Ns×Ph×PTで語った「大人数職場における新人教育」のリアル

医療従事者の新人教育は、受ける側から始まり、経験を積んでからは指導側として、誰もが通る道ですが、他職場や他職種の教育について知る機会は少ないかもしれません。

今回、大規模な職場での新人教育を経験した看護師(Ns)、薬剤師(Ph)、理学療法士(PT)が集まり、「スタッフが多い職場での新人教育」をテーマに、そのメリット・デメリットについて語り合いました。そこで見えてきた課題と対策とは…?

 

大人数職場における新人教育についての記事はこちら↓

職場で教えてくれる人がいない!?少人数職場の新人はどうすべき?

 

参加者

 永澤成人(Ns)
看護師9年目。新卒では
約1,000床の大学病院に入職し、当時の同期は120人。現在は看護大学の教員として勤務。プリセプター制度による指導を受ける。

 Fats(Ph)
薬剤師6年目。薬剤師が約20人在籍する400床のがん診療連携拠点病院に勤務。教育制度は部門制で、新人は5部門を回り、各部門の指導係から指導を受ける。

 喜多一馬(PT)
理学療法士10年目。理学療法士が約40名在籍する300床の回復期病院に勤務。教育制度はチーム制で、新人は2~10年目の先輩たちで構成された約6人のチームの中で指導を受ける。

教育制度のメリットと指導者の役割分担を考える

永澤(Ns)

今回は同職種のスタッフが多い職場での新人教育をテーマに話していきましょう。それぞれ違った教育制度を受けてきたと思いますが、どのようなところにメリットを感じますか?
僕の職場の教育制度は約6人のチーム制で、2~10年目の先輩たちで構成されたチームに新人が入って指導を受けます。一人の新人に複数の先輩が関わるので、指導者側が得意分野に合わせて役割分担できることがメリットと感じます。あと、僕が新人のときは、弱音を吐きたくなったときに心のよりどころとなるような聞き上手な先輩がいて心強かったです。

喜多(PT)

永澤(Ns)

そうですね。他にも、チーム全体をまとめる人、バシッと指導できる人など、さまざまな役割がありそうです。指導者の「役割分担」という話がありましたが、Fatsさんはどのような役割を意識していますか?

僕のところの教育制度は部門制で、新人は5部門を回り、各部門の指導係から指導を受けます。役職持ちのベテランはあえて厳しく指導する傾向にあるので、僕はクッション材のような役割を目指していますね。たとえば、「こんなこと聞いていいのかわからないけど、Fatsさんになら聞けるかも」と思われる存在です。

Fats(Ph)

永澤(Ns)

良いですね!僕も新人が相談しやすいよう、仏のように優しい先輩を目指しています(笑)。

たしかに、永澤さんからは包み込むようなオーラを感じますね(笑)。ただ、僕のやり方に特化してしまうと、自分から相談してこない新人に対しては指導が行いづらいです。優しいだけでは指導者として足りないと感じますね。喜多さんは、自分の役割をどう意識しているんですか?

Fats(Ph)

僕はバシバシ厳しく指導するという役割を担っています。優しいスタッフが多いので、Fatsさんとは逆の立場ですね。もちろん、新人が萎縮しないように「人間性は否定しない」「声かけは明るくする」などの配慮はしています。仏とは思ってもらえていないでしょうね(笑)。

喜多(PT)

永澤(Ns)

なるほど、他の指導者とのバランスを考えて自分の役割を決めているんですね。優しさと厳しさがうまく調節できていると、新人が育ちやすい環境になりそうです。喜多さんは厳しい指導にも配慮を欠かさない…。人間性が表れていますね。

新人に多数の先輩が関われることが大人数職場の強み

永澤さんとFatsさんの職場では、新人教育に「全員が関わる」という雰囲気はありますか?

