「薬剤師」と聞いて、「知らない」と言う人はいないでしょう。
しかし、その仕事内容はよく知られていないようです。
なぜ、こんなにも知名度とのギャップがあるのでしょうか。
そんなことを考えながら、薬剤師が何を勉強していて、どんなことができる人なのかをご紹介します。
学生時代はただひたすらに「引き出し」を作っている
薬剤師は、その名の通り「薬の専門家」です。
ひと言で「薬」と表しますが、日本では現在、医療用医薬品だけでも2万品目ほどが承認されています。
いくらなんでも、これらを全部暗記する、というのはほぼ不可能だと容易にご想像いただけるかと思います。
では、薬剤師はいったい何を勉強しているかと言うと、もちろん、薬についての勉強をしているにほかなりません。
薬が作用するのは私たち人間の身体なので、大学では身体の構造や仕組みから覚えていきます。
最初は身体や内臓の部位の名前から、筋肉の名前、神経の名前、細胞の名前・・・など、直接触れる大きい部分から目に見えない小さい部分までを網羅していきます。
そして、そのひとつひとつが何をエネルギーに動いているのか、それが働くことで身体のどこに影響するのか、などを座学と実習(実験など)を重ねて学んでいくのです。
ある程度身体の仕組みについて理解してきたら、ようやく薬についての勉強が始まります。
それも、ただ薬の名前と働きを覚えるだけではなく、物理学、化学、生物学など、さまざまな学問を通して、薬の成分を多角的に捉えていきます。
また、同時に疾患についても、疫学から病態までを学び、ようやく「薬物治療」という全体像が見えてくる…という形です。
薬に関すること以外にも、衛生やコミュニケーション、情報リテラシーなど、薬剤師は学生時代にあらゆることを勉強しており、その内容を記憶の引き出しに保管しています。
引き出しの中には、細かい知識がたくさん詰め込まれているのです。
薬のスペシャリスト、そして医療のジェネラリスト
私の出身大学では「薬剤師はスペシャリストかつジェネラリストであれ」と教えられました。
当時は、その意味がよくわかりませんでしたが、今は少しわかるような気がします。
医師や看護師、セラピストなど、病院にはさまざまな専門資格を持ったメディカルスタッフがおり、おそらく自分が関わっている分野や領域に特化している人が多いのではないかと思います。
薬剤師にも同様に専門領域が存在しますが、ベースとして普遍的な知識を持っています。
そして、薬剤師は病院でも薬局でも、診療科によらず、同等の知識レベルや対応が必然的に求められています。
このことから、どの分野・領域であっても、薬剤師は理論的に捉えられると言えるのではないでしょうか。
しかし座学が多い分、いざ臨床現場に出たとき「知識と実際の現場での事柄とのすり合わせ」という作業にはかなりの時間と労力を使います。
大学でもう少し実務に即した内容に取り組ませてほしいと思う点も多々ありますが、これを弱みとせず、むしろ強みにしていけたら、薬剤師の活躍の幅はもっと広がるのではないかと思うのです。
薬剤師には計り知れないポテンシャルがある…?
皆さんは、「薬剤師に質問をしても、すぐに返事をもらえないことが多い」と感じることはありませんか?
「すぐ答えてくれないなら自分で調べればよかった」という患者さんの声も聞いたことがあります。
結論から言うと、質問に対して調べるのは「間違ったことを伝えてしまったら困るから」なのですが、お待たせしている間に1から調べているのではなく、自分の中に浮かんだ答えの裏付けを確認する、という作業をしています。
はじめに、「引き出しを作っている」という話をしましたが、私たち薬剤師は、何かを調べるとき、まずはその知識がどの記憶の引き出しに収納されているのか、見当をつけて開けていきます。
感覚的には、自宅のタンスを開けて中身を確認するのと似ているかもしれません。
その記憶の確認作業をするために、ガイドラインなどで標準治療を見たり、薬のデバイスの使い方を調べたり、薬の添付文書やインタビューフォームを読んだりしているのです。
もちろんこれらの情報は、誰でも、もちろん医療従事者でなくても、Google検索などで調べれば見ることができるものもあります。
しかし、整備されつつあるとはいえ、検索結果の一番上には広告記事が出ますし、公的な情報の中に裏付けのない情報を掲載しているサイト等もたくさん出てきます。
そのなかから、短時間で正しい情報だけをピックアップし、専門的な内容を薬をよく知らない人にもわかる言葉で伝えることができるのが、薬剤師だと思っています。
簡単に説明しているように見えても、その後ろにはたくさんの知識が隠れているのです。
まとめ
薬剤師は、他職種と積極的に関わっていきにくい環境に置かれていることも少なからずありますが、今後連携する機会が増えたら、きっと役に立てることがたくさんあるはずです。
私たちももっと頑張らなくてはいけませんが、ぜひ、困ったときは薬剤師にも頼ってほしいと思います。