心臓病榊原病院のハートチームに所属する、臨床工学技士の中島康佑さんをお招きしてお送りする座談会、第2弾です。前回は、ハートチームの活動内容の概要についてお聞きしました。今回は立ち上げ時のことや土台作りのコツについてお伺いしていきます。
参加者
・ゲスト
中島康佑さん(ME)
心臓病センター榊原病院の臨床工学技士。ハートチームの立ち上げに関わり、多職種連携をしながら活動を広げてきた。重症心不全チーム元リーダー(終身名誉リーダー)。
・メディッコメンバー
須藤(OT)
心臓リハビリにも関わる作業療法士。勤務先にはハートチームがなく、活動内容に興味津々。
大前(Ns)
ICUで勤務する看護師。普段から心臓血管外科や循環器内科の患者さんと関わるがハートチームがどのような役割を担うかまでは知らない。チームの立ち上げ方から動かし方までのノウハウを知りたいと思い参加。
久原(ME)
臨床工学技士として循環器疾患の治療に携わるなかで、ハートチームの存在を中島さんの講演で知った。もっと深く話を聞きたくて参加。
チームの意義を認めてもらうためには?
須藤(OT)
前回では『心不全チーム』の活動は幅広いことがわかりましたが、院内の立ち位置はどのようになっているのでしょう。委員会として認められているのでしょうか?
実は『心不全チーム』はまだ診療加算がないので、立ち上げ当初は委員会として認めてもらえませんでした。活動から数年経って病院の看板となる働きができ、ようやく委員会として認められるようになりました。
中島さん(ME)
久原(ME)
認めてもらうための活動や、どうやって働きかけたのか気になります。
それぞれが地道にハートチームの活動を論文や学会発表で報告を行っていきました。臨床検査技師やリハビリのなかには、国際学会で発表している方もいます。
中島さん(ME)
久原(ME)
各職種がハートチームの活動をアピールしているんですね。そういえば、集中治療学会で榊原病院のハートチームに関する発表がされていたのを以前拝見したことがあります。たとえばどういった内容の発表をしたのかを知りたいです!
そのときは、チームで取り組んだ調査データに基づいて、それぞれの観点で発表していました。
中島さん(ME)
須藤(OT)
そうです。たとえば、リハビリの介入によってICU滞在日数や生存率がどのように変わるのか、MEの介入により何が変化したか、など。それぞれの職種が興味関心のある切り口で行っています。なかなか好評でして……。演題によっては学会誌への投稿依頼もありました。
中島さん(ME)
大前(Ns)
ほかにもいろいろと反対意見もありましたね。協力してもらうことが多いので、とくに各部署のトップの方には「そんなにいろんなこと言うんだったら、最初から全部心不全チームで見たらいいじゃない」とも言われましたし、ICUの看護師からも苦情がありました。
中島さん(ME)
久原(ME)
最初は変化すること、負担が増えることに反対する人も出てきますよね。
そうですね。でも今は、しっかりと成果が出ているので反対意見はなくなりました。
中島さん(ME)
久原(ME)
数字で結果を示したというのが大きかったんでしょうか。
そうですね。医師もそうだと思うのですが、エビデンスがあるのか、論文があるのかということを聞かれるので、私のチームの場合はすべて論文化してデータを出しました。それを勉強会の題材にして認めてもらいました。
中島さん(ME)
久原(ME)
ありがとうございます。平成30年度に病棟薬剤業務実施加算が整備されたときは、当院の薬剤師はすでにHCU(高度急性期治療を行う治療室)で薬剤業務を行っていたので、実際にどのような働き方をしているか、先駆けて発表することができました。
中島さん(ME)
須藤(OT)
久原(ME)
チームのモチベーションと行動力が尋常じゃないですね!
本当に当院のスタッフのモチベーションはすごく高いです。私自身が置いて行かれないように、自分のモチベーションを保つのが大変ですね(笑)。
中島さん(ME)
チームのモチベーションを保つには?
