新薬の承認ひとつをとっても多職種の捉え方は違ってきます。今回は、3剤配合剤承認のニュースを皮切りに、メディッコで巻き起こった会話をご紹介します。
参加者
かなこ(Ns)
看護師。数年前まで病棟勤務のオペナース。
坂場(OT)
精神科作業療法士。薬剤の略語にうとい。
ぽりま(Ph)
薬局薬剤師歴ありの医療メディア編集者。最近臨床にも復帰した。
S.O(Ph)
病院薬剤師。中小のケアミックス病院の療養病棟担当。
Fats(Ph)
病院薬剤師。ビグアナイド剤が持参薬にあると、【造影剤注意】のハンコを押すようしつけられている。
新薬承認のニュース! 職種による捉え方の違い
かなこ(Ns)
あのね、海外で3剤配合剤の新薬が承認されたんだって! DPP-4阻害薬とSGLT2阻害薬とメトホルミン。すごいなーって思って、誰かに言いたくなったの!!
DPP? SGLT?? 日本語でお願いします・・・!
坂場(OT)
かなこ(Ns)
3つの成分が1錠に配合された薬が発売されるってことですか? ということは、単純に患者さんが飲む薬の数が減るのですか?
坂場(OT)
かなこ(Ns)
そのとおり! 2つの薬の合剤はよくあるけど、3つの薬が合わさるってすごい!
なるほど。3種類が1錠で済むようになるというのは画期的ですね! この際いろいろと聞いてみたいのですが、合剤にするメリットって何がありますか?
思い付くこととしては
①医療者の負担軽減
②薬価削減
③患者さんの負担減少
④飲み忘れが少なくなる
辺りが浮かびました。ぜひ、教えてください!
坂場(OT)
かなこ(Ns)
個人的には、薬の数が多いほど管理が大変になるので、数が減ることはいいことだと思います。でもここは、薬剤師さんに聞きたい!
ぽりま(Ph)
ええー、この薬知らなかったです!でも、DPP-4阻害薬とSGLT2阻害薬はもともと1日1回服用の薬で、メトホルミンは1日2~3回の薬です。なのに、1日1回の服用で大丈夫なのはなんでだろう?
坂場(OT)
ぽりま(Ph)
・・・調べてみたら、メトホルミンは徐放化されてるみたいですね! しかも、メトホルミンが1,000mgで固定されている以外は、細かい用量調節もできるみたいです!
かなこ(Ns)
それ聞いたら、ますますすごい薬な気がしてきた・・・! たしかに、メトホルミンは1日2~3回でしたよね!! 上限量っていくつでしたっけ?
ぽりま(Ph)
2,250mgが上限ですね。でも、1日750~1000mgの患者さんが多い気がします。
かなこ(Ns)
すげー!薬剤師ってそういう知識がすぐ出てくるんですね! 知らない世界でした!!
坂場(OT)
多職種の視点から見る合剤のメリット
ぽりま(Ph)
・医療者の負担軽減:△
一包化をする場合は、錠数が減るので負担軽減になる可能性もありますが、全体で考えると言うほど変わらない気がします。また、多規格あっても複数採用する病院は少ないので、どちらかというと細かい用量調節はしづらくなるケースが多いです。
・医療費削減:〇
薬自体の値段は場合によりけりですが、後発品が出ていない場合は安くなることが多いです。さらに錠数が減ることで調剤料などの点数も減るので、医療費削減につながると思います!
・患者さんの負担軽減:〇
経済的負担も軽くなりますし、単純に1錠で済むので、飲み忘れも減ると思います! ただ、まとまることでそれぞれの薬識が得られにくくなったり、休薬が困難になるという懸念もあります。
補足すると、日本の場合、合剤は一番高い成分の薬価に合わせることがほとんどなので、この薬剤がもし発売されれば、SGLT2阻害薬の薬価に近い金額で3成分飲めることになると考えられます。ただ、メトホルミンの徐放製剤は海外にしかない薬剤なので、日本上陸はまだ先かもしれません。
S.O(Ph)
かなこ(Ns)
看護師的には、内服の量が多い高齢者にとってはいい選択肢になるんじゃないかなぁと思います。皆だいたいきちんと飲めていないし、残薬バラバラな患者さんも多いですしね。自宅での管理になったときに、家族がチェックする負担も減る気がします。
看護師の意見も大事ですよね! 説明を聞いて納得できましたー!
坂場(OT)
メリットだけじゃない! 合剤での注意点
Fats(Ph)
合剤にすることは、基本的にはよいと思います。ただ、今回の薬はメトホルミンが混ざっているので、メリットばかりとも言えないかもしれません。ヨード系造影剤を使う前の休薬忘れが心配ですね。
これに関して、48時間縛りなのは日本特有かもしれません。米国の添付文書には「eGFRが30〜60mL/min/1.73 m2の患者では、ヨード造影剤を用いた造影検査の実施時または実施前に本剤の投与を中止すること」と書かれており、腎機能によって対応が分かれます。海外と日本で対応が異なる例は他にもあって、例えば、日本ではクエチアピン・オランザピンは糖尿病に禁忌ですが、米国は禁忌ではない、などです。
S.O(Ph)
かなこ(Ns)
ヨード造影剤とメトホルミンについては日本と海外でそんな違いがあるのですね。めっちゃ勉強になります! 私は糖尿病内科の勤務経験があって、いろいろと調べていたのですが、メトホルミン服用中の患者さんはシックデイのときも、脱水などに気を付けなきゃいけないんですよね。
ぽりま(Ph)
薬剤師としては、総合的に考えると「すごい!」と単純には思えないのが正直なところですよね。ついつい色んなことを考えちゃう。かなこさんみたいに純粋に感動できる姿はまぶしいです(笑)!
糖尿病薬について、さらに深掘り!
知識欲旺盛なかなこさんにもう1つ話題を。SGLT2阻害薬について、尿路感染リスクがあるとよく言われますが、否定的なデータ1)も出てるのでちょっと注意が必要です。
S.O(Ph)
かなこ(Ns)
ええ! SGLT2阻害薬を内服している患者さんには、尿路感染に気を付けてねって指導してました…。この論文って、SGLT2阻害薬飲んでても、結局尿路感染リスクは変わらないよ、ということなんですか?
言い切るのは難しいところなのですが、販売開始当初に言われたほどではないのかなといった印象です。感染症リスクの高い人に注意するのは、あながち間違いではないかな、と思います。感染のエビデンスに関しては悩ましく、観察研究以外のSGLT2阻害薬でのRCTでは、性器感染が増えたケース2)や尿路感染が増えていないケース3)があります。
S.O(Ph)
かなこ(Ns)
S.Oさんかっこよすぎる…! 論文を確認したことで、ぐっと信憑性が増しました!! また何かあったら教えてくださーい!
まとめ
皆さんも普段からニュースをよくチェックしていると思いますが、同職種との共有だけで終わっていませんか? 今回は、新薬承認のニュースを、多職種の目線で捉えていきました。ニュースから他職種の視点が知れるのもおもしろいですよね。あなたも、気になるニュースを話題に他職種に話しかけてみてはいかがでしょうか?
参考
2)Zinman B, et al. N Engl J Med. 2015;373:2117-2128. [Epub 2015 Sep 17]
3)Neal B, et al. N Engl J Med. 2017;377:644-657.