インシデント対策どうしてる? 忙しい現場ではどうすればいいの?

医療安全対策は、患者さんへの安全な医療提供のために必要不可欠です。しかし実際の現場では、人手や設備、時間に限りがあり、十分な対策を取れていない部署もあるのではないでしょうか?

今回はそんなリアルな悩みを抱えたメンバーが集まり、医療安全を考えるための具体的な方法について話し合いました。そこで見えてきた従来&今どきの対策法とは…!?

参加者

 久原(ME)
臨床工学技士。職場では部署内の医療安全対策係として、原因分析や対策に日々奮闘中。

 Fats(Ph)
薬剤師7年目。最近主任になり、改めて安全対策の重要性に気付いた。薬剤部としてどう安全対策を行っていくか、具体的な方法を知りたい。

 たみお(PT)
理学療法士10年目。病院の医療安全委員会に参加しているが、医療安全の具体的な方法についてもっと深めたいと思っている。

インシデントの原因はシステム?それとも個人?

Fats(Ph)

今回はインシデントへの具体的な対策について話し合いましょう。まず、職種によって起こりやすいインシデントは違うと思うのですが、どのようなものがありますか?
リハビリ職の周りでは、やはり転倒・転落に関するインシデントが多いですね。歩行や階段昇降の訓練中、一瞬目を離した間に患者さんがバランスを崩し、転倒しそうになるということがあります。

たみお(PT)

Fats(Ph)

それはヒヤヒヤしますね…。
臨床工学技士の場合、医療機器に関連したものが多いので、透析装置や人工呼吸器の設定ミスなどでしょうか。マニュアルの厳守やダブルチェックの徹底が呼び掛けられていますが、どうしても繰り返し起こってしまう印象があります。

久原(ME)

Fats(Ph)

そのようなインシデントが起きたとき、どのように対策されていますか?
まずはリハビリ内で話し合って、システムやルール上の原因がないかを探り、そこで改善点を見つけるようにしています。

たみお(PT)

僕のところでは、対策をする人によって変わると困るので、できる限りRCA分析で根本解析を行うようにしています。あとは、たみおさんと同じくシステムがヒューマンエラーの原因となる場合もあるので、マニュアルの見直しなどを含めた原因の分析は大切ですよね。

久原(ME)

Fats(Ph)

なるほど。まずはシステムやルールを見直して対策を講じるのですね。そういえば、最近はエラーが起きた際、個人の責任についてあまり言及されなくなっている気がするのですが、どうなのでしょうか?
たしかに、その風潮はあると思います。しかし実際は、個人による原因が根本にあるパターンがほとんどだと考えます。人は間違うこともあれば、嘘をついてごまかすこともあるので、なるべく個人の都合で左右されないよう、システムをしっかり構築するという考え方ですね。

久原(ME)

Fats(Ph)

なるほど。そういう解釈なんですね。
そしてもっと言えば、システムを構築するのも人間なので、システムエラーの原因をたどったら「そもそも間違ったシステムだった」と導き出されることもあります。

久原(ME)

そう言われてみると…。

たみお(PT)

要するに、インシデントにはシステムだったり人だったり、いろいろな要素が原因として含まれているから、根本について皆で考えて、インシデントを起こした当事者だけでなく、他の人も同じミスをしないようにしよう! ってことをしたいんですよね。

久原(ME)

うんうん

たみお(PT)

だからこそ、やはりRCA分析を行って、PDCAサイクルに乗せてフィードバックを繰り返していくことが重要だと思います。

久原(ME)

対策は構築して終わりではなく、評価が大事!

Fats(Ph)

どの職種にも当てはまる話になりますが、どれだけルールやマニュアルを検討しても、インシデントって起こってしまうものではありませんか?
そうなんですよ! 対策を考えて実行しているはずなのに、思うようにいかないことも多いんです。

たみお(PT)

Fats(Ph)

ですよね。人手不足によるミスの誘発は、設備や人員の補強でまかなえることもありますが、それだけでは難しいですよね。対策に行き詰まってしまったとき、久原さんはどうしていますか?
そのように、対策を講じても解決できない事案はたくさんあります。しかし、対策を立てて満足してしまい、そのあとにを評価・見直しをできていないという場合も少なからずあるので、まずはそこを徹底すべきです。

久原(ME)

Fats(Ph)

というと?
対策の結果がどうであれ、うまくいった理由、またはうまくいかなかった理由は何なのか。これらをさらにRCA分析していくことで、初めてPDCAサイクルに乗ると思うんです。

久原(ME)

なるほど! 対策がうまくいかなかったときだけでなく、うまくいったときも評価しなければ、PDCAサイクルは回らないということですね。たしかに、評価が疎かになっていたことが多いかもしれません。

たみお(PT)

対策に行き詰まったとき、頼りになるのはSNS!?

