ハートチームに所属する中島康佑さんをお招きしての座談会第3弾。前回は、ハートチームの立ち上げ時の苦労やどのようにして乗り越えたのかについてお聞きしました。今回は、ハートチームをどのようにして維持、発展させていったのかについて聞いていきます。
参加者
・ゲスト
中島康佑さん(ME)
心臓病センター榊原病院の臨床工学技士。ハートチームの立ち上げに関わり、多職種連携をしながら活動を広げてきた。重症心不全チーム元リーダー(終身名誉リーダー)。
・メディッコメンバー
須藤(OT)
心臓リハビリにも関わる作業療法士。勤務先にはハートチームがなく、活動内容に興味津々。
大前(Ns)
ICUで勤務する看護師。普段から心臓血管外科や循環器内科の患者さんと関わるがハートチームがどのような役割を担うかまでは知らない。チームの立ち上げ方から動かし方までのノウハウを知りたいと思い参加。
久原(ME)
臨床工学技士として循環器疾患の治療に携わるなかで、ハートチームの存在を中島さんの講演で知った。もっと深く話を聞きたくて参加。
必要なのは成果の可視化
須藤(OT)
チーム連携を円滑にするために、どのような意識を持って進めていったのでしょうか?
まずは、各職種から浮かび上がる問題点からヒントをもらうようにしていました。例えばICUの看護師は、PCPS(経皮的心肺補助法)がついている重症心不全患者について、治療方針や計画がなかなか定まらないことに憤りを感じていたようなので、チームとして毎朝方針をきっちり決めてもらうようにしました。
中島さん(ME)
久原(ME)
たしかに、朝のうちにチームの方針が決まるのは、すごく助かりますね。
このルールにする以前、PCPSの離脱率は30~40%でしたが、ルールを決めた現在は70%を超えるようになりました。
中島さん(ME)
この結果は、重症心不全チームの導入により、PCPS離脱率だけでなく、離脱後の生存率も上昇しているということですか?
大前(Ns)
そうですね、おのずと生存率も上がりました。毎朝方針を出すことは、メンバーのモチベーションに直結すると思います。成果を報告する際には、メンバーへ感謝の気持ちも忘れずに伝えていますね。チーム作りの秘訣だと考えています。
中島さん(ME)
須藤(OT)
チームの成果を数字として提示することは、はじめから決めていたのですか?
はい。結果を数字として表さないとチームはついてこないと思っていました。あと、1年に1回、病院全体で報告会を行っています。そのことで、ほかの医師たちにも受け入れてもらうことができたと思っています。
中島さん(ME)
須藤(OT)
なるほど。チームの成果をどういう風に表すのか、私も悩むことが多いので勉強になります。
では、慢性心不全チームはどのように成果を表しているのでしょうか?
大前(Ns)
中島さん(ME)
高齢になれば、再入院率は上がる気がしますが、再入院までの期間も考慮して評価されているのですか?
大前(Ns)
中島さん(ME)
須藤(OT)
機器は、遠隔モニタリングをしているペースメーカー、植込み型除細動器(ICD)、両心室ペーシング機能付埋込型除細動器(CRTD)などを対象にしています。遠隔モニタリングで見つかったトラブルに対して来院が必要か、さらに治療が必要かまで介入しています。
中島さん(ME)
医師が見る前の段階で、治療の必要な患者を見つけ出しているんですね。
大前(Ns)
そうです。本当にデバイスチームは頑張っていて、何千件とある症例に対応してくれいます。連休明けはいつも大変だったと思います。
中島さん(ME)
久原(ME)
成果としては再入院率やさまざまな指標を用いて評価します。例えば、デバイスチームが介入した前後では血液検査にどのような差が生じるか、早期入院を促せた場合に入院日数が変化したか、などです。
中島さん(ME)
早期発見による治療成績の向上があるわけですね。すごい。
大前(Ns)
コメディカル主導で行うのでしんどいですけど、やりがいがあると思います。
中島さん(ME)
問題の洗い出し!「思うことを言う会」
久原(ME)
実際に活動をスタートさせてから、システム作りで悩みもあったのではないですか?
