説明するときの苦悩。作業療法は「進化の過程」からイメージする!

作業療法の最大の特徴は、「作業に焦点を当てること」です。しかし、患者さんに作業療法を理解してもらうことは、頑張って説明するだけでは難しいこともあります。

今回、メディッコで現役の作業療法士が「作業療法の説明について」をテーマに、「作業療法士はどんな仕事をしているの?」「ずばり、作業療法の強みとは?」など、本音で語り合いました。患者さんへの説明に悩む作業療法士さん、必見です!

参加者

 須藤(OT)
作業療法士11年目、大学病院勤務。心臓リハビリ、ハンドセラピィに従事。

 坂場(OT)
作業療法士5年目、精神科デイケア勤務。大学院修士課程で研究中。

 小池(OT)
作業療法士10年目、急性期病院勤務。主にハンドセラピィ領域に従事。

作業療法士は「生活の専門家」

須藤(OT)

今日のテーマは「作業療法の説明について」です。小池さんは患者さんから「作業療法ってなに?他のリハビリとの違いは?」と聞かれたら、どのように説明していますか?
一言で説明する場合は、「手のリハビリです」と言います。慌ただしい現場では、それだけしか言えないこともありますが、時間があるときにはもう少し詳しく説明しますね。

小池(OT)

須藤(OT)

確かに、実際に手を使う作業は多いですからね。でも、手だけじゃないんですよね。(笑)
そうですね。そこで最近は、リハビリの違いを説明するとき、「理学療法士は動きやすくする専門家で、作業療法士は生活しやすくする専門家です」と伝えています。

小池(OT)

僕もそれは言いますね。

坂場(OT)

実はこれ…Twitterで見つけた理学療法士さんのツイートなんです。端的でわかりやすかったので、参考にさせてもらいました。

小池(OT)

須藤(OT)

あ!僕も見ました!初めて読んだときは頭を打ち抜かれたような衝撃を受けましたね。「他職種の方が作業療法士のこと捉えているじゃないか!」という悔しさと、「作業療法士自身はずっと悩んでいるのにうまく説明できていない」という恥ずかしさの2つの気持ちが混ざり合いましたね。
作業療法士にとって、「生活しやすくする専門家」という表現は納得のいくものだと思います。でも、一般的には、作業療法と理学療法は混同されやすいのが現状ですよね。

小池(OT)

そうですね。

坂場(OT)

須藤(OT)

現場ではよくありますね。
先ほどのように説明しても理解を得られなかったときは、ヒトの進化に例えて説明することもあります。「たとえば、ヒトが四足歩行から二足歩行へ進化するときには、基本動作を改善する理学療法が必要です。さらに、前足を手として用いるための進化には、生活動作を改善する作業療法が必要です」といった感じでしょうか。このように話すと、「おお、なるほど!」と言われることがあります。

小池(OT)

おぉ、進化に例えるんですか!面白いですね。勉強になります!

坂場(OT)

精神科は患者さんに合わせたシンプルな説明を心がける

須藤(OT)

坂場さんは、普段精神科で、患者さんにどのように説明していますか?
基本、シンプルに伝えるようにしています。精神科症状の一つである認知機能の低下により、理解が難しくなることがあるからです。また、1から10まで細かく説明すると、患者さんの混乱や妄想を招くなど、症状悪化につながってしまう場合もあります。

坂場(OT)

須藤(OT)

患者さんが受け入れられる情報量を考慮する、ということですね。
そうです。たとえば「夜間は寝て、日中に活動するところから始めましょう。作業療法室には、さまざまな活動やレクリエーションの準備がありますよ」と直近の目標のみを説明します。また、「日中やることがないと退屈だろうから、作業療法室で何かやりましょうか」と話すこともあります。

坂場(OT)

須藤(OT)

それは良いですね。
精神科では、作業療法という言葉自体を理解できない患者さんも多いです。そのため、薬や休養によって症状が落ち着いてから、再度説明の時間を設けます。「退院後の生活をどういったものにしたいか」という具体的な目標を考えてもらうためのやりとりです。

坂場(OT)

須藤(OT)

日中の活動に目を向けてもらえるような声かけをしているんですね。患者さんにとっては「時間がもったいない」と気付くきっかけになるかもしれませんね。こうした思いを乗せたひと言は、僕も見習いたいと思います。

患者さんへの質問を通して、作業療法の理解を進める

須藤さんは何か気を付けていること、ありますか?

