現役手術室看護師が伝えます!オペ出しに必要な情報の本当の意味

「手術室への申し送り、なんでこの項目必要なんだろう?すべて埋めるのめっちゃ大変だし、オペナース怖いし、とにかくオペ出しって好きじゃない^^;」

そんな病棟看護師・外来看護師も多いのではないかと思います。

特に緊急手術の際は、入院直後の患者をすぐに送り出さなければならない場合も多く、「こんなに細かなことチェックしていられない」と思うこともあるでしょう。

では、この申し送り項目が、手術室でどのように活用されているのかが分かれば、申し送りの重要性に気付くことが出来るかもしれません。

今回のコラムでは、特に大事な2項目について詳しく解説してみました。

皆さんの申し送りが、患者さんの安全な手術につながっています。

是非このコラムを読んで、ちょっとめんどくさいけど、オペ出しに必要な情報の本当の意味を学んでみましょう。

最終飲水時間、食事摂取時間

病院によって様々ですが、術前には飲食物を制限し、水分や固形物を最後に摂取した時間を記載しています。

これは胃の内容物を極力0にすることにより、嘔吐・誤嚥リスクを減らして全身麻酔を掛ける必要があるからです。

麻酔科学会が推奨している絶飲食時間は以下の通りです。(このうち固形食に関しては、欧米のガイドラインが示されています)

①清澄水の摂取は年齢を問わず麻酔導入 2 時間前まで安全である

※「清澄水」とは「水,茶,アップルあるいはオレンジジュース(果肉を含 まない果物ジュース),コーヒー(ミルクを含まない)など」

②固形食のうち軽食については欧米のガイドラインで摂取から麻酔導入までは 6 時間以上空けることとしている 。ここで指す軽食とは「トーストを食べ清澄 水を飲む程度の食事」とされており,揚げ物,脂質を多く含む食物,肉の場合は 8 時 間以上空ける必要がある

③母乳の摂取は麻酔導入 4 時間前まで安全である

④人工乳・牛乳の摂取は麻酔導入 6 時間前まで安全である

参考:日本麻酔科学会「術前絶飲食ガイドライン」https://anesth.or.jp/files/pdf/kangae2.pdf

病院により絶飲食の推奨時間は異なりますので、必ずしもこのガイドラインに沿った術前指示ではないと思いますが、参考の為に転載しました。

緊急手術の場合は、この絶飲食時間を守れない場合があると思います。その時には、手術室では普段とは異なる麻酔方法(迅速導入)を選択します。イレウス手術(絶飲食していても、胃に内容物がある状態)の場合も同様です。

超緊急に手術をしなくてはならない場合を除き、誤嚥リスクは極力減らして手術に臨むのが基本です。誤って朝食を食べてしまった、清澄水ではない飲料を飲んでしまったなどの場合は、麻酔科医の考え方にもよりますが、手術時間をずらす、最悪の場合手術を延期するなどの対応をすることもあります。必ず早めに手術室まで連絡をください。

全身麻酔を掛けない手術(局所麻酔、脊椎麻酔、硬膜外麻酔など)の絶飲食時間は、病院により考え方が異なります。私の働いている病院では、全身麻酔に移行する可能性のある麻酔科医管理下手術は、全身麻酔と同様の絶飲食時間にしています。

定期手術では指示の絶飲食時間が守られている事。緊急手術では最終の飲食時間を申し送ってもらえると(出来れば事前に手術室へ伝達してもらえると)とても助かります。

アレルギー情報

手術では、患者に複数の薬剤を併せて使用することがよくあります。そして、普段とは異なる人為的な呼吸の管理(人工呼吸器)を行っています。呼吸や循環動態などの変動は、薬剤の効果なのか、アレルギーなのか、術野の出血等の影響なのか、どれが原因によって起こっているものなのかを判断するのが難しいため、因子の一つであるアレルギーは極力避ける必要があります。事前情報があれば、薬剤の投与をあらかじめ避ける=予防することが可能です。

また、手術の特殊性としては「粘膜や臓器に直接アプローチする」という観点があります。普段生活している時には触れても大丈夫なものでも、直接的に触れてしまうことでアレルギー反応を引き起こす危険性です(ラテックスアレルギーなど)。

WHOが発行している「安全な手術のためのガイドライン2009」にも、アレルギーや副作用について、このように示されています。

過敏反応または 副作用のリスクが分かっている患者に対する薬剤の投与が 特に危険である。既往歴やアレルギーがない患者に正しい 薬剤が投与される際にも、副作用は起こり得る。このよう な症例では副作用は通常避けようがない。過敏性が分かっ ていたにもかかわらず指示ミスがあった場合もある。これ は、全ての患者からの適切な病歴、十分な文書調査と記録 の保存、臨床ケアチームのメンバー同士の良好なコミュニ ケーションと適切な安全手順が効率的に行われていること を確認するチェックリストの使用で防ぐことができる。

参考:https://anesth.or.jp/files/pdf/20150526guideline.pdf p36「チームは、患者が重大なリスクを有するアレ ルギーまたは副作用を誘発しないようにする」の項より引用

手術室看護師が術前訪問を全症例実施しているような病院では、アレルギー情報を患者から直接聴取していることが多いと思います。また麻酔科診察がなされている病院でも同様です。

