少しでも多くの選択肢を作るために考えたいこと1選

医療者として働いているときに考えることに「偏りのない考え方をしたい」というものがあります。ひとつの治療やケアを実施するときであっても、出来るだけ複数の選択肢のなかから選びたい。それが良い治療やケアに繋がるのじゃないか。なんて考えるものですもんね。

そこで、メディッコのなかでも飛びぬけて落ち着きのない性格である喜多(PT)が考える、「少しでも多くの選択肢を作るために考えたいこと1選」を紹介します。1選というのは思いついたものを1つ紹介するだけなので、考えていくと55選くらいあるかもしれません。どうぞ~!

いろいろな立場の人と同じ目線で関わる

私の考える1選は、「いろいろな立場の人と同じ目線で関わる」ことです。

その理由は、特定の立場のみから見える景色というのはどうしても偏ってしまうためです。メディッコのコラムや座談会を読んでいただけると分かると思うのですが、ひとつの出来事だけでも職種によって見方が違います。

例)痛みを訴えている

・トレーニングのやりすぎ

・薬を飲み忘れた

・実は痛いのをずっと我慢していた

・見逃していた所見があった

・全身状態に変化が生じている

上記は適当に挙げたものですが、職種によって考えやすい傾向のものとそうでない傾向のものがありますよね。もちろん、この例も僕が適当に幅広く考えたつもりで書きましたが、職種が違えばそれだけ違うものが出てくるでしょう。

そして、職種と一口に言ってもそれぞれのスタッフによって勉強してきた過程や専門性や得意不得意が異なります。ある人は整形外科領域に強く、別の人は脳外科領域に強い。となると同じ職種の人も思考のパターンが違うのは当然ですよね。

というわけで、当たり前のことですが、いろいろな立場の人と関わることが大切なのです。

ここで注意したいのは、「同じ目線で関わる」というところです。

このコラムを読むみなさんも一度は「別に自分は話さなくてもいいやん問題」に直面したことがあるのではないでしょうか?これは、「偉い人が話しているから別に自分は意見を述べなくていいや」や「いつも喋っている人に任せておけば話は丸く収まるから任せちゃえ」といった問題です。先輩と後輩(あるいは上司と部下)といった関係性はもちろん、そのような関係でもない年齢差、性差…そして病院内ではあるあるの職種間ヒエラルキー…どれもこの問題に繋がっていそうです。

ここまで読んだ人はすでにお分かりでしょうが、そうやって話す機会がなくなってしまうということは、それだけ意見や考え方が出なくなってしまうことに繋がります。「若いスタッフは自分が読んでいなかった本や論文を読んでいる可能性があるから話を聞いてみよう!」というのはもちろんのこと、「実はここを見ていたのですがどうでしょう?」といったその人にしかない着眼点から物事を捉えてくれることだってあります。偉さや立場やパワーバランスが違ったとしても、同じ一つの意見や考えです。同じ目線で関わってみましょう。

いろいろな立場の人と同じ目線で関わる、はトレーニングがいる

このように書いてみると、なんだかすごく簡単そうなことに感じるのではないでしょうか。

いえいえ、実はこれ、めちゃめちゃにトレーニングがいることだと思っています。だって、僕たちは医療者になるなかで「勉強をして知識を積みなさい」とか「経験ある人の意見は黙って聞きなさい」とか「偉い人の言ってることだから合ってるよ」みたいなことを無意識に刷り込まれているものです。もちろん、こんな極端な発言は少ないですが、多かれ少なかれそのような考えを聞いたことがあるのではないでしょうか?

そういう自分から脱していくためには「ちょっとこれは疑って関係性を捉えてみよう」とか「この人の話はひとつとして捉えよう」とか「いつも意見を聞かないあの人からも話を聞いてみよう」といった取り組みをちょっとずつちょっとずつ行っていく必要があります。めちゃめちゃ地味な取り組みでつい忘れがちですし、こういった環境が整っていない場合には、そこに自覚を持つことすらもけっこう難しいものです。

いろいろな人と出会ってみよう

では、そのように脱していくためにはどうするのか。

これは僕の経験上の話ですが、いろいろな人と出会ってたくさん話を聞いてみることが大事だと思いますす。特におすすめなのが、普段自分とは全然関わりのない領域で働いたり活動をしている人です。「マジで異世界だ!」と思うほどに自分にはない発想を聞くと、自分の凝り固まり具合にびっくりします。

以前に仕事の関係で複数のアーティストさん(イラストを描いたり現代美術を描いたりする、あのアーティストさんです)たちと数時間話す機会があったのですが、びっくりすることがたくさんありました。例えば、アーティストさんが何故絵を描いているのか。このテーマをひとつ聴くだけでも、自分の発想にはない意味づけがアーティストさんそれぞれに立ち上がっていて、「僕はそもそも考えたこともないなぁ」と自分の思考の狭さに気付かされるのでした。もちろん、「この色はどういう意味」とか「この色はどう作っている」とか、そのようなひとつひとつについてもです。

なんだか意味の分からない話になってきましたが、僕たちが日頃行う治療やケアはそのように一見すると全く関係ないところと地続きになっているような気がします。医療や病院だけの世界についついどっぷりと足を入れてしまうものですが、たまにはあえて全然違うところに首を突っ込んでみてください。

執筆者
喜多一馬(理学療法士/代表)

言わずと知れたメディッコ代表。

Twitter:@rehamame