そうですね。最初の頃はなんとなく、PCPSに関わる多職種が何を思っているのか、何をしなきゃいけないのかがぼんやりしていました。なので、みんなで目的を明確にするために、『思うことを言う会』を開催したことがあります。
中島さん(ME)
久原(ME)
そうです。50人くらい集まって、2時間かけて話し合いました。
中島さん(ME)
久原(ME)
その会で、医師がオーダーする項目をあらかじめセットしておくことで抜けがなくなるのではないかという話になりました。PCPSだとオーダー項目が多いので、これをきっかけに迷わないシステム作りができたと思います。
中島さん(ME)
須藤(OT)
検査項目の抜けがないことを目指してやっているのが今の現状ですね。医師によるオーダーのバラつきを減らすことができました。
中島さん(ME)
久原(ME)
「これ忘れてた、あれ忘れてた、じゃあもう一回追加オーダー」というのが今はないですね。
中島さん(ME)
それこそ若いスタッフなんて、全然わかりませんからね。システムとして作っていくというのは、大事なことですね。
大前(Ns)
伝達漏れをなくした「付箋」と「考え方マニュアル」
あとは、重症心不全チームで話し合う内容、忘れたらいけないものを必ず電子カルテ上の“付箋”(※患者さんのカルテを開いたときに見れるメモのような機能)に記録してるんですよ。こうするとカンファレンスで漏れがないんですよね。
中島さん(ME)
付箋に書いているコメントには、どのようなものがありますか?
大前(Ns)
中島さん(ME)
- レントゲンのチェック:スワンガンツの位置・挿管チューブの位置は大丈夫かなど
- 凝固状態に関するチェック:Dダイマーや回路内血栓、APTTの推移、人工肺の酸素化は大丈夫かなど
- EFや左室駆出率、VPIなどの推移
- 栄養や感染に関するチェック:ルートが1週間経っているものなのかなど)
- リハビリの内容(どう介入していくか、日中に起こすか起こさないかなど)
これらのことを毎日行っています。ICUでは当たり前のことかもしれませんが、当院はオープンICUですので、なかなか徹底的にはできていませんでした。なのでまずは、付箋の徹底から始めました。
中島さん(ME)
どの職種も、その付箋をみたら患者さんの目標などを共有できて、朝のカンファレンスではそれぞれの意見を持って集まるということですね。
大前(Ns)
そうですね。朝のカンファレンスは15分で簡潔にまとめないといけないので、その付箋に沿って進めるということを徹底しています。言いたいことを言うばかりではきりがないですからね。
中島さん(ME)
須藤(OT)
私が決めました。とりあえず、手探りでまとめてやってみようと思ったら案外うまくいきました。PCPSのように、電子カルテに付箋して注意喚起を促す方法が、ほかの軽症例でも有効だと思いました。インシデントが起こりやすいものに対するトラブルシューティングとして、うまく活用させてもらっています。
中島さん(ME)
須藤(OT)
久原(ME)
いい取り組みですね。ひとつ質問ですが、PCPSを1人で見れる看護師、あまり見ることのないMEというように、人によってレベルの差が出てくると思うのですが、マニュアルなどは作っていますか?
うちでは、重症心不全チームがどのように考えて付箋のカンファレンスを行っているか示した『考え方マニュアル』を作成しました。
中島さん(ME)
久原(ME)
考え方マニュアル? どんなことが書いてあるんですか?
エコーはどのような観点で見ているか、揚程(ようてい:PCPSの血液ポンプが作り出している力)の考え方の概説、呼吸器の設定など、考え方のコツを1冊の本に仕上げています。
中島さん(ME)
なるほど! 観察項目の統一やマニュアル化は大切なことですよね。
大前(Ns)
非常に大切なことだと思います。頭ではわかっていても、忙しいと忘れてしまいますからね。
中島さん(ME)
まとめ
ハートチームの座談会第3弾では、チームの立ち上げだけではなく、そこから軌道に乗せて維持すること、それから発展させていくときのポイントがわかりました。最終回となる第4弾では、ハートチームの活動を通してみえてきた多職種連携のコツについてお聞きします。