先ほども少し出ましたが、マニュアルの徹底やダブルチェックをしていても、いくつかはすり抜けてしまいますよね。その原因として、マニュアル自体に問題がある可能性もありますが、忙しさなどを理由にダブルチェックが機能していない可能性もあります。

久原(ME)

Fats(Ph)

ほうほう
例えば、人工透析終了時の薬剤投与忘れというインシデントがよくあったのですが、繰り返し対策していても、インシデントはなくなりませんでした。そこで原因を探っていくと、「正しいRCA分析が行われていない」「話し合いがグループで共有できていない」「発言力がある数人の意見だけが通っていた」などの実態が明らかになったんです。

久原(ME)

Fats(Ph)

ありがちですね…。
実際にきちんとRCA分析をしてみると、やはり「マニュアル厳守」「ダブルチェックの徹底」をはじめ、「薬剤投与の札を目に入る場所に付ける」など、たくさんの対策案が出てきました。そして、その案を1つずつ実行に移していきましたが、なぜか効果はいまひとつだったんです。

久原(ME)

Fats(Ph)

まさに行き詰まっている!
そうなんです。そこで僕は、どうしたものかと思い、Twitterでこのような事例の対策案を募集してみたのです。

久原(ME)

おお! SNSの活用ですね!

たみお(PT)

結果はなんと大成功で、自分の施設では思い付かなかった対策が次々と出てきたんです。そのなかの1つを実行したところ、効果テキメンで、薬剤投与忘れのインシデントは再発しなくなりました。

久原(ME)

Fats(Ph)

それはすごい。たしかに、外部から意見を募るというのは、非常に有効な手段かもしれませんね。ちなみに、どのような対策でうまくいったのですか?
透析終了時にかならず使う止血セットがあるのですが、そのセットの上に薬剤を別トレーで乗せておくという方法です。この対策で、止血セットを使う→その上にある薬剤を入れる、という流れが自然とできたんです。

久原(ME)

Fats(Ph)

なるほど! 労働力・資金・時間が限られているなか、たった1つの手順を追加するだけでミスがなくなるというのは、医療安全の観点でも見本になるような事例ですね。しかし、そこに至った経緯がSNSというのは実にイマドキ(笑)。
そういう事例があると、グループ内にも「もっとこうすればミスが減るかもしれない」と考える意識につながりそうです。うっかりでミスが起こらないように、対策を重ねていきたいですね。

たみお(PT)

忙しい現場でもスムーズに話し合いができる工夫とは?

Fats(Ph)

RCA分析からPDCAサイクルをスムーズに行うためには、スタッフ皆の知恵と意見が重要かと思います。しかし、多忙であればあるほどミスが発生しやすい環境になる一方で、インシデントが起きたとき、皆で集まって意見を出し合うような場は、忙しさゆえに設けにくいというジレンマもあるように思えます。
たしかに!

たみお(PT)

Fats(Ph)

理想はわかりますが、忙しい現場ではどうしたらよいのでしょうか。実際に医療安全対策を行う際に、工夫していることがあれば教えてほしいです。
そうですね、話し合いは、忙しいとないがしろになりがちですよね。実際に、グループワークができず一部の人の意見に左右されてしまう場合もありますし、話し合いができたとしても、結局まとまらないままになってしまう場合もあると思います。

久原(ME)

うんうん

たみお(PT)

対策の1つとして、対策案や原因解析を書き込める用紙を事前に配っておく方法があります。話し合い前にそれぞれが考えを整理しておくことで、いざ話し合う場でも、ある程度まとまった意見を出し合うことができます。また、紙に書いてあるため、グループワークでの進行が得意な人がいれば、よりスムーズに進みますよね。

久原(ME)

事前に整理してから話し合うのは、時間短縮にもなっていいですね。限られた時間で十分なインシデント対策を行なっていくためには、グループワークの効率化はとても重要だと思います。現状で無理だと諦めるのではなく、それぞれがインシデントと真摯に向き合って、より良い医療安全を目指したいですね。僕も、RCA分析とPDCAサイクルをもっと勉強しようと思いました。

たみお(PT)

ンシデントの原因が何であれ、起こったことに対して皆で前向きに検討していくことが大切ですよね。原因分析と聞くと身構える人もいるかもしれませんが、そう感じさせないように、グループのリーダーがうまく先導することも必要かと思います。これからも地道に頑張りましょう。

久原(ME)

Fats(Ph)

誰しも、ミスが頻発したときは自責の念にかられ、なんとか自分で解決しようと思い込みがちだと思います。ですが、そういうときこそ、同僚や、ときに施設外の意見を仰ぎ、ミスを客観的に見ることが必要なのではないでしょうか。今回の話し合いで、適切なPDCAサイクルを構築することが重要だと学ぶことができたように思います。どこの職場も人手不足な中、将来の患者さん、そして自分たちの安全のために、今ほんの少しでも時間を割いて、対策を考える姿勢を大事にしたいですね。
まとめ
病院内で起こるインシデントやアクシデントは、1つの部署だけが原因で起こるものだけではなく、さまざまな要因が重なって起こることもあります。そんなとき、当事者となったグループ内はもちろん、他職種や他病院のスタッフが知恵を集めれば、より良い対策方法を導きだせる可能性が示されました。RCA分析やPDCAサイクルは、経験や幅広い知識があってこそ深まるので、座談会参加者のような先輩スタッフは、後輩をしっかり導いてあげましょう!