重は、IABPサイズやPCPSのカニューレ(チューブ)の選定に必要なので、基本的に確認するようにしています。

くー(ME)

大前(Ns)

臨床工学技士さんが求めているのは確定診断、呼吸状態や血液ガス、TPの状況、身長・体重ですね。メモメモ。

個人的な意見ですが、病変箇所の状況や腎機能などは準備機材に影響しないので、早急に必要な情報ではないんですよね。なので、最低限必要な情報を得て準備ができ次第、患者さんと一緒にカテ室に向かいます。執刀医師にはカテ室でガウンを着ていてもらい、いつでも開始できる体制を整えてもらいます。

くー(ME)

大前(Ns)

くーさんありがとう! じゃあ、続いてかなこさんはどうですか?

医師から連絡がきて、時間に余裕があるときはカルテを見る場合もありますが、基本的にはまず患者さんのIDと名前を確認して、カテ室に来たらすぐにカテが行えるように準備をします。急患の場合、カルテをその場で書いている余裕はないんですよ……。

かなこ(Ns)

そうですよね。

くー(ME)

あとは、カテーテル治療中に投与するヘパリンの量を体重から計算するので、体重は把握しておきたいですね。どういった点滴がつながっているのか、ご家族が到着しているのか、来ている場合はどこにいるのかもわかると嬉しいですね。

かなこ(Ns)

体重の情報が必要なのは、看護師も臨床工学技士も共通していますね!

くー(ME)

体重は機材や薬を使ううえで重要な情報ですよね。それから、申し送りの優先順位として、既往歴とアレルギー情報は最低限知っておきたいです。初診だと電子カルテに記録がないですが、患者さん自身が受け答えをできないような状況もあるので、付き添いのご家族に確認します!

かなこ(Ns)

うんうん。

くー(ME)

人手が少ない夜勤帯だと入室してからバタバタするので、カテが迅速にできるように、心電図を付けたり血圧計を巻いたりといった準備を手伝ってもらえたらとっても嬉しいです! 医師はすぐにカテの準備をするので、患者さんを治療できる状態に整える人、滅菌物を開封する人、医師にガウン着せる人のような感じで、うまくスタッフで分担して準備できたら理想的ですねぇ……。と言っても、そんなに人はいないのですが(笑)。

かなこ(Ns)

わかります! ちょっとした準備だけでも、お互いにできることは助け合えるといいですよね。大前さんはどうですか?

くー(ME)

大前(Ns)

AMIが来たら、受ける看護師はまずファーストタッチで意識を確認し、全身の皮膚の状態などから心不全の合併の重症度などを判断します。あとは、本人の自覚症状(胸痛の有無や程度)を確認し、緩和、バイタルサイン測定をして血圧やSpO2の安定化を図ります。

うんうん。

かなこ(Ns)

大前(Ns)

その中で普段飲んでいる内服薬、身長・体重、アレルギーの有無を問診します。問診しながらルート確保やローディング(緊急カテーテル前の内服)を行い、速やかにカテ室へ出られる準備をします。

かっこいい……。

かなこ(Ns)

大前(Ns)

当院では緊急カテ出しのときの情報共有用に、患者さんの名前、身長・体重、ローディングの有無、腎機能、胸痛の程度、カテ前の処置を記載する手書きのフォーマットがメモとしてあります。これを埋めることで、必要な情報がもれなく収集でき、カテ室のスタッフへこのメモをそのまま引き継ぐくことで、共有漏れを防いでいます。

申し送り事項のフォーマットを作るのはいいですね!  緊急時って自分自身も必死なので、必要事項が漏れてしまう場合もありますから。

かなこ(Ns)

カテ室での“理想の多職種連携”を考える

大前(Ns)

多職種連携の観点で、情報の共有としてはどういうものが理想ですか? どんなことができれば患者さんにメリットがあるでしょうか。 実際にやっていることや考えを教えてください!

情報共有に関しては、治療に関わるスタッフが同じ方向を向けるのが理想だなぁって思います。考えている方向がバラバラだと患者さんも混乱するし、いい方向には進まないと感じます。

かなこ(Ns)

うんうんうんうん!(激しく同意)

くー(ME)

私は、医師がどう考えてるんだろうとか、他の職種はどう考えてるんだろうとか、日頃からすごく意識しています。普段から意識しておくことで、緊急時にもスムーズに対応できるかなと思っています。

かなこ(Ns)

大前(Ns)

めっちゃ真面目やん。

ずっと真面目です!(笑) 日頃働いていて考え方が違うときに、相手の考えがわからないと否定しがちになってしまうし…。こう思ってるんだろうなって想像できたら、話し合ったりもできますよね。だから、メディッコの座談会やコラムを読んで、他職種がどういう風に考えてるのかとかをたくさん知ってもらえるとよいですね !

かなこ(Ns)

僕は、患者情報は、少なくとも看護師と臨床工学技士は同じ情報を共有すべきだと改めて感じました。今でも意識していますが、なんとなくにせず、しっかり押さえておきたいと思います。

くー(ME)

大前(Ns)

うんうん。 

あとは、お互いの視点や業務を知って、相手が何をしたいのかを理解することは大切だなぁとよく思いますね。慌てているときならなおさらです。その場でリーダーとなる医師などがきっちり目標設定を行う事も大切ですが、スタッフが一丸となって同じ方向を向くのも、とても重要なことだと思います。

くー(ME)

大前(Ns)

今回の話は、ぜひ皆に読んでほしい! とくに、「お互いの動きを知りつつ、必要な情報を引き出せるチーム連携」ができると、多職種間の連携力アップにつながると思うんです! 日頃のコミュニケーションを積極的にとって、職種の垣根を超えて、お互いを補い合えるのが理想です。

まとめ
一分一秒を争う現場では、それぞれが臨機応変に対応しながら他職種と密に連携する必要がありますが、緊急時は自分の業務に必死で、他職種の業務にまで目を向けるのは困難なこともあります。だからこそ、日ごろから他職種がどのように動いているのか、何を考えているのかを知っておくことで、緊急時もスムーズに連携を取って、効率的に治療を進められるかもしれません。この記事をきっかけに、他職種への興味が深まっていただけたらうれしいです。