坂場(OT)

須藤(OT)

僕は高齢者の患者さんと関わる機会が多いので、難しい説明だと理解してもらえないんです。そういうときは、質問を通して理解してもらう工夫をしています。
質問…ですか?

坂場(OT)

須藤(OT)

はい。患者さんがやりたいこと・行う必要があることに焦点を当てた質問をよくするんです。たとえば、「今までどんな生活をしていましたか?」「好きなことは何でしたか?」というものです。このような質問から掘り下げていくことで「作業療法は生活に関わることをするんだ」「好きなことをするんだ」と理解してもらいます。
質問の内容から作業療法の意味を理解してもらうんですね。患者さんと生活をつなげる橋渡しができる職種であることは、作業療法士の魅力として伝えたいですね。

坂場(OT)

全員が経験した!?説明に関する失敗談

須藤(OT)

先ほどの話とは反対に「この説明は失敗した!」という経験はありますか?
僕は、妄想症状のある患者さんに「作業療法士って、アレか、営業か?」と何度も言われたことがあります。作業療法には5回程参加した患者さんでしたが、何回説明をしても「営業の人」という思い込み を修正できず、症状が進行する前に説明をしておくべきでした。

坂場(OT)

僕も同じような経験があります。医療従事者には「やってもらう」と受動的な思い込みを持った患者さんに、手の作業療法を行った際、手を投げだし、ただ手を触ってもらうだけになってしまいました。

小池(OT)

須藤(OT)

患者さんの作業療法に対する理解が乏しいと、「手さえ治ればやりたいことはできるから、先生が治してください」などと受動的になってしまいがちですよね。
そうですよね。作業療法を含むリハビリでは、患者さんが能動的に取り組むことが大切ですから、こういった思い込みは厄介ですね。

小池(OT)

須藤(OT)

それで、思うように改善しなかったときに「治らなかったのは作業療法士のせいだ!」という考えに固執してしまうこともあって……皆、同じような経験をしてきているんですね(笑)。
それはつらいですね…

坂場(OT)

須藤(OT)

作業療法を受け続ければ、運動麻痺などの機能障害が治ると前向きに考えている患者さんもいます。しかし、機能障害の改善だけに集中して、自分の生活を考えるのが二の次になってしまうと困るので、生活に向き合いながら、以前の状態に近付けていけるように支援したいと思っています。作業療法は、患者さんの日常生活と直結するので、説明は本当に大切です。
日頃から「今後の生活について考えなきゃ!」と感じてもらえるといいですね。

小池(OT)

“患者さんのためになる”作業療法を提供する

須藤(OT)

最後にずばり、作業療法の強みというところに踏み込んでいきます。皆さんはどのように考えていますか?
僕は、患者さんの生活を新たにデザインし、マネジメントすることだと考えています。アメリカの作業療法士協会では“Lifestyle Redesign” という考え方が広がっています。精神科の患者さんは症状が残ったまま退院することがありますが、症状が再燃し、再入院しない方法を患者さんと共に考えるんです。この過程を行えることが、強みだと思います。

坂場(OT)

僕は、他の職種が関わりにくい領域でも活躍できることだと考えています。作業療法はどんな作業でも治療となるため、作業療法士は、たとえば料理、陶芸など、リハビリに用いるあらゆる作業のプチ専門家になります。これは他の職種にはできないことですよね。

小池(OT)

須藤(OT)

僕たちは生活の専門家ですから、生活そのものの改善を図っていきます。病気や状況によっては、完治させることが難しい場合もありますが、作業療法は生活のしづらさを軽減することや、小さな成功体験を感じてもらうことができる。僕は、患者さんの辛い経験を良いものに変化させられることが、作業療法の強みだと考えています。
まとめ
同じ作業療法士なのに、3人3色の考えがあり、おもしろいですね。でも、みんなが“患者さんのため”と、同じ気持ちでいることがわかりました。もう「作業療法って何?」と聞かれても、困ることはないでしょう! ありがとうございました。

参考書籍:Florence A.Clark. (2015).Lifestyle Redesign (R) The Intervention Tested in the USC Well Elderly Studies. American Occupational Therapy 2nd Revised版