先ほど、中島さんがモチベーションの話をしていましたが、チーム全体のモチベーション維持のために、何か気を付けていることはありますか? とくにMEさんがここまでなんでもできてしまうと、看護師としてはちょっと受け身になってしまうのではないかという懸念が……。
大前(Ns)
看護師さんからも「ここがどれだけ出血してて大変だ!」「褥瘡がこうだ!」など、ちゃんと伝えてくれますよ。あとは患者さんの背景については、やっぱり看護師さんが一番よく気が付いてくれるので、頼りにしています。
中島さん(ME)
大前(Ns)
ほかの職種と関わることで、「こういうことまで考えないといけないんだ。」という、いろんな視点があるので面白いですけどね。
中島さん(ME)
そこはやっぱり、多職種が絡んだときのよさですよね。ICUは、どうしても治療の場という環境なので、MEや医師が機器設定することが多いです。なので看護師は、ある程度経験を積んでいないとあまり口を挟めない、というのは現実的にあるかなと思ってました。
大前(Ns)
うちの看護師さんは、医師が手を離せないときに呼吸器の設定や、輸液ポンプ、輸液量の調節など、いろいろなことを考えてフォローしています。自分たちがやらないと助からないと思ってるんだと思います。
中島さん(ME)
須藤(OT)
一人ひとりが責任感を持っているというのはすごいですよね。
本当にそうですね。自分の勤務さえよければという考えの人は、あまりいないと思います。自分の勤務のときに、少しでもよくしようと思ってくれてる人が多いんじゃないかなと、カンファレンスをしていても思います。
中島さん(ME)
「私たちの介入で社会復帰してもらおう!」みたいに、みんな熱があるということですね。
大前(Ns)
久原(ME)
働いていたら、みんな少なからず最後まで諦めないという気持ちはあると思うんですが、どこかでそこのモチベーションが途切れる瞬間みたいなのがあるんですよね。
僕らのチームもモチベーションが下がった時期がありましたよ。カンファのために集まっても、「毎日同じ内容をやってるだけじゃないか」と言われたこともあります。その同じ内容が大事なんですけどね。
中島さん(ME)
久原(ME)
誰かいい緊張感を与える人が必要かもしれないですね。そこは中島さんですか?
そうですね(笑)。必要なときは、医師に対して言うこともあります。
中島さん(ME)
久原(ME)
医師のモチベーションが下がっているときもあるんですか?
そうですね。医師は忙しくて来られないこともあって、それが続くと「もう任せておいたらいいんじゃないか?」と言われたことがありました。それで一時期、中だるみのような流れになったので、カンファで「医師が必要だから、絶対に出てきてほしい」と相談させてもらいました。最近では毎日来てくれますね。
中島さん(ME)
久原(ME)
あとは、キーパーソンともいえる内科医師に毎日顔を出してもらうように働きかけました。すると、その周りのスタッフもその医師についてくるようになって、うまくいきました。
中島さん(ME)
須藤(OT)
そのような医師が一人でもいないと、コメディカルだけでは難しかったと思います。最終的な決定権もありませんし。
中島さん(ME)
そうですよね。チームで活動するためにはリーダーシップを取れる人物が、周りを巻き込んで物事を動かしていくことが必要ですよね。
大前(Ns)
中島さん(ME)
須藤(OT)
じゃあ、あらかじめどの医師をキーパーソンにして活動していくべきかはビジョンにあったんですか?
もちろんです。過去にはキーとなっていた医師が転勤するタイミングもありましたが、今の流れを途切れさせたくありませんでした。なので、その後もキーとなる別の医師を探して、勉強会などを開いてもらい、積極的に関わってもらう努力をしてきました。
中島さん(ME)
須藤(OT)
チームでの活動は、立ち上げ時の土台作りがとても大変なことがよくわかりました。
そうですね。ただ、問題意識を持つコメディカルの方々がたくさんいたので、予想以上に順調に発展したと思っています。
中島さん(ME)
まとめ
ゲストをお招きしてお送りする、ハートチームの座談会、第2弾。呼吸サポートチームや栄養サポートチームとは異なり、加算がまだついていない活動であり、立ち上げ時には苦労したことがわかりました。第3弾では、チームをどのようにして維持、発展させていったのかについてお聞きしていきます。