訪問STと在宅薬剤師がALS患者さんへの「寄り添い」を本気で考える

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、数年かけて徐々に運動神経が障害を受け、四肢・喉や舌・呼吸筋の力が弱くなっていく指定難病です。今回、在宅現場で初めてALS患者さんを担当することになった薬剤師が、これまでに何人かの患者さんを経験している訪問STに相談を持ちかけ、関わり方や寄り添い方について一緒に考えてみました!

参加者

ぽりまー(Ph)
薬剤師。週一回在宅専門薬局で働いており、ALS患者さんとの初めての関わりに少し戸惑いを感じている。

みややん(ST)
訪問言語聴覚士。非常勤から含めると8年目(!)現在は小児~高齢者まで関わっている。訪問先の犬とすぐ仲良くなれる。

いったい自分には何ができるのか

ぽりま(Ph)

訪問STをやっているみややんさんに聞きたいのですが、ALSに関する知見やご経験はお持ちですか…?

はーい! 知識は教科書的なものですが、何人か関わった経験があります。

みややん(ST)

ぽりま(Ph)

なんと!頼れる…! ちょっと相談に乗ってもらってもいいですか? 在宅の現場で、去年発症のALS患者さんと出会ったのですが、信頼関係を築けた次の段階で、ここから薬剤師には何ができるのかわからなくなってしまって…。

私も教科書的な知識ですが、ALSの予後について、おそらく関わっている医療者は共通の認識を持っているんですよね。なので本人の要望はなるべく聞き入れて、心身ともにサポートしているのが伝わってきて、自分のできることの少なさがなんだかもどかしくて。

情景がとても目に浮かびますね。今日も同僚とALSの患者さんとの関わり方について話していたので、タイムリーです! まずですね、医療者として難病の方にできることは限られているので、「自分は何もできない」ということを受け入れるのが大切だと感じます。薬剤師に限らず、誰もマジで何もできません! その上で、何ができるかを考えましょう。

みややん(ST)

ぽりま(Ph)

なるほど、めちゃくちゃ参考になる…。「自分は何もできないを受け入れる」、心に刻みました!

先日、嚥下機能について聞き取ったら、「ものが飲み込みにくくなって、前ほど食べたいという気持ちにならなくなってしまった」と言われたので、とろみ剤の紹介をちょこっとしてみたんです。それでみややんさんの存在を思い出しました(笑)。みややんさんは、ALS患者さんの食事に対してどんな関わりをしていますか?

これは医師とのやり取りが必須ですが、補助栄養剤を早めに処方してもらって、日々の食事に取り入れるのはどうでしょう? この辺りがまだであれば、ぽりまーさんの提案がめちゃくちゃ役に立つと思います。食事面に関しては、とろみ剤のメーカーに頼めば試供品がもらえますよ。

進行していく病気について大事なことは、「いつかやってくること」を早めに試しておくことです! 今は必要なくても「こんな感じか」と体験しておくのは良いと思いますし、こちらとしても、新しいものをすぐに受け入れられるのか、そうではないかなどは知っておきたいところです。

みややん(ST)

ぽりま(Ph)

たしかに、今後のことを考えると、補助栄養剤やとろみ剤導入のサポートは必須ですね! ありがとうございます。

MEMO
とろみ剤は薬局やドラッグストアでも取り扱いがあり、種類もさまざま。家族、看護師、ST、薬剤師がそれぞれ持って来たとろみ剤が家にあるけど、どれも使っていない、なんてこともある…(在宅あるある?)

食事に対する多職種の関わり

ちなみに、在宅には何の職種が介入しているかご存知ですか? とろみも「つければいい」ってものではないので、看護師・STが介入しているかの確認が必要です。薬剤師から医師に問い合わせる前に、関わっている多職種にとろみ剤や補助栄養剤の検討・導入状況、そして本人希望などの聞き取りを忘れずに!

