統合失調症の幻覚・妄想とうまく付き合う方法

今回は、『統合失調症』がテーマ。前編では、疾患の実際について聞きました。後編では、治療についての工夫や症状との付き合い方について、経験談を聞いてみました!

前編はこちら!⇒統合失調症ってどんな疾患?実際の現場の話を聞いてみた!

参加者

 ぽりま(Ph)
精神科に馴染みのない薬剤師。最近、統合失調症の講義を受けたため実際の現場話を聞きたい。

 坂場(OT)
精神科で働く作業療法士。入院病棟、認知症病棟を経験し、現在はデイケア勤務。

 おぬ(Ns)
精神科で働く看護師。開放病棟、閉鎖病棟など経験し、現在は精神科救急病棟勤務。

 ふくっち(Ns)
精神科で働く看護師・公認心理師。慢性期病棟から現在は認知症病棟と心理室勤務。

見通しを立てづらい中、それぞれの工夫

ぽりま(Ph)

それでは、後半ではもう少し掘り下げて聞いていきたいと思います! 統合失調症は治療継続がとても大事ですが、再発率も高い疾患ですよね。治療に対する苦労はありますか?
そうですね、治療継続を困難にさせている要因の一つとして、症状やアドヒアランスが安定しないことが挙げられます。そもそも精神科疾患は、怪我や感染症など1日1日の改善を積み重ねる治し方とは異なります。誰しも、感情や気分には波があるものですが、統合失調症の患者さんが調子を崩してしまうと、治療や薬の必要性を重視できなくなってしまうなどということが起こり得るので、そこが難しいところですね。

坂場(OT)

僕は、患者さんの状態を医師に報告する際、どう説明するか悩むことがあります。医師は、報告の内容によって薬などの変更を決めますが、一時感情が波立っていても、傾聴していると落ち着く場合もあるので…。少し様子を見たいタイミングだと、対応に迷います。

福地(Ns)

ぽりま(Ph)

なるほど。見通しを立てるのが難しいということですね。
はい。また、症状がとても安定していて、退院の目処がある程度ついている患者さんでも、退院支援が思うように進まず、それによって患者さんが落ち着かなくなるケースもあります。症状の波がある程度予測できていれば、なるべく症状が良くなりつつある時期を目処に退院できるように工夫していますが、必ずしもうまくいく訳ではないので、難しいですね…。

福地(Ns)

そういうことありますよね。これは医療者目線の話になりますが、僕は忙しくて患者さんの話をなかなか聞けないことが少しもどかしいですね。どの領域にも共通しますが、特に精神科疾患のケアは数値化できない部分が多くて、患者さんの言動や表情などから判断するしかないんですよね。

おぬ(Ns)

ぽりま(Ph)

うんうん
患者さんの気持ちを知る上で、対話が大切だとは思うのですが、業務が重なると時間が取りにくいのが現状です。なるべく時間のあるときや夜勤で落ち着いている時間帯は、患者さんとの対話に当てて、現在はどんな気持ちか、今後についてどう考えているかなどを聞いてみています。

おぬ(Ns)

OTの話でいうと、精神科では集団で作業療法を行ったときにしか診療報酬を取れないのが悩みです。患者さんの中には、大人数での交流が苦手な人や個人練習が必要な人など、1対1の作業療法が必要な場面があります。個別の作業療法と集団の作業療法を組み合わせた方が費用対効果が高いという論文1)も出ていますが、現状では精神科での個別作業療法は認められていないので、やるとしたらサービスになってしまいます。複数のOTで役割を分けて、有限の時間を効率的に使えるようチームで工夫しています。

坂場(OT)

ぽりま(Ph)

医療者目線では、時間的な制約も大きそうですね。それぞれ、できる範囲で工夫されていて素晴らしいです!

失敗することもあるけど、それも経験

ぽりま(Ph)

最後に、統合失調症の患者さんと関わる上で気を付けていることを教えてください。
担当し始めた頃は、患者さんに「幻聴が聞こえる」と言われたら、「どうやったら聞こえなくなるんだろう」と考えていました。しかし精神科で働いていると、幻聴が生活に支障をきたしていない患者さんも多くいらっしゃいます。幻覚は消さないといけないものではなく、うまく対処する症状なのだと知りました。

坂場(OT)

僕は傾聴が大切だと考えて、たくさん話を聞いている時期があったのですが、話を聞いているうちに患者さんの妄想がどんどん広がってしまい、不穏になってしまったことがありました。ただ話を聞くだけでなく、時間で区切るなどの線引きが必要だなと学びましたね。

おぬ(Ns)

ぽりま(Ph)

なかなか壮絶な体験…。
逆に、傾聴を続けたことで、「あの時は話を聞いてもらってすごくうれしかったです。あの日から頑張って治していこうと思いました」なんてことを言ってもらったこともあります。患者さんのポジティブな話を聞くと、僕も頑張ろうという気持ちになりますね。患者さんとの関わりは日々の状態を考えながらが大切で、それが難しいけどやりがいがあると感じています。

おぬ(Ns)

僕も、患者さんの妄想の話を聞いている時、うまく会話を切ることができず、話すうちに妄想が加速してしまい、精神症状が悪化してしまったのではないかと心配になったことがありました。それ以降、対応次第で症状への影響が大きく変わることを再認識しました。

坂場(OT)

ぽりま(Ph)

なるほど。失敗を乗り越えたからこそ、今うまく対処できているのですね!
僕は、服薬拒否され、薬の必要性を聞き入れてもらえなかった患者さんに、薬とは関係ないけどその患者さんが興味を持つ話を根気よく続けていくうちに、精神状態が安定して服薬してもらえるようになったことがあります。さまざまな業務がある中で、ゆっくり会話をする時間は限られますが、スタッフ間で協力してお互いにフォローすることで、多少の時間は作ることができます。患者さんの興奮や不穏に対応する方がかえって業務が増えてしまうこともあるので、患者さんと対話する時間を作るために、スタッフ間の連携も大事だと思いますね。

福地(Ns)

まとめ
今回は、2回に分けて統合失調症の現場のリアルを聞きました。精神科メンバーの心の暖かさが伝わってきましたね。精神科疾患は、実際に関わらない人にはイメージしづらいと思いますが、この座談会で少しでも理解を深めていただけたらうれしいです。

前編をまだ読んでいない方はこちら!統合失調症ってどんな疾患?実際の現場の話を聞いてみた!