作業療法士はその名が示す通り、「作業」を取り扱っていますが、「作業ってわかりづらい!」「作業って何?」と言われることがしばしばあります。色々とすっ飛ばして簡単に説明すると、「作業」は、対象となる人々にとって目的や価値を持つ生活行為を指すもの1)です。
日本作業療法士協会が定めている作業療法の定義からの抜粋ですが、これは2018年に改訂されており、作業療法を真剣に考えてくださっている方々が幾度もの話し合いの末に決まったものなんです。
ですが、他職種の方からすると「作業をどのように使っているの?」という疑問が出てくると思うので、今回は「コーヒーを飲む」を例に挙げて考えていきたいと思います。
人それぞれの「コーヒーを飲む」
「コーヒーを飲む」と言われたら、どんな場面を想像しますか?
まず場所はどこでしょう?自宅?カフェ?職場?駅のプラットフォーム?タイミングによって、飲む場所ってさまざまですよね。
では、どんなコーヒーを飲んでいますか?自分で豆を挽いて飲む?コーヒーメーカーで淹れたもの?カフェで注文したもの?コンビニで買ったもの?自販機で購入した缶コーヒー?
そろそろめんどくさくなってきたでしょうか?笑
言われてみれば当たりですが、「コーヒーを飲む」という行為だけでも多種多様です。他にも、どんなコップを使う?豆はどこで購入したもの?どこのコンビニで買う?椅子に座って飲む?誰かと一緒に飲む?どんな時に飲む?などなど、細かい枝分かれをして、自分にとっての「コーヒーを飲む」が出来上がります。
対象者さんの「コーヒーを飲みたい」という希望が思い描いている光景は、もしかしたらセラピストとは違うかもしれません。
坂場(OT)
気分によって「コーヒーを飲む」を使い分ける
上述したように、私の普段の「コーヒーを飲む」は朝コーヒーメーカーで淹れることですが、休みの日には手で豆を挽き、香りを楽しむこともあります。ハンドドリップをすることもあれば、フレンチプレスを使って飲むこともあります。
一方、コーヒーメーカーの掃除が面倒だと思う時はお湯を沸かしてスティックタイプのコーヒーを飲むこともありますし、疲れた時や自分へのご褒美に、某カフェで甘くてカロリーが高そうなコーヒーを飲むこともあります。
また、カフェインを取り過ぎないようにと気を付けて、夕方以降は飲まないようにしたり、今日は気分じゃないなと飲まない日があったりもします。
このように、日々の気分によって、さまざまな形で「コーヒーを飲む」という日常を無意識に使い分けているのです。そのため、「コーヒーを飲む」を対象者さんがどのように使い分けているかということも理解した上で介入を行います。
「コーヒーを飲む」時に必要な技能
それでは、「コーヒーを飲む」ためにどんな技能を使っているかを見ていきましょう。
先ほどの私の例を挙げて……
まず、朝リビングでコーヒーメーカーを使って挽きたてのコーヒーを淹れるためには、コーヒーメーカーをセットできないといけません。
豆を入れて水をセットし、フィルターを付けます。ボタンを押してどれくらいの量のコーヒーを淹れるのかを決定し、スタートを押せばコーヒーが入ります。
コーヒーができたら、カップや水筒に流し込み水筒は蓋をしてカバンに入れます。コーヒーが入ったカップを持ちながら移動をしてダイニングテーブルに置きます。
コップの中身をこぼさないようにしながら、キッチンからいつものリビングテーブルに向かうこともいつもの席に座ってニュースを見たり、スマホを眺めながら火傷しないようにゆっくり口に流し込みます。
文字にすると読むのが嫌になるくらい長いですが、普段自分がやっている何気ないこの流れの中には、さまざまな技能が詰め込まれていますね。
コーヒーメーカーの使い方を理解していないといけないですし、物体を持つ力も必要です。加えて、注意機能や空間認識力も必要になります。
「コーヒーを飲む」ということ一つとっても、すごいことをこなしているように思いますよね。笑
毎日行っている何気ないことでも、作業療法士はこのように分解して考えていくことを大事にしながら臨床を行っています。
これを読んで少しでも作業を理解していただけたなら、「色々考えて介入しているんだな」と温かい目で見守ってくださいね!
参考資料