現役作業療法士が実践!認知症を有する方のQOLを高めるための方法と思考

その人がどんなことをしたら元気になるのか。それは人それぞれで、その人に聞くことが一番簡単です。では、認知症を有している人はどうでしょうか。その人が何を欲しているか、どんなことを好むのか、理解する術はあるのでしょうか。今回は認知症を有する方に関わる作業療法士として、QOLを高めるための工夫をお伝えします。

家族に尋ねる

患者さんの話すことが二転三転してしまう場合、その人の情報を正確に掴むことが非常に難しいことがあります。あるときは「〇〇が好き」と言い、またあるときは「××が好き」と言うなど、さまざまな回答をどう整理すればよいか悩みますよね。このようなときは、家族から情報を収集することがとても役立ちます。家族であれば、時系列でどのような人であったかを尋ねることができ、その人が話していた断片的な情報の意味や背景を理解することができます。当たり前のようですが、家族に尋ねることで知り得る情報はとても大きなものです。その人の好きだった活動が出来る場所を作ってみましょう。

その人の歴史を理解する

認知症を有する方でも、最近の記憶の保持が難しいだけで、昔の記憶は保たれている場合があります。このようなとき、記憶の順番が前後していることはありますが、その人自身の歴史を尋ねることで、おおよその人生やその人となりを知ることができます。その人の歴史を聞くときは、ふるさとや家族関係からはじめ、学校時代や交友関係、遊び方などを聞いていきます。また、仕事が始まってからの思い出や結婚、育児などの経験を聞き、そのあとに趣味などを聞いていくと、これまでの人生が浮かんでくると思います。その手掛かりをもとに、その人が好む空間づくりや活動の提供につなげていきましょう。

表情から推察する

重度の認知症になると、発話ができず、自分の意志を伝えられない状態になります。このようなときは、大きな声でわかりやすく伝えても、何をどこまで理解できているかは定かではありません。この場合、私たちに残されているのは観察することだけです。まず観察するのは、表情の変化です。さまざまな場所や時間、出来事の中で、わずかではありますが、表情が変化することがあります。それを偶然とかたづけることなく、何が表情を変えたか、どんな状況が良かったのかを検討しましょう。そうしたわずかな快反応を大切にし、なるべく多く快反応を積み重ねることで、重度の認知症を有している方へのQOLを高める支援に繋げていきましょう。

まとめ

今回、作業療法士が実践している認知症を有している方との関わりについて紹介しました。認知症を有していても、その人は残された機能で何かしらの情報を受け取っているはずです。ぜひ、現場でも実践してみてくださいね。

執筆者
須藤誠(作業療法士/学術部)

地方の急性期病院で、地域の人たちを陰ながら支えています。真っ当に研究業績を積みながらも、メディアや地域活動を通して作業療法の魅力を伝えるマルチプレイヤー。