知られざるICUの世界〜ポジショニング編〜

ICUは閉鎖された空間で、病棟の看護師や他の職種には見えにくい場所です。あなたはICU看護師が、どんなことを考えながら仕事をしているかご存知でしょうか?頭の中を覗けたら同職種でも他職種でも、一緒に仕事がしやすくなると思いませんか?

そこで今回は、ICU看護師の大事なお仕事『ポジショニング』について、どんなことを考えながら実施しているのかお伝えします。これを読めばあなたもICUで働きたくなるかも!?

なぜポジショニング?

そもそも「ポジショニングってなんや?」ってところからです。簡単にいうと「動けないことで起こる悪影響を予防しながら、早期離床のために身体を動かす」ことです。

ICUにいる患者さんの多くは、侵襲(身体にダメージ)を受けた状態で安静臥床を強いられています。とくに人工呼吸器を装着し、鎮痛・鎮静薬を使用されている患者さんが多いのですが、これは身体にとってとても悪影響なことがわかっています。

安静臥床の悪影響

では、安静臥床がどのように悪影響を及ぼすのか説明します。

呼吸への影響としては、炎症物質が悪さをして虚血性の低酸素血症が起きます。また、挿管の影響も相まって誤嚥性肺炎が起こることがあります。酸素化が悪化すると、全身の酸素や栄養が不足し悪循環に陥ります。

他にも、侵襲が大きいと身体の筋肉も栄養として使われるため、動かないこと以上に全身の筋力は低下します。循環に関しては、立位や座位を取っていた時と臥床が続く時では重力の影響の受け方が変わり、心拍数が減少したり利尿が促進されることもあります。

その結果、呼吸・循環・代謝を担う臓器が働きにくい環境となっていくのです。また刺激が少ないことにより認知機能への影響も大きく、せん妄の発症リスクも高まります。

これらのことをPICS(ピックス:集中治療症候群)と言い、退院後にまで影響すると言われています。

そこでポジショニング

これらを可能な限り予防しようというのが『ポジショニング』。

身体をいろんな角度からアセスメントして、今取るべき体位はこれだ!と導き出すのです。排痰が目的であったり、褥瘡予防が目的であったり、呼吸リハが目的であったり…その時々でさまざまな体位や方法が求められます。

目的が多角的なので、どんな体位も一長一短があります。

例えば、気道分泌物をドレナージするために左側臥位にすると、心臓や大血管が圧排されて血圧低下を引き起こす可能性があります。呼吸面積の確保のため腹臥位にした方が良いと判断しても、足の付け根の大腿動脈から補助循環の太いシースがあると、体位変換などの時に思いもよらない抜去で循環が維持できなくなる可能性なども考慮する必要があるのです。

他の職種を頼れ

このようにポジショニングでは「合併症を予防し離床を促す」という目的がありながら、常にどのような危険があるかを考える必要があります。

「こんなん1人で考えるの無理!」って思いがちですが、安心してください。仲間がいます!

どのような問題が生じていて、どうすればよいかを多職種でディスカッションするのです。病状的にポジショニングを行っていいのか医師に確認したり、どのような体位や運動が必要かPTやOTと相談したり、そのポジショニングで医療機器に影響は無いかCEと連携をとりながら、全員で最良のかたちを探すのです。

これぞまさに、集中治療、多職種連携です!それぞれの専門分野を集結し、患者さんに良いものを提供する。そのために多職種のつなぎ役を担うのがICU看護師の役割だと僕は考えています。

どうです?意外と奥深く、そして面白そうでしょ?いつでもICUであなたの専門性を待っていますよ!

 

 

執筆者
大前(看護師)

急性期病院のICUで看護師をしている。さまざまなイベントで司会進行をしてきた経験があり、メディッコでは司会兼ツッコミ担当。そしてみんなの兄貴!

@Bird_s13