しかし、細かな患者情報を正しく持っているのは病棟看護師であることが多いと思います。

特に緊急手術など、術前訪問・術前診察が出来ない場合はなおさら病棟看護師の情報がとても重要になります。

参考までに、私が手術室看護師として特に気を付けて情報聴取しているアレルギー情報の例をいくつか列挙しておきます。

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)

アスピリン、ロキソプロフェン、アセトアミノフェン、イブプロフェンなど。この場合「薬剤単体(ロキソプロフェンだけ)」がダメなのか、「NSAIDs全般」がダメなのか、患者から情報を聴取する必要があります。特にアスピリン喘息の患者(この場合はNSAIDs全般がダメ)は要注意です。

※ピリン系薬剤は、アスピリンとは異なる薬剤ですが、患者がアスピリンとピリンを混同して(間違って)記憶している場合があり、注意深く聴取しています。なお現在、ピリン系薬剤は副作用が問題となり、使用している病院はほとんど無いと思います。

②抗生剤

過去に使用した抗生剤でアレルギーがある場合、同じ分類にある抗生剤は基本的にアレルギーを誘発する可能性があるため使用できません。入院と同時にルーチンでオーダーされる抗生剤がある場合は注意が必要です。

③造影剤

過去に検査などで使用した造影剤のアレルギーが発覚しており、手術中にも造影剤を使用する・使用する可能性がある場合は、薬剤の変更、ステロイド等の薬剤投与、手術内容の変更などが必要になる場合があります。

造影剤を術中に使用する手術の例:ステントグラフト挿入術、シャントPTA、血栓除去術、尿管ステント留置術、逆行性尿管造影など

※近年様々な手術に保険適応(K939-2 術中血管等描出撮影加算)となった「インドシアニングリーン(ジアグノグリーン、ICG)」もヨード過敏症の既往歴のある患者には禁忌とされており、(禁忌:本剤はヨウ素を含有しているため、ヨード過敏症を起こすおそれがある、と添付文書に記載あり)、下記手術を受ける患者においても造影剤アレルギーの情報が重要です。

インドシアニングリーンを使用した「血管及び組織の血流評価」を行う手術例:冠動脈バイパス術、腸切除術、脳神経外科手術、乳がん手術におけるセンチネルリンパ節生検など

④ラテックス・ラテックスフルーツ症候群・花粉症

ラテックス、つまり天然ゴム、そしてラテックスフルーツ症候群(アボカドやキウイなど)、花粉症について情報を聴取しています。これらのアレルギーを持っている患者は、手術中に使用される滅菌手袋、尿カテなど、特に直接粘膜に触れるラテックス製品でアナフィラキシーショックを引き起こす恐れがあります。

私が働いている職場では①ラテックス製品でアナフィラキシーショックを以前に引き起こしたことがある②ラテックス製品でアレルギー(蕁麻疹・発疹など)を引き起こしたことがある③ラテックス製品は問題ないが、ラテックスフルーツ症候群がある、の3段階で対応を分けています。

ゴム製品、並びに果物アレルギーがある患者の情報は超重要項目です。また、医療従事者や何度も手術を繰り返している患者でラテックスアレルギーがある場合は、ハイリスクグループに分類されており、特に注意が必要です。

(なお、病院によってはラテックス製品を手術場において使用しない取り組みをしている場合もあります。)

 

参考

厚労省発行「ラテックス・アレルギー注意喚起」https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000158833.pdf

日本ラテックスアレルギー研究会「ラテックスアレルギーとはどんな病気?」http://latex.kenkyuukai.jp/special/?id=1270

 

このように、アレルギー情報を手術室ではとても大事に扱っています。患者の意識が無い場合は、同居家族から情報を取ることもあります。

申し送りのアレルギー情報で、患者の命が左右することもあるので、今一度確認漏れがように気を付けてください。

まとめ

今回は、オペ出しの際に重要な「絶飲食時間」と「アレルギー」が、なぜ申し送り情報として必要なのかについてまとめました。

絶飲食は、全身麻酔時の嘔吐・誤嚥を防ぐため。

アレルギーは、手術時におけるアレルギー反応・アナフィラキシーショックを未然に予防するため。

オペ出しには、この他にも「体内挿入物」や「禁忌側、麻痺側」「可動域制限」「同意書の有無」など、様々な物を準備・確認して送らなければなりません(項目は病院によります)。

その一つ一つが、患者さんの安全につながっています。

病棟、そして外来看護師さん達へ。

いつも忙しいなか、オペ出しをしてくださりありがとうございます。

帽子とマスクをしているため、目しか見えないオペナースが怖く見える時もあると思いますが、患者さんを想う気持ちは一緒です。

これからも、見えない手術室の実際を伝えていけたらいいなと思っています。

それでは、さくらこでした。

執筆者
 さくらこ(看護師)

1年目から手術室に配属され、10年以上経った現在も現役の手術室看護師。普段はTwitter(@sakurako_ope)にて主に看護師育成・教育について発信。サイト「看護師指導の基本となるもの」を個人で立ち上げ、看護師教育の教科書的な記事を作成中。

・Twitter:https://twitter.com/sakurako_ope

・site:https://ope-nurse.com/