血液透析を受けている患者さんは、全国に約33万人(2017年時)おり、その数は年々増加しています。血液透析は、一般的にバスキュラーアクセス(狭義:シャント)を作成するために入院・手術をし、導入後は外来で透析を受けます。
今回は「透析導入から外来透析までの多職種の関わり」をテーマに、透析患者と関わった経験のある看護師、薬剤師、臨床工学技士が集まって話し合いました。
参加者
さぼ(ME)
臨床工学技士5年目。専門分野は慢性血液浄化。現在透析クリニックで働いている。看護師資格も持つ。
かなこ(Ns)
病院看護師9年目。現在は手術室担当だが、内科病棟で働いていたとき、透析患者を受け持った経験がある。
Fats(Ph)
病院薬剤師6年目。専門分野はがん領域。泌尿器病棟にいたとき、透析患者を数名対応したことがある。
看護師×透析患者さん
さぼ(ME)
今回は「透析導入から外来透析までの多職種の関わり」をテーマに話し合いたいと思います。まず、看護師のかなこさんの経験を聞かせてもらえますか?
私は以前、内科の混合病棟に勤務していたので、さまざまな患者さんと関わるなかで、透析導入の患者さんを担当する機会もありました。
かなこ(Ns)
さぼ(ME)
なるほど。総合病院ならではですね。僕は外来透析の経験しかないのですが、透析導入は実際にどのようなことをするのでしょうか?
透析導入を目的に入院してくる患者さんには、血液透析に必要なシャントの作成や、腹膜透析に必要なカテーテルを留置する手術を行います。ほかにも、もともと透析している方で、腹膜透析のカテーテル関連感染症や、水分などのコントロール不良で緊急入院になった患者さんもいらっしゃいました。
かなこ(Ns)
さぼ(ME)
透析導入だけでなく、感染症や溢水(水分が体に余分に貯まること)の患者さんにも対応するのですね。
すみません。僕、腹膜透析についてはあまり知らなくて…。腹膜透析にはカテーテルを使うのですか?
Fats(Ph)
そうですね。腹膜透析をするとき、腹腔内に透析液を出し入れするために、腹腔内にカテーテルを挿入するのです!
かなこ(Ns)
さぼ(ME)
透析導入から退院までは、どれくらいの日数がかかるんですか?
透析導入は予定入院で、手術してから実際にシャントが使えるまで7~10日ほどかかるので、だいたい2週間程度の病院が多いと思います。
かなこ(Ns)
さぼ(ME)
なるほど。その期間で、透析患者さんとはどのような関わりをしたんですか?
看護師として行うのは、シャント作成術に関連した指導が中心になります。透析方法がまだ決まっていない患者さんとは、生活背景・家族背景・家の状態など、その人自身の環境を確認しながら、どちらがいいか本人や医師と話し合うこともありました。
かなこ(Ns)
さぼ(ME)
そうなのですね。透析は患者さんの生活にかなり影響を与えるので、そのあたりを患者さん・ご家族と一緒に相談することも、看護師さんとしては大事な仕事なんですね。
臨床工学技士×透析患者さん
さぼさんは透析クリニックで働いていますが、どんな仕事をしているのですか?
かなこ(Ns)
さぼ(ME)
病院でもクリニックでも、MEがやる仕事は基本的に大きく変わらないと思いますが、透析の準備から開始・終了まで、安全に行えるようにすることです。僕の勤務先は、看護師だけでなくMEも、医師の指示下でシャントへの穿刺を行います。透析開始から終了まで通しで関わり、1時間おきの血圧測定、装置チェック、アラーム対応なども行っています。
MEさんといえば、透析の機械を扱うイメージです。患者さんとはどのような関わりがありますか?
Fats(Ph)
さぼ(ME)
患者さんには、透析に使う透析膜(筒状の医療材料)の種類や、機械の設定などを説明しています。
それはどうやって決めるのですか?
かなこ(Ns)
さぼ(ME)
透析に関わる症状、血液データ、栄養状態を考慮して決めています。また、透析膜の種類によっては、まれにショック症状を起こす患者さんがいるので、透析膜を変えた場合などは注意深く観察するようにしています。治療や患者説明以外では、シャントエコーもやっていますよ!
シャントエコーって、シャントをエコーで撮るということですか?
かなこ(Ns)
さぼ(ME)
そうです。シャント血管をエコーで観察して、評価するんです。エコーで、シャント血管に流れている血流量を推定したり、血管径を測って血管狭窄などのシャント合併症のモニタリングをしたりしています。あとは、穿刺が難しい血管に対して、刺しやすい部位を決めるためにもエコーを使うことがあります。
MEさんは、治療に関わるだけでなくエコーも撮るんですね。初めて知りました!
