医療・介護職の方は患者さんの車いすへの移乗など、立ち上がる際の介助を一度は経験したことがあるかと思います。
しかし厚生労働省の調査において、社会福祉施設における腰痛発生の原因は移乗介助が約70%を占めており、職業性疾病の腰痛予防対策は医療従事者の健康確保にとって大きな課題となっています。
そこで今回は、立ち上がり動作の介助を行う際に気を付けたい体の使い方のポイントについて、理学療法士が解説していきます。
ポイント①:自分の立ち方を確認しよう
人は立っているとき、足を閉じているのと開いているのでバランスや力の入りやすさが変わります。
これは、支持基底面という体重を支えるために必要な床面積が、足の幅によって変わるためです。
足を開いて立っている方が支持基底面が広がり転びにくく、重心も低くなり安定します。
患者さんを介助するときは、まず自分の体を安定させることが重要です。
ポイント②:患者さんの座り方を確認しよう
患者さんの座っている位置も重要です。
両足裏がしっかりと床に着き、膝は90°より深く曲げ、滑り落ちない程度に浅く座ってもらうことで、立ち上がりやすい姿勢になります。
患者さんと介助者両方の負担軽減になるので、必ずチェックしましょう。
ポイント③:患者さんとの体の距離を近づけよう
患者さんとの体の距離が遠いと、介助者の腰が後ろに引いた中腰姿勢になってしまいます。
また腕が伸びきって脇が開いてしまうため、全身の力をうまく腕へ伝えることができません。
患者さんとできるだけ体を近づけて、うまく力を使えるようにしましょう。
またこのとき、介助者は膝を深く曲げ重心を落とすことで腰が伸び、中腰姿勢を軽減することができます。
ポイント④:患者さんの重心を移動させよう
立ち上がらせようと意識すると、真上に引っ張り上げるイメージを持ってしまうかと思いますが、それでは患者さんの重心がお尻に残っているため余分に力を使わなければなりません。
立ち上がらせる際はまず、患者さんの体を前に倒す意識を持ちましょう。
そうすることで、患者さんの重心がお尻から足に移動し立ち上がりやすくなり、患者さんと介助者双方の負担軽減に繋がります。
ポイント⑤:患者さんと息を合わせよう
介助時に何も言わずに急に立ち上がらせたり方向転換させたりすると、患者さんはびっくりして力が入ってしまいます。
力が入って抵抗されてしまうと、より介助側にも力が必要になるため、腰への負担が増大します。
「立ち上がりますよ」や「方向転換しますよ」など、適度なタイミングで声かけすることで患者さんも力まず、介助者の負担を減らすことができます。
このように自分と患者さんの体を上手にコントロールすることで、腰への負担軽減に繋がります。
怪我せず安全に移乗介助していくために、今回のポイントを現場でチェックしてみてください。
参考文献
1) 厚生労働省 職場における腰痛予防対策指針の改訂 及びその普及に関する検討会報告書
慢性期病院で勤務し、患者さんの生活の質を向上させるべく奮闘中。講演やボランティアなどの地域に根ざした活動を積極的に行っています。メディッコではギター侍担当。