失語症者と話すコツは?現役言語聴覚士がフリートークを伝授します!

言語聴覚士(以下、ST)のリハビリで大切な「フリートーク」。

これは文字通りに受け取ると「ただのおしゃべり」と思われがちなのですが、実は「ただのおしゃべり」ではないのです!

これを読んで、「そんな意図があるのかー!」「そんな風に進めているのかー!」と知って欲しいのです。そして、皆さんもレッツトライしてみて欲しいです!

フリートークとは

STがリハビリ内でする「お話し」のことです。

大事な情報収集や患者さんの思いをお聞きするとても大切な時間です。STの対象患者さんは、お話しできるかたばかりではないので、ひとりひとりに合わせた伝えかたをしています。

失語症の人と話すって?

私たちSTが最も専門性を発揮する対象ケースが「失語症」です。

しかし、ST以外の他職種、ご家族でさえも「どのように接して良いかわからない」と思われることが多いのです。

そこで、今回は「話すことが難しい人」とSTがどのように会話しているのかを紹介します。

①話しことばを書く!

早速ですが、ちょっと例をあげますね。

あなたは英語の理解が苦手だとします。耳で聞いていると頭に「????」が飛びます。でも文字で書いてもらうとどうでしょう?少しわかることありませんか?全体像を十分に理解することはできないかもしれないけれど、わかる単語を組み合わせていくと、それとなく、なんとなく、少しは理解できることがありますよね。

それと同じく、失語症の方とお話しするときはことばを話すだけではなく、「話しながら書く」のです。書く時は、できるだけ漢字を使ってください。(当て字はNG)漢字は、そのものの「意味」をあらわしています。なので、理解が促進されるのです。

②時には絵も描く!

とにかく目に見えるように伝えるのです。

ということで、文字だけでなく絵を書いて伝えることも有効!「私、絵心ないから…」という人は、スマホで伝えたいものの写真を見せるもよし!すでにあるイラスト集を使うもよし!文字だけでは限界、絵がある方が伝わりやすいこともあるので、使えるものをどんどん使っていきましょう!

③患者さんに書いてもらっても良いのだ!

ここまでは「伝える方法」でした。でも患者さんだって、訴えたいことがあるのです。そりゃそうですよね。

なので、患者さんに鉛筆を渡してみましょう。もちろん認知機能や、失語症のかたは文字がきちんと書けないことはあります。「書いてもらったら絶対わかる」わけではありませんが、「え、こんな絵描けるの?」とか、思いのままに徒然なにやら書いてドヤ顔してくださったりとか、意外な反応が見られるかもしれません。

最後にエピソード

最近私が訪問している患者さんは、糖尿病の薬を飲まずに捨てているんです。それがなぜだかわかりません。患者さんは理解も不十分だし、主に「こーこー」という言葉しか話せない。奥さんも「なんで飲まないんでしょう?飲みなさいって言うと怒るし、困っています。」とのこと。

(下記『』で記載したものは、紙に書いていると想像してください。)

みや「◯◯さん!『糖尿病』の『薬』、『飲まない』んですか?」

患者「こーこーこー」(うなずいている)

みや「どうして?」

患者「こー、こー、こーさ」(お腹をさすっている)

みや「ん!?…」

患者「こーさ、こーこー」(ズボンのゴムをびよんと伸ばしている)

みや「…あ!お腹周りがすっきりした!!お腹少し痩せましたね!!」

そうなんです。

この患者さんは自分が糖尿病の薬を飲んでいることはわかっていて、甘いものを控えなくてはいけないこともわかっていました。「できるならば薬は飲みたくない。」そんな思いがあったようで、「ぽっこりしたお腹をすっきりさせれば、薬を飲まなくても良いのでは?」と考えたようです。

たしかに「最近、大好きな大福を食べなくなったんです。どうしてかしら?」と奥さんは仰っていた…。大福飽きたのかな?お腹空かないのかな?いろいろ思っていましたが、プチダイエットだったのか…。「ぽっこりお腹がすっきりしたから、これで薬は飲まなくて良い」と考えて薬を飲まなくなったようです。そんなことを考えていたのか!とこの場は大笑い。(お腹周りだけの問題じゃないんだぞー!というお話はその後に…)

おわりに

こんな風にしていると1つの質問、応答にもとても時間がかかります。「ただおしゃべりしている」ように見えるかもしれませんが、1つの大事な出来事を掘り下げて聞けたり、患者さんの気持ちがわかったり、その方の「話して楽しい」「わかってもらえる」感覚を取り戻していただく役になれるよう、STは「フリートーク」をしているんです。

「ことばが話せないから、話しかけづらい」と思うこともあると思いますが、少しの工夫で心が通じ合えるかもしれません!レッツトライ!

執筆者
みややん(ST)

現在は、小児からお看取りまでに携わる訪問ST。回復期リハ病院、教員、急性期、ことばの教室もチラッと勤務。摂食嚥下認定STだけど、やっぱりコミュニケーションって1番根っこだよねーと思い返しているところ。