Fats(Ph)
薬剤師×透析患者さん
さぼ(ME)
それでは、薬剤師のFatsさんはどうでしょうか? がん専門の薬剤師が透析患者さんに関わるイメージはあまりないのですが。
たしかに、透析に関わる機会は多くありませんね。今までの経験だと、急性腎不全を起こして透析が必要になった患者さんや、もともと透析をしていた患者さんががん治療のために入院してきたときなどに対応したケースがあります。
Fats(Ph)
さぼ(ME)
なるほど。
透析患者さんは、当然腎機能が低下しているため、通常の成人量による薬剤の投与は適しません。なので、必要な薬剤は透析スケジュールに合わせて用法・用量を調整する必要があります。また、緊急で透析導入するときには、使用中の薬剤を別の種類へ変更することもあります。
Fats(Ph)
さぼ(ME)
ほうほう
薬剤の投与をなぜ透析スケジュールに合わせる必要があるかというと、薬剤によっては、透析直前に投与すると透析で体内から除去されてしまい、効果がなくなってしまうからです。逆に、透析日に関係なく毎日投与してしまうと、薬剤がうまく排泄されず、体内に蓄積されて副作用につながる恐れもあります。
Fats(Ph)
どのような薬剤が除去されてしまうのでしょうか?
かなこ(Ns)
さぼ(ME)
そもそも透析は、血液中の老廃物や余計な水分を除去するための治療ですから、分子量が比較的小さい薬剤だと、尿毒素などと一緒に除去されてしまいます。他にも除去されやすい薬、されにくい薬は性質によってさまざまなので、わからなければ薬剤師さんに聞くのがいいですね。
薬剤の除去率には、薬の性質だけでなく、透析の方法や透析膜の種類も影響すると言われていますが、透析にあまり関わらない薬剤師は、正直あまり得意ではないところだと思います。薬剤の「透析性(透析による除去されやすさ)」に関しては、MEさんとうまく情報共有を図れるといいかもしれませんね。
Fats(Ph)
さぼ(ME)
そうですね。お互い得意な分野の知識は共有していきたいですね。ところで、教えてほしいのですが、薬剤は腎不全のステージによって調整されるのでしょうか?
そうですね。通常の透析の場合、体内の薬剤は自尿へ排泄されるので、腎機能のレベルを見ながら薬剤の量を加減します。あるいは、肝臓で代謝される類似薬に変更することで、副作用などのリスクを抑えることができるケースもありますね。
Fats(Ph)
さぼ(ME)
なるほど。患者さんの腎機能レベルや、薬がどの臓器で代謝されるかも重要なんですね。
透析導入と多職種連携
薬剤師さんは、薬について患者さんに説明しているイメージですが、他の職種との関わりはどうですか?
かなこ(Ns)
一番関わるのは、やはり医師ですね。医師とは、患者さんが使っている薬剤についてこまめに連絡をとり、必要に応じて処方変更を依頼しています。
Fats(Ph)
それはイメージできますね! THE・薬剤師って感じです。
かなこ(Ns)
また、今後使用すると想定される薬剤があれば、先回りして注意事項などの情報提供をすることもあります。「処方前に連絡をください」と処方医に一声掛けておくのも、円滑な治療を進めるために重要なポイントかもしれません。
Fats(Ph)
さぼ(ME)
なるほど。薬剤師さんも見えないところでいろいろ工夫されているのですね! では、医師以外はどうでしょうか。やはり看護師さんとの関わりが多いですかね?
そうですね。看護師さんは医師の次に関わることが多いと思います。透析前後の薬剤投与タイミングについては、とくに注意してもらう必要があるため、看護師さんに声掛けすることはとても大切です。透析を軸に、いろいろな薬の投与タイミングを決めていくため、実際に薬を扱う看護師さんに意識してもらうことで、患者さんへの意識付けにもつながるはずです。
Fats(Ph)
たしかに、透析をしている患者さんは、食直後の服薬があったり、透析日によって薬の飲み方が変わったり、さまざまですよね。「どの薬をどのタイミングで飲むのか」を患者さん自身が理解するのはとても大事だと思います。実際に私も、入院中の患者さんが自宅に戻っても自分で管理できそうかは気にしています。
かなこ(Ns)
患者さんのアドヒアランス向上には、看護師さんの関わりが非常に重要ですよね。あと、MEさんとも関わって、いいこともありましたよ。
Fats(Ph)
さぼ(ME)
えっ、本当ですか?
うちの病院ではあまり透析をしていないのですが、以前、さまざまな事情から透析導入をすることになった患者さんがいたんです。そのとき、仲良くしているMEさんが一報をくれたことで、透析剤や腎性貧血に必要なエリスロポエチン製剤の手配と在庫管理をスムーズに行えたことがありました。
Fats(Ph)
さぼ(ME)
ほうほう
薬剤師としては事前に対処できるので非常に助かりますし、薬の在庫管理を適正に行うことは、病院経営上のメリットにもなります。これも実は、チーム医療による恩恵かもしれません。
Fats(Ph)
さぼ(ME)
そうなのですね! これぞ「多職種連携」ですね。僕もいろんな職種の方と仲良くなりたいです。
まとめ
今回は、看護師、薬剤師、臨床工学技士の3職種で、透析患者さんとの関わりについて語り合いました。患者さんとはそれぞれで違う関わり方をしていますが、お互いの役割を知っているだけでも、スムーズな連携につながりそうです。職種間の情報共有で助かったというエピソードもありましたね。患者さんとの関わりはもちろん、多職種間での情報伝達・情報共有も大切にしていきたいですね。