皆さんの施設では、経鼻経管や胃瘻から薬剤を投与する時、薬剤はどのような形で調剤されていますか? すべての薬剤が粉砕調剤されているでしょうか。経管投与にも使える「簡易懸濁法」という方法があるのをご存じですか?
簡易懸濁法とは
簡単に説明すると、薬剤を粉砕せず適切な温度の水(お湯)で崩壊懸濁して投与する方法です。投与の直前まで錠剤・カプセルの形を保ったまま薬剤を保管できるため、さまざまなメリットがあります。
簡易懸濁法のメリットは?
粉砕調剤に向かない薬剤や、ハザーダス・ドラッグの経管投与が可能になる場合があります。抗がん剤のような薬剤を粉砕することは、調剤する薬剤師、薬剤を投与する看護師、服薬介助をする家族など、いずれも粉砕され飛散しやすくなった薬剤に曝露するリスクが上がるため、基本的に行われていません。
1. 遺伝毒性、2. 発がん性、3. 催奇形性、4. 臓器毒性――という4要素のうち、一つ以上を備えた医薬品
簡易懸濁法であれば、投与直前まで錠剤・カプセル剤のまま取り扱いできるので、曝露リスクが下がります。抗がん剤の簡易懸濁について検討している報告1,2)もあります。
その他のメリットとして、薬剤投与時のロスを抑えられる点があります。調剤するときは調剤機器に、投与するときは分包紙に薬剤がくっつくため、若干のロスが生じます。投与直前まで錠剤・カプセル剤の形を保てる簡易懸濁法なら、このロスを減らせる可能性があります。
また、薬剤の中には製剤学的な工夫により、不安定な有効成分の長期保管を可能にしているものがあります。粉砕調剤ではせっかくの製剤設計を壊してしまうので、有効成分の保管に悪影響が出る可能性があります。
導入する上でのデメリットは?
調剤者・服薬介助者に、調剤手順や投薬手順など業務フローの変更が必要になります。そのため、スタッフの簡易懸濁法への理解が重要です。粉砕された薬剤と比べて薬剤の崩壊まで少し時間がかかるので、私も過去何度か「全部粉砕してくれればいいのに」と病棟スタッフから言われた経験があります。
最近は導入している施設も増えてきた簡易懸濁法ですが、皆さんの施設ではいかがでしょうか。薬剤投与の際のオプションとして、是非知っていて欲しい方法です。
1)医療薬学39(9):565-570,2013.
2)医療薬学38(12):751-756,2012.
後発医薬品企業勤務の後、病院薬剤師。いわゆる中小病院で糖尿病・感染症領域を主にうろうろと。