みややん(ST)

ぽりま(Ph)

たしかに、多職種や本人への確認はめっちゃ大事ですね! 重要な視点をありがとうございます。訪看とヘルパーさんが入っていることは聞いていますが、リハビリについてはわからないので、今度聞いてみます。栄養補助も、入れるなら今どのくらい食べているのかも確認しなきゃですもんね。

そうそう。私の場合、多職種との連携に関しては、在宅管理栄養士の導入を試みました。管理栄養士とSTで協力して、ヘルパーさんへ調理指導を行ったことがあります。

みややん(ST)

ぽりま(Ph)

在宅現場にも管理栄養士がいるんですね! まだ出会ったことがないので、今後の参考にします。

在宅管理栄養士は、患者さん本人だけでなく、家族やヘルパーなどにも指導をするのです。ただ、在宅の管理栄養士はST以上に少ないです。STでも食事形態のアドバイスは十分にできるので、先ほどお伝えしたように関わっている職種の確認をお願いします。

みややん(ST)

ぽりま(Ph)

ちなみに、私の担当患者さんはもともと辛いものが好きで、そういう方に補助栄養剤を紹介する時、意識していることはありますか? 甘いフレーバーが多いので、実は私自身もちょっと苦手な印象があり…。

うーん、たとえ甘いものが好きな患者さんでも、補助栄養剤はかなり独特な甘味なので、牛乳で割るなどの工夫が必要なことが多いです。また、間食で飲むとその後の食事が入らなくなるので、オススメは食事と一緒に摂ることですね!

カロリーを確保するために、ほかの食べ物にMCTオイルやカロリーが付加できるパウダーなどをプラスして食べている人もいます。辛いものが好きでも、医療従事者の目線からだと、辛いもの自体がむせを誘発する可能性が高いのでオススメできません(汗)。

みややん(ST)

食事、体調、家族…でも1番大事なことは?

ALS患者さんについて、私の担当した一例では、食事や体重、体調のことなど、とにかく本人が話せることから関わって、そこで聞き取った本人の気持ちを逐一スタッフと共有していました。

それからご家族にも、「家族としてしてあげたいこと」を聞くこともありましたね。ゆくゆく、家族との時間を大切にする時期に差し掛かってきたら、「家族が心残りない見送り方」も一緒に考えていく予定です。なので、1番大切なことは「向き合うこと」ですかね…!

みややん(ST)

ぽりま(Ph)

そういえば私、ご家族の話をまだ聞いたことがないのですよね。今度聞いてみようかなぁ。

自分で言っておきながらですが、ご家族と今後についての話はかなりデリケートな話題なので、まずはご家族とかお友達の話題から攻めるのもアリですね!

悲観的にならず、こちらのメンタルを保つのも大事です! 医療従事者側が患者さんに共感してつらい気持ちを持つと、自分からも滲み出てしまったりします。「寄り添うこと」と「医療者がつらくなる」のは違うので、くれぐれも混同しないように…。難しいですけどね。

みややん(ST)

ぽりま(Ph)

そうですね! たぶん、私はALSの患者さんを目の当たりにするのが初めてで、いい意味で「わかってない感」があるのかな、と思ったりもします。信頼関係が築けたからと入り込み過ぎず、引き続き今のノリで行こうと思います〜!

その調子~!

まず、ぽりまーさんの仲間にするなら訪看さんがいいのではないでしょうか。会ったことがあるなら話をわかってくれるはず。栄養補助剤は、今の食事が仮に十分食べられているとしても導入して良いと思います! 実は、食べられなくなってからではなく、食べられているうちから導入しておくのがミソなんですよ。

神経難病の方と会うの、初めはドキドキですよね。私も最初はそわそわしていていたし、どうしたら良いのやら…と勝手に落ち込んだこともありました。つい先日も、「できることないなー」って思いながら帰って来ました。でも、それでもいいのではないでしょうか。患者さんは、自分の気持ちをわかってくれる人が来てくれるだけで安らぐはずなので!

みややん(ST)

ぽりま(Ph)

なるほど。ありがとうございます! 自分の関わり方に、ちょっとだけ自信が持てました。みややんさんのおかげで、また次行った時は何を話してみようかなとか、やってみようかなと思えることが増えました!本当に感謝ですっ…!!

いえいえです。ついつい「難病だから」と気にしてしまいがちですが、その方の「 人となり」の部分に寄り添うのです。またいつでもお待ちしてます!

みややん(ST)

まとめ

今回は、在宅現場での多職種の関わりを通して、ALS患者さんとの寄り添いについて考えてみました。難病の患者さんに限らず、患者さんと「寄り添う」とはどういうことか、とても考えさせられる機会になりました。相談してみて毎回思うのは、「わからないことは知ってる人(職種)に聞くのが一番」ということ。自分1人では解決できそうにない時は、ぜひ周りの多職種に頼ってみてくださいね!