喜多(PT)

永澤(Ns)

はい。僕は新卒で大学病院に入職し、プリセプター制度による指導を受けましたが、指導係に限らず、常に新人に目を配られていて、声かけも多かったです。また、先輩同士で新人の状況を共有し、指導係が不在でも、未経験の治療や処置があれば担当できるように、業務分担をしていました。フォロー体制が整っていたのはメリットとして感じますね。見守られているのですが、見張られているようで、わずらわしく感じるときも少しありました(笑)。

正直ですね(笑)。僕の職場でも、スタッフ全員で新人に関わろうという雰囲気はあります。ただ、部門制は担当部門の指導係から教育を受けるので、他の部門の人は良くも悪くも手を出しにくいです。

Fats(Ph)

薬剤師は専門分野がいくつかあるから、そういう傾向になるのでしょうか。部門制の指導にはどんなメリットがあると考えていますか?

喜多(PT)

各部門のスペシャリストから専門知識を学ぶことができるので、知識が偏りにくいところでしょうか。これは薬剤師の人数が多いからこそ提供できる体制だと思いますね。

Fats(Ph)

永澤(Ns)

スタッフが多いメリットはたくさんありますよね。新人が、将来の目標となる先輩を見つけることにもつながりそうです。

人数が多いからこそ存在するデメリット

永澤(Ns)

反対に、自分の職場における教育制度でのデメリットは何だと思いますか?

チーム制の指導では「誰かが指導してくれてるだろう」と他人頼りになり、ときに指導漏れが出ることでしょうか。あとは、「あの職種のスタッフにはこのタイミングで話しかけると良い」などといったコミュニケーションスキルも現場では必要ですよね。チーム外の新人だと、個性をつかめていないので、そういったきめ細やかな指導ができないときもあります。

喜多(PT)

なるほど。僕の職場では、転勤がある関係で、部門の指導係が毎年入れ替わってしまうんです。そのため、指導内容が年によってばらつくことがデメリットだと思います。あとは、普段の指導は症例研究をベースに行っているのですが、検討に挙がらない症例を学ぶ機会が少ないため、本来学習させておくべき内容が抜けてしまうことがあります。病院薬剤師が学ぶべき幅広い知識を体系的に指導するにはどうしたらいいか、悩みます。

Fats(Ph)

永澤(Ns)

僕の職場では、全体で新人を見守っていることから、良くも悪くも目が行き届くので、そのことが同期同士や指導者同士の比較につながっていました。他者と比べることで生じる不安や不信感は、人数が多いために生じるデメリットだと感じます。看護師の指導係も年単位で替わることが多いですが、僕のところでは、新人として経験が必須な処置や症例などについてはマニュアルやチェックシートを用いることで、指導内容や到達目標を毎年統一するようにしていますよ。

教育制度を掘り下げてたどり着いたポイントは「経験の共有」

永澤(Ns)

ここまで、それぞれの職場でメリット・デメリットがありましたが、大切なことは、それらを見極め、メリットは伸ばし、デメリットはマイナスにならないようカバーすることですよね。最後に、それぞれの職場での課題と、それを改善する工夫などがあれば教えてください。

指導漏れや不足をなくすことが課題ですね。全体の新人指導統括係が、チームごとに新人をチェックし、こまめに共有しているので、チームごとの指導係からも、具体的な指導方法や経過を指導統括係にフィードバックし、相談することで、チーム内・チーム間の連携をもっと強固なものにしていきたいと考えています。

喜多(PT)

僕の職場では、指導統括係がいない年度もあって、十分な指導体制を整えられなかったときもありました。永澤さんの話を聞いて、チェックシートなどで指導内容を統一させるシステムを作りたいと思ったので、早速取り組みたいです。

Fats(Ph)

永澤(Ns)

僕は、他者と比較してしまうというデメリットはメリットに変えられると思っています。比較するということは、他者をよく見ているということですから。積極的に経験を伝え合い、共有することで、自分自身を振り返り、お互いの成長につながるといいですよね。

まとめ
この座談会をきっかけに、自分の職場の教育制度についての理解も深まったのではないでしょうか。よりよい新人教育の環境づくりにつなげていきましょう。ありがとうございました。