突然ですが、皆さんは治験というとどんなイメージがあるでしょうか。
- よく分からない?
- むずかしそう?
実際に治験の患者さんの診療に遭遇したことがある人でしたら…
- いつもの手順と違うことをやらされる!
- めちゃくちゃ時間に厳しく管理される!採血多すぎ!
- 頓服薬ひとつ使うのもダメとか大変すぎる!
こんな感じでしょうか。
一般診療の立場から治験を見ていると、正直めんどくさい存在かもしれません。
でも、なぜ、こんなめんどくさい手順をしなくてはならないのでしょうか。
今回は一般診療と少し違った治験の世界の「常識」を紹介します。
治験をやるのはだれ?
みなさんが見かけたことがあるどんな治験でも「治験責任医師」という存在が必ずいます。
治験は一般診療と違うことをやるわけで、保険で認められていないような処置や投薬もたくさんありますから、責任者が必要です。それが、この治験責任医師です。
治験責任医師は製薬企業や偉い有名な先生が考えた「治験実施計画書」に従って治験を行います。いつどんな薬をどれくらい使って、何回採血してどの項目を調べて…ということは全てこ治験実施計画書によって決められています。
では、「治験責任医師」は全てを一人で行うことは出来るでしょうか。
深夜の急変、たくさんの採血、通常業務をこなしながらですし、普通は一人でやることは難しいでしょう。ですから手伝ってくれる先生が必要です。治験責任医師が他の医師に「手伝って!」と頼んで、任命する医師のことを「治験分担医師」といいます。この治験分担医師に任命されて、初めて治験責任医師と同じように治験参加患者さんの治験診療を行うことできるようになります。
CRCとは?
CRCとは治験コーディネーターといわれる人たちで、薬剤師や看護師、臨床検査技師が担うのが一般的です。
この人達は治験責任医師・治験分担医師のサポートを行うことが主な仕事となります。治験実施計画書の内容を深く理解し、医師への処方依頼、採血・処置などのタイミングの指示、各種案内、予診や必要なアンケートを行うことが主な業務です。
こういった医師以外で治験実施に関わる業務をする人たちも「治験協力者」として全て事前に登録が必要です。これに加え、きちんと治験内容を理解しているかを担保するためのトレーニング記録や、本来治験責任医師がやるべき業務の一部を委託する記録「Delegation Log(権限移譲)」などにそれぞれ署名・登録を行わないと治験関連業務を行うことは許されません。ガッチガチですね。
なぜこんなに厳しい?
こういったルールはすべてGCP(Good Clinical Practice)という法律に規定されているため必要になります。
「どんな人が」「いつ任命されて」「きちんとしたルールに基づいて」「正しく治験を実施した」ことが「客観的かつ正確に」分かることが重要なのです。
普段からバリバリ働いてる側からすると「そんなことくらい、ちゃんとやってるに決まってるじゃん」「なんでそっちのルールを押し付けられないといけないの」と不愉快な気分になることもあるかもしれません。
頼むCRCの側も当然医療者の一人として、そのようなことは重々承知しているのですが、法的にきちんと治験の結果が正しい手順で導かれたことを証明するためには必要な手順なのです。
治験=多職種連携
CRC同士のやり取りでも、薬剤師・看護師・臨床検査技師の目線は異なっていて非常に面白いものです。
薬剤師は治験薬の機序、投与法、管理法がやっぱり気になりますし、看護師さんは患者さんが治験を実施するのに無理のないスケジュールか、負担にならずに治験に参加にできるか、という配慮の目線はさすがです。検査技師さんが持つ「検査の正確性や正しさ」に対する目線は、普段の検査結果をなんの疑いもなく受け止める我々にとって「ハッ」とさせられることが多くあります。
CRC同士のみならず、院内の各部門と様々な折衝・交渉・情報提供を常日頃から行うため、多職種連携のひとつの完成形モデルとも考えられるかもしれません。
深くて堅苦しいルールもありますが、反面一般診療にはない刺激に溢れている治験の世界、興味を持ってもらえると幸いです。
がん基幹病院の病棟・薬剤部などの一般業務を経て治験主任として勤務中。事務局業務・契約業務を中心にCRCの業務調整などを行っている。
Twitter:@damepharma